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まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第4回

Kindleで英語版コミックスを販売中

個人電子出版の可能性──マンガ家 藤井あや氏に聞く

2010年05月21日 09時00分更新

文● まつもとあつし

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電子書籍制作は従来のマンガ制作と変わらない

――制作環境と制作手順を教えていただけますか?

藤井氏の公式サイト「AYA Digital Comics」では、Kindle版完成までの試行錯誤の様子が記されている

 今回Kindleで出版した漫画はアナログ原稿でしたので、600dpiでスキャンしたものをPhotoshop CSで手直ししました。

 今はネーム以外フルデジタルで描いています。下絵~ペン入れまではSAI、仕上げのグレスケ塗り~トーン貼りはPhotoshop CSとパワートーンです。

――特に制作で苦労された面などはありませんか?

藤井 漫画データをほぼそのまま使えますので、苦労というほどの苦労は特にないです。

 強いて言えば、今の段階ではKindleで漫画を全画面表示(余白なしで画面いっぱいに表示)することができず、台詞や細かな文字が潰れて読めなくなってしまうので、そのあたりの細かな調整が必要です。オーサリングに少し手間がかかるのが難点ですね。

参考:藤井氏の制作環境

PC/自作、液晶タブレット/Wacom Cintiq 21、スキャナー/EPSON ES-10000G、プリンター/EPSON PX-G5000、レーザープリンター/brother JUSTIO


変わる出版社・編集との関係とプロモーション

――出版社を経由して書店販売する際との違いは何でしょうか?

藤井 執筆・発売スケジュールや価格など、すべて自分で自由に決められることです。いまは家事の都合もありますので、これはありがたいですね。

 紙の出版物にも今まで通り取り組みたいと思います……といっても商業誌で沢山の方と一緒にやるお仕事は控えめにすると思いますが。

 電子書籍単体ではまだまだ実験的な取り組みであるので、十分な収益が上がっているとは言えませんが、可能性を感じています。紙媒体やそのほかの活動とトータルで考えるとプラスですね。


ソーシャルメディアでのセルフプロモーションがカギ

――編集者や出版社の営業のサポートが欲しくなる場面はありますか?

藤井氏のタイムラインは、ファンや電子出版に興味を持つ人たちとの交流でにぎわっている。Amazon DTPへの作品登録作業の実況など、後続の参考になるつぶやきも多い

藤井 今のところ実験的に小規模でやっているだけなので必要ありません。

 けれども、他のメディア展開をしたり紙媒体と連動して書店フェアをしたり、より多くの読者さんを相手にしたりと、仕事の規模が大きくなるにつれてサポートは必然的に必要になると思います。

 営業という面では電子書籍方面において個人で動く場合、ソーシャルメディアでのセルフプロモーションが非常に重要だとKindleで出版をして感じました。

 Facebookでは個人広告を安価で出せる「広告キャンペーン」というものがあるんです。試しに私も自分の漫画のKindle版紹介ページをFacebook内に作って広告を出してみたところ、短期間にも関わらず沢山の方に見て頂けて嬉しかったです。

藤井氏が展開したFacebook広告の管理画面。Googleの検索連動型広告と同様に、Facebookでも、100円単位で対象を細かく設定して、効果を確認できる。約18万回の表示があったという


発売日にアメリカの読者から感想が届く

――読者からの評判はどうでしたか?

藤井 国内の読者や関係者からはなんだか驚かれてしまいました(笑)。海外の方では、前日Amazon DTPにアップロードした漫画が、翌朝にAmazon.comで販売開始され、その日の昼ごろにはアメリカの方からツイッターで「面白かった!」と感想を呟いていただけたりして、リアルタイムで見ていて感激しました!

――電子書籍のポテンシャルをまさに体感されているところですね。今後の目標を聞かせてください。

 かつて雑誌が廃刊になって続きを描けなかった漫画があるのですが、まずは年内に、こちらの完成版を個人出版するところから始めようかと思っています。

 ある程度見通しがたったら、表紙デザインやタイトルロゴをお任せできるデザイナーさんや、本によっては編集をお任せできる方を探したいと思います。

 同人と商業の中間のような、個人出版活動が出来たらいいなと考えています。

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