日本電信電話(株)のNTTサイバーコミュニケーション総合研究所およびNTTサイバーソリューション研究所は31日、東京・竹橋の学術総合センター 一橋記念講堂で“第4回 NTTコア技術シンポジウム”を開催した。“人とロボットがつながる次世代電脳空間”というテーマで、会場では人間とロボットの関係性を“距離感”と“個性/感情”の2つのテーマで語るトークセッション、およびデモ展示が行なわれた。
東芝の研究開発センター技監の土井美和子氏 | 国際電気通信基礎技術研究所(ATR)の知能ロボティクス研究所 所長の萩田紀博氏 |
特に2番目のトークセッションでは、リアルなアンドロイド/ジェミノイド(遠隔操作できる自分そっくりのヒューマノイド)を開発した大阪大学の石黒 浩教授と、アニメ“攻殻機動隊”の脚本などで知られるプロダクション・アイジー(株)(Production I.G)の櫻井圭紀(さくらいよしき)氏が登壇して、会場を盛り上げた。
大阪大学の石黒 浩教授 | Production I.Gの櫻井圭紀氏 |
“ホールの対人距離論”をIT機器に当てはめると?
最初のトークセッションは、(株)東芝で“生活支援ロボット”の開発に携わった研究開発センター技監の土井美和子氏と、(株)国際電気通信基礎技術研究所(ATR)の知能ロボティクス研究所 所長の萩田紀博(はぎたのりひろ)氏が登壇。人とロボットの“距離感”について、文化人類学者のエドワード・ホール(Edword T.Hall)の“対人距離論”をIT機器に当てはめながら例に挙げ、恋人同士の距離と言われる“密接距離-近接層”では音声通話の携帯電話、フォーマルな会話や個人的でない話題をやりとりする距離“社会距離-近接層”ではTV会議などとした。これらに対してロボットは、自律移動することで人との距離感を自由に変えられる。これはインターフェースを設計する上で大きな変化だという。
ホールの対人距離論をIT機器に当てはめたところ | ロボットの誤認識を許容する人間側の姿勢も、ロボットとの距離を縮めるために必要と説明 |
また、物理的な距離だけでなく心理的な距離感にも言及し、ロボットの誤認識(音声や画像の識別ミス)をユーザーが許容する仕組みが重要と語る。「例えば、0~2歳児を相手にしていれば、言い間違いでもにこやかに許容できる。特に高齢者ほどその傾向が強い。ロボットも同様で、何度か繰り返しているうちに正しいコマンドになり、そのやりとりを経て親和性も高まる」と実験結果を示しながら、持論を展開した。
自分そっくりのロボットに触れられると「自分も触られた気になる」
2回目のトークセッションでは、アンドロイドロボットの知覚研究基盤の開発に携わる、大阪大学大学院 工学研究科知能・機能創成工学専攻教授の石黒氏と、Production I.Gの櫻井氏が登壇し、ロボットの個性や感情、人とのつながりについて、石黒氏の開発した人間そっくりのアンドロイド“Repliee Q2”や自分のコピーロボットというジェミノイド、あるいは攻殻機動隊に登場するキャラクターや設定などを引き合いに出して、人間型ロボットと人間の間に横たわる哲学的な課題(存在とは? 人の権威とは? 心と体の分離は可能か? 自我とは何か?)などに踏み込んで熱っぽく語った。
石黒氏は、自律型ロボットにおいて“人間に酷似した見かけ”の必要性を繰り返し、見た目にも人そっくりの人型ロボットと対話を続けることで、次第に人間と会話しているのと何ら変わらない世界に引き込まれることを自らの実体験を踏まえて説明した。石黒氏によると、氏とそっくりな遠隔操作型ロボット“ジェミノイド”(双子の意味)と5分程度対話していると、自然に会話できるようになるという。
子供型ヒューマノイドロボットが怖く見える理由は、ヒューマノイドロボットを人間に近づけると、ある一点を超えた時に“かわいい”と見えた形態が突如“不気味”に見える“不気味の谷”が存在するという。それを超えて人間に近づけると、Repliee Q2のようなヒューマノイドロボットになるという |
さらにいたずら好きな学生がジェミノイドの顔を突いたりいじったりすると、いつの間にか遠隔操作している石黒氏も顔を背けるようになったり、実際には触られていないのに不愉快な触感を得るようになり、逆に秘書に触られると、何とも言えないメンタルな情報共有が得られると述べた。これは自分を外から見ていると、感覚などのフィードバックがないにも関わらず、視覚からの情報で疑似体験してしまうというもので、身体の適応、情報共有として非常に興味深いという。
しかし、いくら外見を人間そっくりにしても現在の工学技術では自律型ロボットにも限界がある。特にしゃべること、対話することが難しい課題であり、ボトルネックになっているという | そこで、開発したのが遠隔操作によって声や顔の動きなどを本人が演じる“ジェミノイド”だという。右は石黒氏が自らコピーロボットを作って実験しているところ |
櫻井氏は、攻殻機動隊シリーズの最新作のサブタイトルである“スタンドアロンコンプレックス”について、「これは個(スタンドアロン)が集まった状態(コンプレックス)という現代の世相を示すとともに、個でいたいと希望しながらも内面では不安感を抱く(コンプレックス)、という2つの意味を込めている」「こう発想した理由のひとつには2ちゃんねるもある。あれは書き込んでいるお互いは知り合いでもないはずなのに、なぜかスレッドごとに流れのようなものがあり、自由に書き込めるのに自然と周りの流れに乗ってしまっている、何か別の位相がかいま見えるように感じた」と説明。アニメの世界でてくるキャラクターたち(脳以外は機械化されたサイボーグなど)も、個であると同時に集まりたいという意志や希望が背景に流れていることを説明した。
いたずらされる石黒氏のジェミノイド。このとき石黒氏本人には、痛みや触感は伝わっていないにもかかわらず、実際に顔を背けたりほおに不快な感覚があったというから不思議だ |