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【IEEE 2001 ISSCC レポート前編】マルチメディアプロセッサでは日韓勢が圧倒

2001年02月08日 23時01分更新

文● Dr.Octopus

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2月5~7日の3日間、サンフランシスコのホテルで、半導体技術に関するカンファレンス“IEEE 2001 ISSCC(国際固体回路学会)”(IEEE Solid-State Circuits Society主催)が開催された。プロセッサー関連技術に詳しく、ISSCCに何度も参加されているDr.Octopus氏のレポートをお送りする。

会場となったのは、サンフランシスコ市内にあるマリオットホテル
会場となったのは、サンフランシスコ市内にあるマリオットホテル。なお、発表はプレスといえども撮影禁止のためスクリーンショットなどはない。ご了承いただきたい

マルチメディアはアジアが獲る!

2001 ISSCCにおいて、マルチメディア関連のプロセッサの発表は日韓勢に席捲された。シリコンも溶けよとばかりに高速かつ高熱高消費電力の汎用プロセッサ開発に熱を上げる米国勢を尻目に、家庭向け、個人向けの機器を目指してアジアの各社は開発を進めている。

◆MPEG-4コアプロファイル用プロセッサ

MPEG-4は、今年5月から日本サービスが始まるIMT-2000(W-CDMA)で画像通信に使われるとあって関心が高まっている。これまでにもいくつかのMPEG-4コーデック用プロセッサが発表されているが、いずれもシンプルプロファイル(※1)用だった。今回、松下電器産業(株)と松下電工が開発したプロセッサは、より応用範囲の広いコアプロファイル(※2)のデコードに対応したもので、世界で初めてのものだ(編集部注:日本でも6日に記者発表会を開催した)。

※1 シンプルプロファイルの動画像の外形は矩形で、画像サイズは固定されている。

※2 コアプロファイルは外形が不定形の動画像。

コアプロファイルは、シンプルプロファイルよりも後に決まった規格。処理量の多いコアプロファイルデコード処理を90mWの低消費電力でこなすプロセッサを作ったのは素晴らしい。専用ユニットとDSPからなる汎用ユニットを組みあわせ、更に20MbitsのDRAMを内蔵している。0.18μmの4層メタルCMOS技術(電圧1.8V)が低消費電力に寄与しているのは言うまでもないが、やはり最初の企画段階から携帯機器を睨んだ低消費電力設計を行なったことが90mWという驚異的な低消費電力を実現したのだろう。

このプロセッサは、携帯電話ばかりでなく、デジタルカムコーダやスチルカメラにも応用が期待できる。シンプルプロファイルならCIF(352×288ドット)画像で毎秒30フレームをデコードできるとあって、PDAの画面にも使用できそうだ。これまでMPEG-4の応用は数多く語られてきたが、実現に持ち込むだけの性能を備えたシリコン(半導体)が無かった。この開発が尖兵となってMPEG-4の世界が拡がることが期待される。

◆3Dプロセッサ搭載のマルチメディアプロセッサ

韓国の理工系大学の最高峰であるKAIST(Korea Advanced Institute of Science and Technology)が開発した携帯機器用マルチメディアプロセッサも160mWの低消費電力を実現している。このプロセッサは、MPEG-4シンプルプロファイルを毎秒15フレーム(QCIF(178×144ドット)の場合)でデコードするが、それ以上に2D/3Dのグラフィックスプロセッサを搭載したことが興味深い。これまで、3Dプロセッサの小型化は多く語られてはきたが、なかなか実現されていなかった。1つには、それを使うアプリケーションが見えないということであるが、KAISTは「3Dが携帯機でもゲーム等のために必要となる」(論文を発表したChi-Weon Yoon氏)との見込みのもと搭載に踏み切った。

3D処理は、ジオメトリ等の前処理をARM9コアに任せ、ピクセル処理は並列化した処理ユニットに行なわせて、毎秒200万ポリゴンを達成している。ピクセル処理の組み方は、PlayStation2のグラフィックスシンセサイザにも似たごく素直な実装である。Zバッファを含むフレームバッファも同一チップ上に搭載され、12×512KbitsのDRAMが混載されている。

DRAM混載が至難の業だったため高級機にのみ用いられていたのは過去の話となり、携帯機器を睨んだプロセッサが効率と低消費電力のために選択するようになった。会場からも指摘されていたが、この3Dユニットはテクスチャマッピング機能を搭載していないため、次回作ではこの部分の改良も視野に入っているという。今後が楽しみなプロセッサである。

◆デジタルカメラ専用画像プロセッサ

デジタルカメラのOEMで大きなシェアを持つ三洋電機(株)からは、1.5Mピクセルまでの撮像素子に対応したJPEG、モーションJPEG、そしてMPEG-2のエンコーダが発表された。JPEGの処理を高速化する独自のアルゴリズムを持ったエンジンに加えて、CCDやSDRAM、IDE、USBなどのインターフェース、さらにはNTSC/PALエンコーダまでも搭載した“システム・オン・チップ(SOC)”である。以前のデジタルカメラには、CPU、JPEG用チップなどを別々に搭載していたものも見られたが、これはSOC化ができていなかったからだ。SOCとすることで、コストの圧縮が行なえる。多数のOEM顧客を抱える三洋電機としては、コスト圧縮は大きな課題だったと見える。

今回発表されたプロセッサは、JPEGエンコードの他、毎秒88フレームでのモーションJPEGエンコード(VGA解像度の場合)、HD解像度のMPEG-2デコード、MPEG-2エンコード(Iピクチャーのみ)に対応した高機能型だ。57MHz動作で900mWを消費するが、0.25μmルールCMOSでのデータであるため、今後縮小が進めば消費電力は劇的に落ちるだろう。デジタルカメラの背後を支えている心強いプロセッサだ。

◆ソニーの隠し球HDTV対応の4CPUプロセッサ

ソニーからは、MIPS CPUを4個搭載した“オン・チップ・シンメトリックマルチプロセッサ(SMP)”が発表された。MIPS IIアーキテクチャに基づくCPUコアに、サブワードパラレルユニット(SPU:MMX等のようなワード内並列処理を行なうもの)、データ転送制御ユニット(DTU)、ビットストリーム処理ユニット(BPU)をコプロセッサとして装着したCPU部分は非常に強力である。これに8KBの命令キャッシュと4KBの命令キャッシュ、そしてキャッシュに入れるには適さないデータを収める4KBのスクラッチパッドメモリ(SPU)、バスコントローラを含めて1つの処理ユニット(PE)を形成している。このPE4つが64KBのL2キャッシュを共用するシェアドメモリ型マルチプロセッサが1チップ上に実現された。PlayStation2のEmotion Engineよりもスッキリした構造であり、ソフトの作りやすさに配慮したことが見て取れる。

この4CPUプロセッサは、完全ソフト処理でMPEG-2 MP@HL(※3)のデコードが行なえる。4PEを使用した場合で、5MbpsのSDTV(※4)ならば1PEで処理でき、エンコードも可能だ。18MbpsのHDTV画像の場合、毎秒20フレームの再生となる。現在250MHzだが、300MHzで6PEを搭載すればHDTVのリアルタイム(毎秒30フレーム)再生も可能との事である。

※3 MP@HL:メインプロファイル・アット・ハイレベル。1920×1152ピクセルで毎秒60フレームのHDTVに対応し、圧縮処理中の画像に対して、時間的に前と後ろの両方の画像を用いる、両方向予測方式を利用するもの。

※4 SDTV:Standard Definition TV。HDTV(High Definition TV、高精細TV)に対して、従来の画像クオリティーのTV放送を指す言葉。標準TV。

4PE動作時で2.38Wを消費するというが、これも0.25μmの4層メタルCMOS(コア2.5V、I/O 2.5V)で作られているため、今後より微細なプロセスを使えば高速化とさらなる低消費電力化が期待できる。PlayStation2のEmotion Engineとはまったく別にAVを指向したマルチプロセッサを開発していたことが注目され、いくつもの質問が寄せられていた。

◆東芝はVLIWで車載用画像認識を

東芝からは、既に商用化されている車載用画像認識装置(追い越し車の自動検出)に使われているプロセッサの発表があった。こちらは、CPUコアにVLIWプロセッサを結合したもので、PlayStation2のEmotion Engineを彷彿とさせる。ただし、全くの別物であり、CPUコアとVLIW部分の結合もEEのような強さはない。このプロセッサの売りの1つは「設計時に必要な機能ユニットを楽に組みあわせられる」“デザインタイム・コンフィギュレーション”にある。ユーザーの要求に合わせて必要なハードウェアユニットを組みあわせる、というもので、開発から市場投入までの時間短縮が狙い。コア+VLIWの部分は、自動車業界で言う“プラットフォーム”に相当するわけだ。

今回は、画像認識が主用途だが、これは400MHzのPentium IIで処理させていた。今回のプロセッサ内部に搭載されたRISCCPUコアだけでこの処理を行なった場合、リアルタイムの6~7倍の処理時間がかかってしまっていた。しかし、DMAコントローラによりデータ交換の効率を上げ、更にVLIWでの処理を併用することでリアルタイム処理を可能にしたという。タイトルにある4GOPS(ギガオペレーション毎秒)という処理速度は、VLIW部分のピーク値であり、ややミスリーディングの感もあるが、十分な実力を持ったものであることには変わりない。125MHzで駆動した際に1.95Wを消費する(0.25μm4層メタルCMOS)が、車載用ならばまったく気にならない値だろう。

この他、米Altius Solution社(ソニー・コンピュータ・エンタテインメント等と共同発表)から“GSCube用グラフィッックスシンセサイザのパターン設計をいかに10週間で行なったか”という発表もなされた。これらの発表が行なわれたセッション番号9“インテグレーテッド・マルチメディアプロセッサ”では、日韓がいかにマルチメディアに力を注いでいるかを象徴するものとなった。今回発表されたプロセッサがそのまま製品に入らないにしても、これらの発想を活かしたものが世に出てくると思うと非常に楽しみである。

レポート後編ではコンピュータ向けプロセッサの動向についてお伝えする予定だ。

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