Kindleで英語版コミックスを販売中
個人電子出版の可能性──マンガ家 藤井あや氏に聞く
2010年05月21日 09時00分更新
ガラケーコミックとの違いは「全体表示」と「所有の感覚」
――著者の視点で見た、従来の携帯電話(いわゆるガラケー)向けコミックとの違いは何でしょう?
藤井 携帯コミックの場合、小さな画面にページ全体を表示しても読めないので、現状ではコマごとに分割して表示せざるを得ません。それに対してKindleは1ページ丸々を表示することが可能です。
作中のセクシーなシーンには修正が必要な場合があります。携帯コミックの場合は、1コマ全部の絵が消されてしまうこともあり、文字だけのコマが延々続いてしまう……ということもよくあるんです。
Kindleであれば、そういうこともなく、より自然にストーリーを楽しんでもらうことができます。紙の本に比べると、見開き表示まではできないという弱点はありますが、よりそれに近い感覚で読んでもらえているのではないでしょうか?
もう一つ大きいのは、Kindleであれば、「ダウンロード」していつでも読んでもらえるということです。
それに対して、携帯コミックは会員登録した上で、専用ビューワで「ストリーミング」で読むことになります。ダウンロードができる場合でも期間が決まっていたりして、どちらかというと「本をレンタルしている」という感覚が拭えないのではないでしょうか?
Kindleの「本を所有している」という感覚は大きいと思います。
iBooksは「キスシーンすら“ない”のに審査に通らない」
――表現規制が話題になっていたりしますが、iBooksなど他の電子書籍プラットフォームへの展開の予定はありますか?
藤井 残念ながら、iBooks向けは当面ないと思います。北米のボーイズラブ作家さんが、「キスシーンすら“ない”のに、審査に通らなかった」と嘆いていましたから……。
Appleは水着さえNGとなっており、倫理的にストイックすぎると感じています。これでは日本で「一般向け」に流通している漫画も展開が難しいのではないでしょうか?
Androidマーケットの可能性は?
――確かにボイジャーが手がけた講談社のマンガ作品の3割がAppleの審査に通らなかったという記事(Builder by ZDnet Japan:電子コミック「働きマン」が配信拒否になった理由――電子書籍時代の検閲)も話題になっています。そうなると、こと後審査がウリのAndroidマーケットも魅力がありそうですね。
藤井 はい、今夏発売予定の「Alex eReader」のようなAndroid OS搭載の電子書籍端末とプラットフォームに期待しています。
Androidマーケットは24時間以内に返品可能と書籍販売には向いていませんが※、Androidの場合は「Market Place SDK」を使って独自マーケットサイトの構築が可能になり、返品ルールなども自ら設定することができるようになります。
編注:Androidマーケットのシステムでは、“24時間以内に読み終わったら返品する”を繰り返すことで、すべての書籍が無料で読み放題になってしまいかねない。
個人で気軽に電子書籍を販売できるプラットフォームが出来たり、「個人電子書店」のようなものを持てるようになったらとても面白いと思います。
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