5億円のギャンブルはなぜ成功したのか
「鋼の錬金術師」プロデューサー、次の狙いは?【前編】
2011年02月05日 12時00分更新
「ハガレン」海外ファンの反応
田口 アニメの最終回は海外で見たんですよ。ちょうど海外の大きなファンイベントの時期で、せっかくだから海外の子たちにも日本と同じ日に最終回を見てもらおうと上映したんです。パリの「Japan Expo」とロサンゼルスの「Anime Expo」。最終回を作っているのと並行して、フランス語と英語の字幕スーパー版を作って持って行ったんですね。
―― 最終回は日本と同日に上映したんですね。海外ファンの反応はどうでしたか。
田口 僕はパリに行きました。上映が終わった後にスピーチをして、そうしたら、ワーッと拍手が起きた後、1人ずつポツポツ立っていって、最後は全員総立ち。これがスタンディングオベーションかと感動しました。本当に、これはたまらんわと。
やっぱりいつもは、見ている方々の反応って分からないんですよね。それで結果的に視聴率とか、コミックの売り上げとかの数字で見ているんですけど。劇場版公開のときにも世界中を回ったんだけど、映画だと、舞台挨拶のあと後ろの席に行くとお客さんの反応が見られるんですね。目の前でファンの子が喜んでくれるのを見られたのは、非常にうれしかったです。
(C)荒川弘/スクウェアエニックス・毎日放送・アニプレックス・ボンズ・電通 2003
―― 海外のファンの反応が見られたこと、ファンの反応をダイレクトで見られたこと、その両方がうれしかったわけですね。
田口 両方ですね。何でこういう商売に就いたのかという話になると、僕に限らずみんなやっぱり、自分が小さいときに何らかのエンターテインメントコンテンツが好きだったと思うんですよ。僕はジュール・ヴェルヌから始まって、アレクサンドル・デュマとかの海外文学が好きで。
海外文学のように、フランス人が書いたものが、アメリカでも日本でも受けるということがある。自分が作ったものが世界中の子供たちに受け入れてもらえる、そういうものをやりたかったんですよ。僕の原点はそこですね。
―― 海外で見てもらうことで、広がりが出ますね。
田口 うん。広がりと、「記憶に残るかどうか」。記憶に残るものを作りたいんです。
たとえば今の僕の年齢で、49歳というと「がきデカ」とか「マカロニほうれん荘」がすごく心に残っている。ギャグは旬のモノだから、今読んでもギャグ自体はあんまり面白くないんだけど、読み返すと当時がよみがえるんですね。そのころ一緒にマンガを見てゲラゲラ笑い合っていた友達とか。そういう子どもの頃の記憶を全部思い出す。子供向けのコンテンツって、やっぱり思い出とセットなんですね。
そういうのは、いつの時代、どんな作品も変わらないと思うんです。
うちの作品で言えば、「黒執事」のお客さんも、「PandoraHearts」のお客さんも、きっとそうなんだろうなと。心に引っ掛かるものが、お客さんごとにそれぞれあるでしょう。萌え系にしたって、これだけ萌え系の作品がある中でも「あの作品は覚えている」って、多分あるはずなんですよ。キャラクターの誰かに感情移入しちゃったり、恋しちゃったりね。
そうなると、「次」をどうするか、ですよね。
―― 次、ですか。
田口 「ハガレン」が当たったこともあって、ここ10年間というのはうちの出版部門はずっと伸びっぱなしだったんです。じゃあ、「ハガレン」の後をどうするのかという話ですよね。それは現場でも、去年おととしぐらいから言っていますけど、「ハガレン」を終えるのはもう決まっていたわけですから。
―― 次に行くには、何が必要だと思いますか。
田口 やっぱりビジネスサイドと、クリエイティブサイド、その両方の視点が要ると思うんです。
(C)荒川弘/スクウェアエニックス・毎日放送・アニプレックス・ボンズ・電通 2003
(後編に続く)
■著者経歴――渡辺由美子(わたなべ・ゆみこ)
1967年、愛知県生まれ。椙山女学園大学を卒業後、映画会社勤務を経てフリーライターに。アニメをフィールドにするカルチャー系ライターで、作品と受け手の関係に焦点を当てた記事を書く。日経ビジネスオンラインにて「アニメから見る時代の欲望」連載。著書に「ワタシの夫は理系クン」(NTT出版)ほか。
コミック&DVD発売情報
「鋼の錬金術師」原作コミックは全27巻。井上真氏によるノベライズも7巻まで発売中だ。DVD&Blu-rayはともに全16巻。今年7月には劇場版最新作「鋼の錬金術師 嘆きの丘の聖なる星」も公開予定。5月22日には先行して、オフィシャルイベント「鋼の錬金術師FESTIVAL」も開催される。いずれも詳しくは公式サイトから!
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