レノボ・ジャパン(株)は29日、東京・六本木の日本アイ・ビー・エム(株)内同社オフィスにパソコン/IT雑誌・ウェブサイト担当プレスを集め、発足から1周年を迎えた区切りとして1年間どういう活動を行なってきたかを振り返るとともに意見交換を行なう“プレスラウンドテーブル”を開催した。会には取締役副社長 研究・開発担当の内藤在正(ないとうありまさ)氏と執行役員 経営企画&マーケティング担当の石田聡子氏が出席。内藤氏は現在、米レノボ(Lenovo)社全体のノートパソコン“ThinkPad”“Lenovo 3000”シリーズの開発責任者を任されており、いわば“ThinkPadの父”とも言える。
“ThinkPadの父”こと取締役副社長 研究・開発担当の内藤在正氏 |
内藤氏は最初に、日本IBM時代から数多くのThinkPadシリーズが生み出されてきた神奈川・大和の大和事業所(現レノボ・ジャパンの大和事業所)について、「引き続き重要性の高い開発拠点で、重点投資対象になっており、新卒・既卒の技術者の採用活動も行なっている」と述べ、“IBMのThinkPad”から“レノボのThinkPad”に社名が変わっても、開発体制には変更がなく、引き続き大和事業所がノートパソコン開発の中心的役割を担うことを示した。
執行役員 経営企画&マーケティング担当の石田聡子氏 |
ThinkPadシリーズに続いて、今年3月にオレンジをテーマカラーに据えて登場した第2のノートパソコンブランド“Lenovo 3000”については、「3000の意味は? と聞かれることが多いが、実は特に意味はない。3は日本でもアメリカでも“いい数字”と捉えられているから。ThinkPadは大/中規模のビジネスツールとして引き続き継続提供し、Lenovo 3000はもっとスピード感のある技術を取り込んだ小規模ビジネス(SOHO)や個人(ここでは個人ユーザーではなく企業内個人の意味)を対象として、ブランドを育てていきたい」「内部のキーテクノロジーは(Lenovo 3000でも)ThinkPadと同等のものを使っていくが、一部はシンプルにして価格を抑えている」と、日本IBM時代にはなかった“2ブランド体制”に移行した現状を振り返った。
Lenovo 3000シリーズとThinkPadシリーズの位置づけの違い |
Lenovo 3000の開発体制について内藤氏が発言した補足説明によると、「Lenovo 3000でも(ThinkPadと同等の過酷な)テストを行なっています。どこまでやったら壊れるか、という内容ですが、ThinkPadの場合は“必ずここまで耐えなければならない”というしきい値を設けているが、Lenovo 3000ではコストとのバランスを考えて設計している」と設計思想の違いを説明し、象徴的な事例として「(ノートパソコンの入ったカバンを)満員電車で押されるんですがと言われたときに、ThinkPadだったら“どうぞ押し返してください”と言えるけど、Lenovo 3000ではそこまで言えない。そんな違いです」と笑いながら答えた。
レノボ・ジャパンが発足してから、ThinkPadは“第3世代”に移行したと説明 | パソコンの利用環境を取り巻く変革(イノベーション)の数々 |
一方ThinkPadシリーズは、「第3世代に移行している」と述べ、第3世代ThinkPadの開発の狙いを次のようにまとめた。
- 高速化への対応
- 携帯性の向上
- 多様な無線通信回線への対応
- セキュリティー機能の拡充
- さらに使いやすいThinkVantageテクノロジーの搭載
従来、高速化と言えばCPUの動作クロック向上や3Dグラフィックスの描画性能強化を指し、「何のための高速化なのか? むしろ動作クロックが上がってバッテリー駆動時間が短くなるのはうれしくない」と言われてきたが、来年初めに発売が予定されている次期OS“Windows Vista”の登場によって、より自然な操作インターフェース、強固なセキュリティー機能など、プラットフォームに求められるパフォーマンスは急速に増大している。またIntel CPUも単純に動作クロックを上げるのではなく、並行プロセスによる高速化技術(具体的にはデュアルコアCPU)も出てきた、と状況の変化を説明。
内藤氏は2週間前から、ThinkPadとして初のワイドスクリーン搭載モデル“ThinkPad Z60t”を使い始めたという。2週間でワイドスクリーンにかなり使い慣れたとお気に入りの様子だった |
多様な無線通信回線とは、無線LANの高速化技術(MIMO、IEEE 802.11n)に加えて、携帯電話回線とのシームレスな連動による、連続的な通信環境の提供を指す。実際に「海外では携帯電話アダプターを内蔵したモデルが登場しており、国内でも通信キャリアー各社との協力体制を模索している」と、具体的な内容には踏み込まなかったが、ユーザーにどういう価値を提供できるかを踏まえて、国内モデルについても検討していく姿勢を示した。
さらに、Windows Vistaが登場することで、従来はThinkVantageテクノロジーで実現してきたいくつかの付加機能がOSに標準搭載されることについても、「OS自身でカバーされることは、パソコンの知識を持たない人でも自然に使える機能が増えることであり、非常に喜ばしい。土台(プラットフォームとしてのOS)が向上することで、今まで手が届かなかった高みに届くようになる」と、Windows Vistaの登場後にはそれに対応するThinkVantageテクノロジーを開発・搭載していく用意があることを強調した。
なお、たまたま集まったプレスの中に、先週末に発売されたソニー(株)の超小型モバイルパソコン“type U”を持ってきた人がいたため、この製品についての印象を内藤氏に聞いてみたところ、一般論としながら「こういう製品は将来(買ってから何に使うか)と値段ががっちりカップリングするもの。どういうお客さんが、どういう(パソコンの使用)環境で、誰の金で手に入れて使うのかを考えなければならない。日本人として、ソニーがあーいうものを出すことはすごくうれしいことだけど、(レノボ・ジャパンの技術者という立場では)ミニチュアライゼーションだけではいけない。(1台ですべてをこなすのではなく)補完的なデバイスとして考えた場合には、10万円を切る価格で考えないと難しいのではないか」と持論を展開した。