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緊急インタビュー ミラクルはいま何を考えているのか?

2000年09月28日 18時47分更新

文● ASCII Network PRO 笹川達也

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[ASCII network PRO] Linuxの世界では、PostgreSQLというフリーのデータベースが有名で、現場のLinuxエンジニアはこちらを使いたがると思うのですが、その点はどうお考えですか?
[池田]  逆にいうと、Linuxのエンジニアって日本でいうとどんな方ですか? 2~3%のシェアしかつくれなかったLinuxのエンジニアってのは、本当にエンジニアなんでしょうか。技術を通して社会を変えるのがエンジニアの理想ですよね。そういう意味でLinuxの技術部隊には、まだまだ本流の人が入っていないと思うんですよ。言い方は悪いかもしれないけれど、SolarisとかHP-UXとかAIXをやっている人たちがやはり会社の中で本流であって、Linuxエンジニアは現場で発言権のない非主流の人たちが多い。そこが一番ネックかもしれないんですけど、どんなにLinux版のOracleでやりたいと言っても、部長クラスに「なんじゃそれ」と蹴られて、「Oracleを使うのはいいけれど、NTでいこうよ」というように、ひっくり返った話を何度も聞いています。

 あと、エンジニアはフリーのソフトウェアを好むというのは、一概にそうではないと思います。本当に優秀な技術者はタダであればいいなんて思っていないですよ。

 たとえば「バグがあってもソースコード追えば、最終的に誰でも直せます」という答えを、古くからLinuxをやってこられている方々が持っているでんすが、これらの方々は果たしてシステム構築の優秀なエンジニアでしょうか? 確かにその人はIQが1000ぐらいあるものすごく優秀な人で、ソースコードを簡単に追えるかもしれない。でも、その人がそんな作業をするするよりも、質はちょっと落ちるかもしれないけど専門家にお金を払って2日間それを調べてもらって、その優秀な人は他のことをやった方がいいわけですよ。システム構築の現場ってそうですよね。本当に優秀な人は、なにがなんでもフリーだからとか、安いからなんて使い方はしませんよ。このコストでこれをやるんだったら有償でもいいし、お金で済むんならお金でいいですよっていうのが、僕は本当の意味で優秀な技術者だと思うんですよ。

 さらにはっきり言うと、PostgreSQLはOracle DBと競合するとは僕は思っていません。これはファンクションの問題が1つあります。PostgreSQLでは、やっとマルチバージョニング機能を備えたといっていますが、Oracleではこんなものを10年前からサポートしています。また、機能を入れてきてから、やっと安定化させるという状況であり、ファンクション的に考えると非常に遅れている、というのが1点。

 もう1つは、ファンクションなんてのは1、2年で追いつくというんですけれど、実際に追いついたら処理が重くなって大変です(笑)。PostgreSQLは「軽いからいい」って言われているのに、Oracleと同じ重さになって、しかもサポートも満足になければ、一体どこがいいのか。逆に言えば、たとえばMySQLみたいに、テーブルロックしかサポートしないというのは、1つのセンスかもしれません。ファンクションを増やしていけば、絶対どこかで重くなります。PostgreSQLは重くなる方向に向かっているので、今後どうするのかと現在迷っているところだと思います。

 さらに、もう1つはPostgreSQLをはじめとするフリーのRDBMSは、5年前のLinuxと同じレベルにあります。ちょうど1995年頃、僕らがちょうど「Linuxっていうものがあるのね」と思って、インストールして遊んでみて、でも「まだまだダメだね」というレベルです。何でそういうことを言うかというと、PostgreSQLの最終責任をとる企業はアメリカでも出ていないんですよ。「PostgreSQLのサポートをきちんとやります」という企業が現われて、それに対して「CompaqがPostgreSQLでTPCのベンチマークをやります」といった状況が出てくるのに、あと5年はかかると思います。

[ASCII network PRO] Linuxをやってる人たちは、何でもかんでも自分たちで揃えましたというのが自慢ですから、Oracleでシステムを構築するというのに、すごく抵抗感があるのではないかと思うのですが。
[池田]  これも日米のLinuxコミュニティの差だと思うんだけど、アメリカのコミュニティの人たちは、Alan Cox(Linuxカーネルのメンテナンスを任されている超有名ハッカー)にしてもBob Young(RedHat社のCEO)にしても、すごくビジネスに密着して、センスがあるんですよ。日本がLinuxのシェアで伸びなかった一番の理由は、このセンスの欠如です。Linuxの市場を広げるのに、クローズドバイナリ(ソースコードを公開しないアプリケーション)を絶対否定しちゃダメです。

 オープンソースやフリーソフト系のものが、全部ソースコードを公開しているわけではないし、Linuxで動作する商用アプリケーションも全部オープンソースにしなくちゃいけないっていうのは、ちょっと勘違いしている。教条主義的になられている方が多いんじゃないかと思います。そういう人たちが、先行者利益を意識して、あとからきたヤツがビジネス始めてるっていう嫌悪感を露わにし、逆にそれが悪影響を及ぼして日本でLinux市場が立ち上がっていないという現状を彼らは反省すべきだと思います。もっと言ってしまえば、既存のディストリビュータの方々は、そういう人達を内包してしまっているので、ビジネス展開がうまくいっていないとわれわれは見ています。

コーポレートカラーに込められた意味

[ASCII network PRO] Miracle Linuxのパッケージはなぜ緑色に? GNOMEのデスクトップは青ですよね。
[池田]  ウチのコーポレートカラーはグリーンなんです。IBMやMicrosoftに対する反発かなとか思われそうですが、そういうわけじゃない。僕らが考えたのは、日本のLinux市場は赤信号になってしまった。今まで黄色の信号で頑張っていた会社があったんですけど、へんな形で日本に参入して赤信号にした会社があったのを、僕らは青信号にしたい。これはNTの落ちた時の青じゃなくて、地球に優しい青さでもなく、「これでビジネスを渡っていきましょう」という願いの青信号なんです。

(聞き手: 渡邉利和、構成: ASCII Network PRO笹川達也)

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