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ソニー・コンピュータエンタテインメント、PlayStation Meeting 2005を開催――ラウンチに備えてPS3の開発環境の充実に力を注ぐ

2005年07月21日 21時41分更新

文● 編集部 小西利明

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『プレイステーション3』『プレイステーション3』

後半のパートでは、SCE代表取締役社長の久夛良木健氏により、PS3の主に開発環境関連の講演が行なわれた。ちなみに発売日や価格については今回も明言されなかったが、久夛良木氏は、10年のプラットフォーム寿命とフルHD対応やBlu-rayディスク対応などを詰め込んだ製品であり、ジョーク混じりではあるうが「高いぞ」と述べ、会場の笑いを誘った。

久夛良木氏が最初に強調したのは、既存プラットフォームとの互換性であった。PS2が初代PSとの互換性を備えていたおかげで、販売店やゲームメーカーに安心感を与えて初期の成功の要因になったように、PS3でも発売初日から既存のPS2などとの互換性を確保すると述べた。これは明らかに、既存のXboxとの完全互換性が保証できず、タイトル単位での検証作業を余儀なくされている米マイクロソフトの『Xbox 360』を見据えた発言であろう。

PS3用のゲーム開発環境については、2005年春までごく一部の開発者向けに供給されていた開発用マシン“First Cell Evaluation System”(コード名Shreck)から、現在ではスペックがやや向上して筐体サイズも小さくなった“PS3 Evaluation System”(コード名Cytology)に供給が移行していて、さらに今年12月以降には、ほぼ製品版PS3と同様のスペックを備えた“PS3 Reference Tool”の供給が開始されることが発表された。PS3 Reference Toolは2Uのラックマウントサーバー型で、3.2GHz駆動のCellプロセッサーと、PS3 GPU“RSX”、512MBのXDR DRAM、BD/DVD/CDドライブ、HDDなどを備える。ラックに設置するだけでなく、単体での縦置きも可能とのことだ。供給量の少ない開発機材についても、2005年6月までに全世界で450ユニットしか供給できていなかったが、今後は急速に拡充し、11月には3000ユニット以上を供給できるとの見方を示した。

先行評価キットとして配布されていたPS3用開発機材『CEB-1020』。写真から想定するに、大型のオーブン並みのサイズがあったようだ 現在供給されている開発キット『CEB-2030』。CPUやGPUなどは、製品版のPS3よりも非力なものが使用されているようだ
先行評価キットとして配布されていたPS3用開発機材『CEB-1020』。写真から想定するに、大型のオーブン並みのサイズがあったようだ現在供給されている開発キット『CEB-2030』。CPUやGPUなどは、製品版のPS3よりも非力なものが使用されているようだ
12月以降に供給される予定の“PS3 Reference Tool”。製品版PS3相当の機能を備える模様で、これが供給されて初めて、開発環境が整ったと言える状況になるだろう
12月以降に供給される予定の“PS3 Reference Tool”。製品版PS3相当の機能を備える模様で、これが供給されて初めて、開発環境が整ったと言える状況になるだろう
E3 2005でお披露目されたPS3での物理シミュレーションデモ“Duck Demo” Duck Demoで用いられている物理シミュレーションの例の解説図。Duck Demoのソースコードやデータなども、ゲーム開発者向けに8月より提供される
E3 2005でお披露目されたPS3での物理シミュレーションデモ“Duck Demo”Duck Demoで用いられている物理シミュレーションの例の解説図。Duck Demoのソースコードやデータなども、ゲーム開発者向けに8月より提供される

PS3向けの映像デモや、物理シミュレーションやプログラマブルシェーダーといった特徴的な機能とその応用例についての説明が行なわれたのに続いて、同社コーポレート・エグゼクティブ CTOの茶谷公之氏により、PS3のソフトウェア開発環境に関する驚くべき発表が行なわれた。PS3ではCellプロセッサーを駆使した物理シミュレーションや、RSX GPUによるプログラマブルシェーダーなど、PS2時代よりも高度なプログラム開発能力が要求される。そのため開発難易度の大きな上昇や、開発環境整備に対する不安の声が各方面から挙がっていた。それに対するSCEの回答のひとつが、開発用ツールやソフトの制作会社と戦略的提携を結び、PS3用ソフトウェア開発キット(PS3 SDK)の一部として、ゲーム開発者に提供するという発表だった。

SCEは、ゲーム向け物理シミュレーションソフトウェアエンジンとして、すでに幅広く利用されている“Havok”(ハヴォック)を開発するアイルランドのHavok社、物理演算ソフトウェアツールやアクセラレーションハードウェアを開発する米AGEIA Technologies社、3Dグラフィックスエンジンを含む統合フレームワークツール“Unreal Engine 3”を開発する米Epic Games社の3社とライセンス契約を結び、Havok、物理演算ライブラリー“AGEIA PhysX SDK”、Unreal Engine 3などを、PS3 SDKの一部として提供する。従来はこれらのソフトウェアを使うには、ゲーム開発会社が個別にこれらの企業と契約し、ライセンス料を払って取得する必要があった。それらをPS3 SDKの中に取り込むことで、物理シミュレーションや最新のプログラマブルシェーダー技術を利用したゲームを、比較的容易に開発可能になる。

そのほかにも、ゲーム開発用統合開発環境ソフト“ProDG”(プロディジー)を開発する英SNシステムズ社を買収し、ProDGや関連ツールをゲーム開発者向けに提供する。またRSX GPUをSCEと共同開発した米エヌビディア社の3Dグラフィックス用ライブラリー“Cg”や関連ツール群も提供される。さらにソフトウェアによるプロセッサーエミュレーション技術に高度なノウハウを持つ米トランスメタ社(x86互換CPUのCrusoeやEfficeonの開発会社)と戦略提携を結び、Cellプロセッサー内に7個搭載される演算ユニット“SPE”を活用したソフトウェア開発向けのツールとして、“SPE Optimizer”(2005年第4四半期リリース)や“SPE Software Debugger”を提供することも発表された。これらはすべて、初期段階で十分なソフトウェアライブラリーを提供できずに、初期のゲームタイトルの開発で開発者に大きな負担を招いたPS2の反省を踏まえた対策であり、特に小規模な開発会社やプロダクトには朗報となるだろう。

しかし一方で、汎用のソフトウェアエンジンをPS3標準のSDKに取り込むことは、PS3の独自性をスポイルする結果につながる可能性も考えられる。HavokやUnreal Engine 3はPS3専用というわけではなく、Windows環境向けにも提供されているソフトウェアである(HavokはPS2やXbox、ゲームキューブでも利用されている)。同種のものがXbox 360向けにも提供される可能性は高い。汎用エンジンを使うことで開発労力の緩和と開発期間の短縮は可能になるだろうが、ハードウェア自体の独自性を発揮したタイトルの開発が進まず、結果として「どのゲーム機でも遊べるのは同じようなゲーム」という状況を加速させることになるかもしれない(現在でも特に米国では、マルチプラットフォームのゲームは多い)。昨年公開されたあるマーケットリサーチでは、米国の消費者が次世代ゲーム機に一番期待する点は“価格”という結果もあったが、これもこうしたマルチプラットフォーム化が招いた問題かもしれない。

講演のゲストとして登壇した、バンダイ 常務取締役 ビデオゲームカンパニー プレジデントの鵜之澤伸氏は、バンダイ内部の開発子会社が開発した、PS3開発環境上で動く“ガンダム”のゲームをイメージしたリアルタイムデモを披露した。物理シミュレーションなどは実装されておらず、Cell内のメインプロセッサー“PPE”とGPUの機能だけしか使ってないデモとのことだが、汎用エンジンの類は使わずに、独自に開発されたものだという。フルHD解像度で表示されるグラフィックは非常に美しく迫力があり、PS3でのガンダムゲームに期待させるものがあった。また(株)コーエーも、三國志のアクションゲームをイメージするデモを披露し、プログラマブルシェーダーを駆使した、表情まで非常にリアルな人物表現をリアルタイムデモで実演した。

PS3でのガンダムゲームをイメージして作られたリアルタイムデモ。フルHD解像度、シェーダーを駆使して質感豊かに描かれたモビルスーツの姿は、実にリアルで迫力満点。銃撃を受けたザクや陸戦用ジム?は、腕が千切れ、部品を飛び散らせながら倒れる。PS3のゲームではこれくらいの描写が必要になるだろうとのことだった

講演の最後の方では、ゲームメーカー各社がPS3用に開発している未発表タイトルが、短いムービーで紹介された。(株)フロム・ソフトウェアの“Project Force”(アーマード・コアシリーズの続編か)、(株)カプコンの“biohazard 5”など、発売されればヒット間違いなしのタイトルも登場し、PS3への期待を高めた。また久夛良木氏は、今後のスケジュールについても発表した。まず9月16日~18日の間に開催される“東京ゲームショウ 2005”にて一般へのお披露目を行なうほか、ラウンチ直前の2006年2月に“PLAYSTAION Conference”を行なう。そして2006年春には、PS3発売を迎えるというスケジュールになっている。直前のカンファレンスでどのようなゲームタイトルが登場するのか、非常に楽しみである。

今後のPS3の開発キット供給とプロモーションスケジュール。本体発売は3月頃になるか?
今後のPS3の開発キット供給とプロモーションスケジュール。本体発売は3月頃になるか?

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