弥生はSaaSに取り組むことで、機能の複雑化による敷居の高さ、アプリケーションが業務ごとに分断されているという弥生シリーズが抱える課題の解消を狙う。それでは、複数のSaaSプラットフォームがある中、弥生はなぜWindows Azureを選んだのだろうか。
前回は弥生がなぜSaaSに取り組むのかについてお話しさせて頂きました。出発点として、これまでとは異なる新しいアプリケーションを開発したいという思いがあり、そして今から開発するのであれば、クラウドを中心に、ローカルの良さを組み合わせたアーキテクチャーを採用すべきと考えたというわけです。決して「はやりだから」という軽い理由ではないことがお分かり頂ければ幸いです。それでは、なぜWindows Azureなのでしょうか。
実はここはかなり単純です。連載第4回(関連記事)でリファクタリングとともに、開発環境の見直しを行なったことをご紹介しました。すでに弥生では開発環境をVisual Studio 2008 SP1(VS2008)に移行済みです。さらに最新のVisual Studio 2010の採用も視野に入っています。また、アプリケーションの.NET化も進めており、新規のモジュールについてはC#+.NET Framework 3.5 SP1で開発しています。
ちょっと話がそれてしまいますが、最近買ったPCソフトでも、何だか古いUI(ユーザーインターフェイス)だな、と感じられたことはありませんか?下手をすればDOSのようだったり、Windowsでも95時代の雰囲気であったり。
これにはいくつかのパターンがあります。1つは単純で、進化を止めてしまったケース。場合によっては、当初開発したエンジニアもいなくなってしまい、最小限の保守しかできないというケースもあるでしょう。もう1つは、進化は何とか続けているけれども、過去の遺産にしばられているケース。今でこそ、.NET Frameworkがありますが、その前はMFC(Microsoft Foundation Class)というクラスライブラリが一般的でした。MFCをベースに、自社でライブラリを作り、その上で様々なアプリケーションを作る。これは、あるところまでは大きなアドバンテージでしたが、その後.NET Frameworkに移行できていないというケースが多いのです。
.NET Frameworkの当初のバージョンは重いという課題もあり、なかなか利用が進みませんでした。ただ、現在の.NET Frameworkは改良も進み、重いという課題もだいぶ解消されてきました。今後もWindows上で新しい技術に対応しつつアプリケーションを発展させていくためには、.NET Frameworkへの対応は避けて通れません。実際、Vistaでは.NET Framework 3.0が、そして今回の.NET Framework 3.5 SP1はWindows 7で標準インストールになっており、今後のWindowsアプリは.NET Frameworkが前提となっていきます。
こういった背景もあり、弥生はVS 2008上で、C#+.NET Framework 3.5 SP1の開発へと進化したわけですが、この環境は、まさしくWindows Azureで推奨される開発環境です。つまり、現行の弥生シリーズ向けと、SaaS向けで開発リソースを共有することができます。弥生SaaS(仮称)の開発は専任のチームで進めていますが、開発環境が同じですから、人の行き来も可能です。
もちろん、.NET Framework上で開発したコードに関しては、可能な限りSaaSとデスクトップアプリケーションの両製品で共有をしていきます。デスクトップアプリケーションで再開発したモジュールをSaaSでも利用したり、あるいはSaaSで新規開発したモジュールをデスクトップアプリケーションの新機能として活用することも可能になります。
もう1つWindows Azureのメリットを挙げると、RIA(Rich Internet Application)プラットフォームであるSilverlightとの親和性が高いことがあります。業務ソフトに期待される使い勝手を実現するためには、ブラウザーベースではなかなか難しく、これを解消するのがRIAというアプローチです。リリースされたばかりのSilverlight 4.0では、たとえば右クリックも可能となっており、デスクトップアプリケーションに近い使い勝手を実現できるものと考えています。
ご承知のように、弥生は現在Windows上で動くアプリケーションしか提供していません。現在採用を進めているテクノロジーは、Windows Azureはもちろん、VS2008、.NET Framework、あるいはSilverlightとマイクロソフト・テクノロジーのオンパレードですから、弥生のマイクロソフト化がますます進んでいると思われるかもしれません。これは一見正しいのですが、実は別の見方も成立します。.NET FrameworkにはMonoというオープンソースプロジェクトによる互換環境があります。また、SilverlightはMac OS Xにも対応しています。実現に向けては、正直まだまだ障壁はあるのですが、Windows以外のプラットフォーム対応という夢も広げることができるのです。
次ページ「弥生SaaSの今後」に続く
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