Exchange Serverを含むマイクロソフトのコミュニケーションサービスの一覧。Serverに加えて“Exchange Hosted Services”と呼ぶASP型サービスも展開される | Exchange 2007の説明を行なうマイクロソフト インフォメーションワーカービジネス本部の三野達也氏 |
マイクロソフト(株)は28日、東京都内の本社にて電子メール・メッセージングサーバーソフト『Microsoft Exchange Server 2007』(以下Exchange 2007)についての報道関係者向け説明会を行なった。Exchange 2007は“the 2007 Microsoft Office system”(以下Office 2007)でOffice製品の一員に組み込まれた。また64bit対応、アーキテクチャーの変更など、さまざまな改良が施されている。開発完了は2006年後半の予定。
説明を担当した同社インフォメーションワーカービジネス本部の三野達也氏は、Exchange 2007の開発コンセプトを、“セキュリティー/コンプライアンス(法例遵守)”“エンドユーザーの生産性”“管理性の向上”の3本柱にあると表現した。セキュリティーの重要性は改めて述べるまでもないが、コンプライアンスに関する要素としては、日本版も施行されるSOX法などに対応すべく、Exchange 2007を通じてやり取りされる電子メールの保管や管理についての強化が行なわれている。生産性向上については、“ユニファイドメッセージング”を標語に、デスクトップパソコンからモバイル端末まで、場所を選ばずに電子メールの活用を実現するほか、スケジュール調整機能なども使いやすく改良される。一方でドキュメントの共有については、“SharePoint Server 2007”へ機能をシフトさせ、Exchange 2007側はSharePointとの連携を強化する方向に進む。
64bit専用化とアーキテクチャー変更
Exchange 2007では5つの“役割別モデル”アーキテクチャーを採用し、メッセージングに関わる諸機能を以下の5つの役割に分類している。これにより特定の役割を担当するサーバーシステムだけを増強するといったことも可能になる。
- エッジトランスポートサービス
- クライアントアクセスサービス
- メールボックスサービス
- ハブトランスポートサービス
- ユニファイドメッセージング
このうち“エッジトランスポート”はメッセージングのゲートウェイであり、ウイルス対策などのセキュリティー機能や、ポリシーに応じてメッセージを正しく届ける処理を受け持つ。ゲートウェイという性格上、他の4サービスを提供するイントラネット内サーバーとは独立したサーバーにインストールして、イントラネットの外側(いわゆるDMZ)に設置する必要があるという。“ハブトランスポート”は社内/外すべてのメールのルーティングを担当し、ポリシーに応じた管理を行なう。従来の“フロントエンド”に位置づけられる“クライアントアクセス”は、パソコンだけでなくモバイル端末からのアクセスにも対応する機能を持つ。メールボックスはバックエンドのメールボックス管理を行なう。最後のユニファイドメッセージングは、PBXやIP-PBXと接続して、ボイスメールやファクスの管理、音声でのExchange 2007へのアクセスなどを処理するという。
Exchange 2007を導入する側にとって重要な変更のひとつが、製品版は“64bit版のみ”となる点であろう。評価用の32bit版は提供されるものの、製品は64bit版のみである。そのためサーバーシステムとOSには、64bit環境を用意する必要がある。この変更理由について三野氏は、64bit環境の広大なメモリー空間により、HDDへのI/Oアクセスを低減することが可能となり、パフォーマンスの向上とHDDの負荷軽減が可能になるとした。使用事例の多いExchangeサーバーの64bit対応は、サーバーシステムの64bit化をうながす流れをもたらすだろう。しかし一方で、サーバーシステムの更新には少なからぬ予算が必要である。既存のExchangeサーバーからExchange 2007への早期移行をためらう企業も、少なからず出てくる可能性もあるのではなかろうか。
Exchange 2007の64bit対応の利点として示された、I/Oアクセスの量を比較したグラフ。Exchange 2003と比べて70%のI/Oアクセスを減らせるとしている |
前述のコンプライアンス対策に関する機能としては、ウィザード形式で作成できる“電子メールトランスポートルール”による、メールの送受信や保管の制御が紹介された。Outlookの仕訳ルールのように、ルールを選択してアクションを設定することで、ヘッダーの修正や分類設定、スパム度合いの設定、送受信される電子メールに自動でCCやBCCを付加して、管理者や上長に転送するなどの、多彩な処理が可能となる。
Exchange 2007でのコンプライアンス対策機能の例。電子メール管理と保存機能、情報漏洩対策機能が柱である | 電子メールに対する自動化されたアクションの例。設定したルールに該当したメールに、機密文書の警告や扱いへの注意をラベルとして付加している |
またコンプライアンス対策機能のひとつである“電子メールライフサイクルマネジメント”では、ユーザーのメールボックスに管理者が管理ポリシーを設定するための“管理フォルダ”を設置できるようになり、ユーザーに合わせた管理を行ないやすくしている。
管理フォルダの例 |
Exchange 2007に組み込まれたアンチウイルス機能は、“ForeFront Security for Exchange Server”と呼ばれるソフトウェアで提供される。ForFrontでは複数のウイルス対策ソフトウェアベンダー製のスキャンエンジンを、最大5つまで組み合わせて使用する機能を備えている。この方式を同社では“マルチエンジン”と称している。単一のエンジンでは防御の網を洩れるような場合でも、複数のエンジンによる多層防御で防ごうという仕組みだ。Exchange 2007用のForFront日本語版は、Exchange 2007と同じタイミングでの提供を予定している。
ASP型のセキュリティーサービス“Exchange Hosted Services”
Exchange 2007と組み合わせて利用する、ASP型のセキュリティー管理サービス“Exchange Hosted Services”についての説明も行なわれた。以下の4種類のサービスが提供される予定で、ウイルス・スパム対策や電子メール保存、暗号化といった機能をユーザー企業に提供する。
- Exchange Hosted Filtering
- ウイルス・スパム対策。米シマンテック社などのウイルス対策ソフトベンダーのエンジンを利用できる。ForFrontと組み合わせてさらなる多層防御を構築可能。
- Exchange Hosted Archive
- 監査用の電子メール保管サービス。高速な検索が可能。企業のコンプライアンス方針に合わせたレポート機能も持つ。
- Exchange Hosted Continuity
- サーバーダウン時にも継続して電子メールサービスを提供するサービス。最大30日間保存可能。
- Exchange Hosted Encryption
- 電子メールの暗号化
IT予算の少ない中小企業にとっては、自前でサーバーシステムや管理ソフトウェアの導入をせずに済むため、限られた投資でも電子メールシステムの管理・運用を向上させられるサービスとなりそうだ。
Exchange 2007はすでにベータ2日本語版(32bitおよび64bit)が提供されている。今後はハードウェアや対応ISVベンダーとの共同検証や早期導入企業との協力を経て、2006年後半に開発完了となる予定である。Exchange Hosted Servicesについても、2006年末に日本でもサービス開始の予定だ。