スマートフォンで揺らぐ「リア充」の定義
松村:大学といえば、スマートフォンに絡んだ面白い変化もあります。僕は毎年、SFC(慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス)の授業で「あなたは『リア充』※、それとも『非リア充』という質問をしているんです。
去年までは「私はサークル入ってるから『リア充』です」とか「家に帰ってチャットにすぐにログインしているから『非リア充』、ネット充です」といった区分けがはっきりしていた。でも、今年になったら「リア充と非リア充の境目が分かりません」という意見が増えてきたんです。
去年までの傾向を伝えた上で「じゃあ自分はどう?」と聞いたんですが、「サークル2つ入っているけど、思いっきりネットゲームにハマっているからどっちなんだろう?」とか。
※リア充 リアルが充実している人のことを指すネットスラング。
遠藤:それは「リア充」でしょう。必要条件を満たしているから。
松村:そう区分けすると結局、全部「リア充」寄りになるんですよ。ネットも活用しているんだけど、「リア充」属性もあるといった感じで、境目がなくなってしまった。
遠藤:みんな彼氏・彼女がいるの?
松村:みんなというわけではないんですが、去年まで「彼女がいない」と主張していたような属性の人でも、付き合ってる人がいるということもありました。
── その理由は何ですか?
松村:もちろんいろいろな社会変化が影響しているんでしょうが、SFCキャンパスに限って言えば、今年からスマートフォンの利用を勧める「推奨スマートフォン制度」を導入したことと、Twitterの普及率が40%から80%に上がったことが、大きな変化です。スマートフォンとテル型メディアの普及で、リア充の定義が曖昧になったという。
スマートフォンがあれば、パソコンを置いている場所に行かなくてもネットにつなげちゃうから、リアルに割く時間ができるのかもしれません。
遠藤:「スマートフォンで彼女をゲットしろ」という話ですかね。でも一人の人間が持っている時間って一定だから、あり得る話かも。「帰ってブログ更新しなきゃ」ってやる代わりにスマートフォンでブログを書いてたら、街角で出会い頭に女の子とぶつかって「あら」みたいな。
一同:(笑)
松村:逆にパソコンでネットに参加できなかった人たちも、スマートフォンが普及したことで帰りの電車で普通にTwitterなどができるようになっている。そっち側からの歩み寄りもあると思います。
遠藤:アスキー総研の調査でも似たような話があった。iPhoneユーザーは、20代、30代、40代の順で買っている人が多くて、そのうち20代における休日のデート率を見てみると17、18%くらいなんです。一方で、従来のスマートフォンやPDAのユーザーのデート率が高かったとは思えない。Androidはこの調査の段階では参考にしてよい数字までユーザーがいませんでした。
iPhoneユーザーは、デートもしているし、キャリアアップ志向も強い「リア充」系が多いんですよね。いろいろなiPhoneユーザー層がいるんですが20代は、ちょっと新しい。簡単にいうと、今までだったらデジタル機器を買っていなかった層が、iPhoneなので買っている。
── その層はタブレット端末には入ってこないんですか?
遠藤:前の方でも出てましたが、タブレット端末は使い方がまだ一定してないんですよ。iPhoneなら電話ができるし、移動しながらメールも書ける。「これで得られるものは何か」というのが分かるんです。でもiPadのメリットはまだ分かってなくて、これから評価することも多い。
今の若人は賢くて、必要なものしか買わないという理由もあるでしょう。でも、メリットがわかればiPadも手に入れると思いますよ。今回の松村さんの本は、まさに180度のコミュニケーションやテル型メディアというものが、タブレット型端末とクラウドの間で何を生み出すのか? そうしたビジネスや社会のこれからの変化のヒントが詰まっていますね。