SMB(Small Medium Business)や部門での利用を前提としたデスクトップ型のストレージが今熱い! バッファローを筆頭に、長らく市場をリードしてきた周辺機器ベンダーに、海外ベンダーが殴り込みをかけている。ここではレベルの高い最新製品の魅力を追う。
SMB市場にテラステが与えた影響
従業員300名以下のSMBにおいて導入可能なNAS(Network Attached Storage)製品が登場したのは、今から約7年前の2004年にさかのぼる。製品はご存じバッファロー「TeraStation」の初代モデル「HD-HTGL/R5」だ。RAID5やギガビットEthernetに対応したNASが、1TBで約10万円というのは、当時としてまさに衝撃的な価格であった。また、デスクトップ型筐体の採用によりオフィスに手軽に置けるようになっていたり、USBポートを用いて別途ストレージを外付けできるといったユニークな点もあった。10万円を超える「周辺機器」でありながら、発売当初は量販店から品物がなくなるという珍しいことも起きた。
この理由は、あきらかに価格だ。当時NASといえば、100万円を超える高価な製品が多く、SMBの事業者ではまったく手が届かなかった。そのため多くのSMBユーザーは、既存のPCをファイルサーバーとして利用していた。だが、ファイルサーバーに特化しているわけでもないため、運用性も悪く、性能面でも課題を抱えていた。また、Windowsサーバーの場合、既存のNASと異なり、ユーザーごとのアクセスライセンスが必要という点も障壁であった。こうした現状があったため、多くのビジネスユーザーが個人向け製品として販売されていたTeraStationに飛びついたわけだ。
その後、周辺機器ベンダーをはじめ競合ベンダーも次々参入し、同製品を中心にSMB向けのストレージ市場が急速に立ち上がってきたのは、ご存じのとおりだ。
テラステショックから5年。製品は大きく進化
さて、こうしたテラステショックから7年が経ち、SMB市場のユーザーニーズや製品には大きな変化が現れてきた。
まずユーザーニーズは、データの大容量化で大きく変わりつつある。初代TeraStationが登場したときは、なにより低価格でRAID対応のNASが手に入るというだけで価値があった。まして容量は1TB超。多くのユーザーは、これで当分は十分と考えたに違いない。しかし、HDDのテラバイト化、そしてユーザーデータの大容量化が進むと共に、性能と信頼性が要求されるようになった。
当たり前の話だが、データ満載の1TBのHDDが故障したら、1TB分のデータが失われることになる。そのため、多少HDDの効率を犠牲にしても、データ保護を可能にするRAIDは必須となっている。これは初期の製品で容量優先だったデフォルト設定が、データ保護機能を持ったRAID1や5に変化している点からも伺える。また、ユーザーデータがテラバイトクラスになると、転送速度もきわめて重要になる。会社で使う限りは同時アクセスでパフォーマンスが劣化する製品は導入しにくい。
しかし、TeraStationを含め、初期の製品ではコンシューマを前提に低価格を実現するため、ハードウェア面にやや難を抱えていた。低速で発熱の多い組み込み向けCPU、容量の小さなメモリ、騒音を発する冷却ファンなどを採用していたのだ。
だが、現在では企業での利用を前提に、ギガビットの帯域を十分使い切るくらい高いパフォーマンスを実現する製品も珍しくない。これはAtomをはじめとした安価な省電力プロセッサが登場したことと大きく関係している。また、最新のNASではHDDのホットスワップ・ラッチレスの交換も一般的になっており、メンテナンス性も高い。その他、静音ファンや省電力電源の採用、動作確認用ディスプレイ搭載といった改良も施されている。
もちろん、企業が必要とする機能の強化もきちんと行なわれてきた。代表的なTeraStationの例を見ればわかるが、2台のHDDが壊れても復旧が可能なRAID6サポートやActive Directory対応、ウイルスチェック機能やレプリケーションなど高価なNASも顔負けの高機能を搭載している。導入や設定を行なうWeb GUIツールに至っては、高価なミッドレンジストレージよりも使い勝手がよいに違いない。
「男子三日会わざれば刮目して見よ」という言葉もあるが、初期型のNASを用いているユーザーが最新のSMB向けNASを使えば、そのパフォーマンス、機能、保守面に驚くことは間違いない。
新興ベンダーの登場!製品のハイエンド化
次に市場の変化を見ていこう。SMB向けNASの市場で現在起こっている1つの動向として、新興外資系ベンダーの新規参入を挙げたい。従来、SMB向けNASといえば、バッファロー、アイ・オー・データ、ロジテック、ネットギアなどPC周辺機器ベンダーの独壇場であった。しかし、ここ2年でQNAP、シーカス、データロボティックス、PROMISEテクノロジーなど高速・高機能を謳う製品を展開する新興ベンダーが続々と参入している。
彼らの多くは、最新のHDDをユーザー自身で取り付けることでNASとして機能するNASキットとして製品を展開しており、拡張性や自由度の高さを求める自作系ユーザーを取りこんでいる。これらの製品は、単にNASだけではなく、Web・FTPサーバーやメディア配信サーバーなどの実に多彩な機能を持っている。こうしたマルチファンクションな製品の登場により、既存の周辺機器メーカーを含めた、激しい市場争いになっている。
こうしたSMB向けNAS市場におけるもう1つの動向は、製品のハイエンド化である。もとよりSMB向けNASは、HDDを2~4台程度搭載するデスクトップ型製品が主流で、価格も20万円程度が上限であった。容量も8TBが上限で、これ以上を実現するとなると、別の筐体が必要だった。しかし、昨今はより台数や容量を拡大したSMB向けハイエンドNASが続々と登場しており、ラックマウント型モデルも増えてきた。これは多くのベンダーが分析するとおり、20万円以上~100万円以下という企業向けNAS製品が少なく、市場的にちょうど「空いている」からにほかならない。
SMB向け製品もハイエンドモデルになると、性能や容量だけではなく、さまざまな機能が求められる。たとえば、コントローラや電源、ファンの二重化、VMwareなど仮想化ソフトウェアへの対応、レプリケーションやスナップショットなどデータ保護機能が必要になる。今後、SMB向けハイエンドNASに注目したいところだ。
注目は「拡張RAID」と「iSCSI」
最新のSMB向けNASのトレンドとしては、まず「拡張RAID」が挙げられる。複数のHDDを束ねてデータ保護を実現するRAIDは、NASやディスクアレイ装置の基礎技術であるが、古い技術だけにさまざまな制約がある。複数台の故障に対応できない、RAIDレベルの変更が面倒、異なるメーカーのHDDでディスクアレイが構成できない、リビルドに時間がかかるなど。そのため、RAIDを拡張した独自の機能でこうした制約を克服するという動きが見られる。
もう1つはiSCSIのサポートだ。IPネットワーク上にSCSIコマンドを送受信し、SAN(Storage Area Network)を構築するiSCSIは、昨今サーバー仮想化やバックアップストレージの用途で需要が高まっている。iSCSI自体の歴史はかなり古いが、OSでのサポート強化やソフトウェアレベルの高速化などにより、いよいよ導入の現実味が出てきたということだろう。担当も以前、iSCSIのNASで調べたところ、通常のファイルサーバーの転送速度に比べて高いパフォーマンスが実現されており、利用価値の高さを体感した。
その他、USB3.0ポートの搭載、ディスクスピンダウンへの対応、クラウドサービスとの連携など、最新のSMB向けNASはますます進化を続けている。特集内のレビューや取材記事、ニュースなどを参考に、最適な製品を選定してもらいたい。

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