ハイパーメディア研究会は、3日、渋谷区の“フォーラム8”で7月の定例会を開催した。テーマは“エージェント技術”。米マサチューセッツ工科大学(MIT)、メディアラボ出身で博報堂に勤務する神田智子(こうだともこ)さんと、テクノロジーコンサルタントでジャーナリストの高間剛典(たかまごうすけ)さんを講師に招き、講演を中心に、2時間30分に及ぶ意見交換の場となった。
“エージェント”とは、ユーザーの操作履歴などをデータベースに読み込み、それを自律的に判断、ユーザーの指示を待たずに作業を実行する機能。そのカバーする範囲で区別されることがあるが、今回話題にのぼったのは“Software
Agent”(ソフトウェア・エージェント)と“Autonomous Agent”(オートノマス・エージェント)。“オートノマス・エージェント”は、“ソフトウェア・エージェント”を包括し、さらにエンターテインメントの要素も多く含むものだという。
定例会では、神田さんが、MITメディアラボの“Software Agents Group”(ソフトウェア・エージェンツ・グループ)に在籍した経験に基づいて、“ソフトウェア・エージェント技術”の定義と役割、今後の展望などを解説したほか、高間さんによる、5月にミネソタ州で行なわれた“オートノマス・エージェント”の国際会議、“Autonomous
Agent98”(オートノマス・エージェント98)の報告があった。
「“エージェント指向プログラミング”の言語としてJavaに期待」 --高間さん
“Autonomous Agent98”の内容を報告する高間さん。 |
“Autonomous Agent98”は、5月9日から13日まで、米国ミネソタ州のミネアポリス市で行なわれ、400人を越える参加者が集まった。40を越えるセッションの中には、エージェント技術のEコマースへの応用を論じたディスカッションや自律的に変化する“エージェント”を従来の製造者責任で扱えないと問題提起する講演などがあったという。
高間さんは、“エージェント指向プログラミング”(オブジェクト指向におけるオブジェクトを自ら判断し処理できる機能を持ったエージェントに置き換えたもの)において、Javaが多く用いられていると指摘。「アプレットがチェックされたり、規定した分野でしか機能しないなど、セキュリティー面で優れているのが要因」と、見解を示した。
「“ソフトウェア・エージェント”の定義と展望」--神田さん
神田さんは、MITメディアラボ修士課程を卒業。現在は博報堂、電脳体に勤務している。 |
“ソフトウェア・エージェント”(以下エージェント)の開発背景には、専門知識のないユーザー層の拡大、情報量の増大、パソコンを利用した作業の増加といったものがある。
「エージェントは、マクロ機能やソフトウェアの自動化、キャラクターを用いたインターフェースと誤解されることが多いが、そうではない」と、神田さんは強調する。
神田さんはエージェントに必要な機能として、“Personalize”(パーソナライズできる)、“Proactive、takes
intiative”(指示を待たず動く、優先権を持つ)、“Autonomous、Adaptive”(自律的で、適応力がある)を挙げている。ユーザーは自分の趣向・環境に合わせた自分用のエージェントを持つことができる。エージェントはユーザーの操作の傾向を自律的に判断、ユーザーの指示を待たずに動作する一方、学習機能を持ち、よりよい作業ができるよう適時順応していくという。
現在、エージェントのひとつの利用法として注目されているEコマースに関しては、メディアラボで研究されている“Kasbah”(カスバー)を例に挙げながら、エージェントが、サイト上に公開された売り手と買い手の条件の照合、条件のあったもの同士の交渉、商談の決定までを行なう様子を紹介。神田さんは「Eコマースエージェントが普及すれば、仲介業者がいなくなる」という予測も示した。
あたかもユーザーの意図をくみ取ったかのように、ユーザー側の負担を減らし、新たな次元でユーザーがコンピューターに関わるきっかけを与えるエージェント技術だが、その普及には、問題点もある。個人情報をデータベース化し蓄えるというエージェントの側面は、“プライバシー”と“セキュリティ”の問題に深く関わる。また、複数のエージェントが共存する“マルチ・エージェント”環境では、エージェント間の交渉により、プログラミング上想定しなかった事態が生じることがあるという。こういった“予期せぬ事態”をどの程度制限するかも、今後エージェント技術が抱える課題だという。(報道局 小林久)
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