マルチネレコーズはインターネットで生まれた日本の代表的なネットレーベルである。設立は2005年。当時15歳の高校1年生が始めた。今では100を超えるタイトルをアーカイブし、TofubeatsやOkadadaなど数多くのアーティストを擁している。
レーベルのコンセプトは純粋にして明快だ。ダウンロードは無料、ライセンスはクリエイティヴ・コモンズ(表示-非営利)。ダンスミュージックがメインで、アーティストも20代前後で若い。ネット音楽というとニコニコ動画やボーカロイドのイメージが強いが、独自のスタンスで独自のファン層を獲得している。
驚きはこのレーベルの開発したiPhoneアプリ(App Store)だ。
現在公開されている100を超えるタイトルすべてが、オンデマンドでストリーミング再生可能。もちろんアプリも無料。IDの登録も不要だ。日本の大人たちが、眉間にシワ寄せ、未来に商業音楽をつなぐ一縷の望みとして音楽クラウドを語っている一方、インターネット世代は勝手に自分たちで音楽を作り、それを成し遂げてしまったという痛快さがある。
今回はそのマルチネレコーズの設立者であるTomad(トマド)さんにお話を伺った。
今の技術を最大限に活かして、面白いことをやりたい
―― このアプリって、いわゆる音楽クラウドのクライアントですよね?
Tomad ダウンロードしてないんで、全部ストリーミングなんです。いちいちダウンロードさせるのも容量の無駄だと思って。それにネット環境のあるところだけで聴けるというのも、ネットレーベルっぽいし。
―― アプリのプログラミングは?
Tomad 僕じゃないんですけど、かつてのclub VIPまわりの人ですね。2ちゃんねるのVIP板で、クラブミュージックを流すネットラジオがあったんです。そこでVIPPERで、DJとかしている人がいて。なにかiPhoneアプリを作ってみたいと思っていたら、「最近iPhoneアプリの制作を始めたから試しに作ってみよう」って。
―― 試しで作った割には画期的な完成度ですけど。
Tomad これからガジェットって進化していくと思うんですけど、それに合わせて、使う方の楽しみ方も上がっていった方が面白いと思うんです。音楽はそれにすごい向いている、みんなで楽しめるツールだと思うし。今の技術を最大限に活かして、面白いことをやりたい。
―― ただ、かなり前からこういう形で音楽を楽しめる環境は揃っていたんですが、それが権利やレーベルの恣意でできなかったわけです。そこに無料の音源を用意して、ここにまでに至ったということが、僕にはすごく痛快に見えるんですけど。
Tomad 僕がレーベルを始めた頃にCCCDの問題なんかを見ていて、どうも日本のメジャーレーベルは面白いことをしないんだなと思っていました。そういった部分での苛立ちが根底にあって。もしSoundCloudみたいなのが日本から出てきたら、そういう会社に就職したかった。けど出ないしなぁ、みたいな。どこも面白いことをやらないから、自分でやるしかないのかなって。
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