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パソコン業界の異端児は、教育業界でも異端児か? 西和彦氏が須磨学園のパソコン教育に語る

2006年07月28日 23時33分更新

文● 編集部 小林久

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レノボ・ジャパン(株)は28日、都内で“レノボ・ジャパン カンファレンス”を開催した。同社の製品やテクノロジーを紹介する講演会。共催はインテル(株)。

挨拶する向井社長カンファレンスの冒頭で挨拶する向井宏之代表取締役社長

副題として“PCテクノロジーが切り拓く、これからのネットワーク社会”が掲げられており、同社の研究・開発部門のリーダーとなる内藤在正(ないとう ありまさ)取締役副社長などが登壇した。また、ゲストとして、パソコン黎明期に(株)アスキーや米マイクロソフト社で活躍し、現在は学校法人須磨学園の学園長を務める西和彦(にし かずひこ)氏も招かれ“これからの学校教育と学校のパソコンを考える”というテーマでプレゼンテーションを行なった。

生徒に配られる特別仕様のThinkPad

西和彦氏
特別ゲストとして招かれた西和彦氏。講演の冒頭では、先だって挨拶した向井氏が壇上に駆け上がる様子を「IBM時代にはありえない。レノボの変化をシンボリックに表わしている」と表現。会場の笑いを誘った

西氏は、優れた教育環境を提供するために“設備”と“教員”の両方が充実する必要があると話す。特に設備に関しては「設備がないとできないことがある、ないから諦めているケースが多い」と、まず設備を整えることの重要性を強調する。

2004年に開校した須磨学園中学校では、開校当初からノートパソコンを1人1台ずつ持たせ、教育に活用している。生徒たちが家と学校で使うのは、英字の刻印がない特別仕様のThinkPadだ。これはタッチタイプを徹底するためだが、西氏は生徒たちに「ABCが書かれているのは練習用のパソコン」と説明している。「ピアノの鍵盤にドレミが書かれてはいないのと同じように、プロになる人々は使わなくてもいいのだ」と話すと、子供たちはやる気を見せるという。

パソコンを教育のツールとして利用している学校は徐々に増えつつあるが、須磨学園で面白いのは、コミュニケーションツールとしてパソコンを積極活用している点だろう。校内には、無線LANが張り巡らされており、生徒たちは簡易的なグループウェアを利用して、情報交換に利用している。須磨学園では補習(放課後の特別講座)に力を入れているが、どの補習が有益かといった情報も生徒たちの間でうまく共有されているという。

学校から保護者への連絡や、教員や部活の顧問に対する質問などもパソコンを通じてやり取りされる。セキュリティー意識を高めるために、IDやパスワードの管理は、生徒個人のレベルで徹底させており、親にも教えてはいけないと指導しているそうだ。



特別仕様のThinkPad
須磨学園で利用されている特別仕様のThinkPad。キーボードの刻印が一部ない

社長の経験が、教育現場でどう生きるか?

IT業界のビジネスの経験は学校経営の中でも積極的に応用されている。例えば、1コマ60分の授業のうち10分間を確認テストに回し、その日のうちに完全に理解させる仕組みは、授業の品質を保証するためのものだ。

確認テストでは必ず80点以上取る必要があり、できない場合は夜10時まで居残りさせられる可能性がある。居残りが嫌な生徒たちは必死になって授業を聞くし、予習も行なってくるようになる。確認テストの結果はすべてコンピューターで管理されており、英数国理社のそれぞれの科目のどの単元で生徒がつまづきやすいか、どの部分を詳しく指導していかなければならないかがすぐに分かるようになっている。授業を行なう教師、授業を聞く生徒両方の姿勢が変わり、1回の授業のクオリティーが自然と高まっていくというわけだ。

教育のピラミッド
西氏がプレゼンで引用した教育のピラミッドの模式図。講義(Lecture)だけの定着率は5%と低いが、学んだことを実践したり、学んだ内容を他人に教えたりすることで定着率は非常に高まる。パソコンで教材を自由に加工しながら、授業の定着率を高めていくことも狙いのひとつ

また、同時に生徒たちには時間を有効活用する方法も教えている。社長を務めていた際には「ミーティングの回数が1日30件、決済は150件という日もざらにあった」という西氏。アポイントメントの最小単位は15分で、社長室の外には常に行列ができていた。このような多忙な日常から学んだ“タイムマネジメント”(TM)、“プロジェクトマネジメント”(PM)のノウハウも子供たちに伝えようとしている。

生徒たちは、毎週1回、次の週に自分がすべきことを全部書き出して、できたぶんを消していきながら、自分が何をすべきかを考えていく。勉強やクラブ活動など、自分の時間を自分で管理する習慣を自然に身につかせる。教室には会社で会議の日程を決めるビジネスマンのように、ノート片手で遊びの予定を詰める生徒も見える。筆者にもいかにも窮屈そうに感じるのだが、「これをやることで、逆に遊べる時間が増えたよ」と話す生徒もいるという。

PM&TM
スケジュールシートの例。やるべきことを細かく分けて、達成度を厳密にチェックしていく

IT社長から学校経営の分野に転身を果たした西氏は当初、「学校はベンチャービジネスじゃないんだ」と批判されたと回想する。確かに、合理性を追求した須磨学園の教育システムは、学校というよりは企業経営に似たシビアさを持っている。

「どこにもない中学・高校を作りたいと話す」西氏。今回の講演では、パソコン界の異端児の持ち味が教育界でもいかんなく発揮されているのではないかと伺わせる面があった。

「今後最も変わるのはワイヤレス」と内藤氏

内藤氏レノボの技術部門を統括する内藤在正氏

なお、西氏の講演に続く、午前中のコンファレンスには、レノボ・ジャパン取締役副社長 研究・開発担当の内藤在正(ないとう ありまさ)氏も登壇。IBM時代から変わらぬ品質と開発体制をThinkPadが継承していること。これにプラスして、lenovo 3000シリーズのように新しい製品カテゴリーにも積極的に取り組めるようになったことなどを、各所で紹介しているThinkPadの技術などを絡めながら強調した。

プレゼンテーションの中では、日本ではまだ実現されていないが、米国など一部地域で販売されているワイヤレスWAN(モバイル通信機能)内蔵のThinkPadにも言及。携帯電話網にパソコンが接続されることで、ユーザーが自発的にアクセスしないと取得できないPULL型のメールが、自動的に配信されるPUSH型になるなど、パソコンの使い方が変わるなどとコメントした。

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