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「つみきのいえ」でアヌシー映画祭&メディア芸術祭の2冠を達成

加藤久仁生監督に聞く、ネットアニメの現在地

2009年02月06日 20時00分更新

文● 盛田 諒/トレンド編集部

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動画文化に欠けているものは、発信者と視聴者のフラットな立場

―― 日本では製作委員会システムというか、著作元/制作会社/配給元/スポンサーのタテ型構造でアニメ放映の方程式を作ってきました。そのために視聴者が「テレビアニメ」の価値を、良くも悪くもインフレさせているように思えます。

 日丸屋秀和さんの「ヘタリア」など絵日記サイトを書籍化して流通する例は多いのですが、ネットアニメで名前が知れているのは蛙男商会さんのエンタメ系アニメ「秘密結社鷹の爪」など、少数にとどまっています。アートワークスとしてのアニメクリエイターがこれからネットアニメを作るにあたって先駆者としてアドバイスをするとしたら。

加藤 出来上がった作品を動画サイトにただ上げて終わりというのではなく、もっと自分を知ってもらえるような、視聴者を喜ばせる工夫をしてほしいと思います。

 それに「1人で作れる」ということになると、手軽に作れてしまうという安心感があります。いつも見る人を意識して「鑑賞に堪えるものを」という考えが必要だと思います。イメージを自分だけではなく、相手と共有しようという意識ですね。

新現代美術館のメディア芸術祭会場では、壁に投影して「つみきのいえ」を上映している


―― ちょうど「共有」という言葉が出ましたが、インターネットの特徴としては共有とともに「クチコミ」があります。ひとたび作品を投稿すると、その瞬間から匿名のクチコミやコメントがわっとあふれていく。

 ニコニコ動画はそれを逆手にとって初めからコメントを作品とマッシュアップするという1つの文化を作っていますが、自分が1人のクリエイターだったらと考えると、やっぱりちょっと怖いと思うんですよ。

加藤 いい環境で自分の作品を見てもらいたいという感覚は誰もが持っていると思います。視聴者もそれは同じだと思うんですね。ニコニコ動画だけではなく、インターネット上ではさまざまな情報のノイズがコンテンツに混じってきます。

 そのとき(情報環境を)広げて発信はするんですが「つねに作品と視聴者の関係は1対1である」という環境が必要だと思います。必要な情報を自分で選択して、作る側と見る側が対等な関係になる状態ですね。人間の作るものなので、限界はあると思いますが。

メディア芸術祭受賞式で、受賞のコメントを語る加藤監督


―― 今では「ニコ動デビュー」という可能性もあるわけですが、加藤監督がデビューしたのはNHKの「デジタル・スタジアム」で紹介された「ROBOTTING」でしたね。公募で作品を紹介する番組ですが、応募のきっかけはどういうものだったんですか?

加藤 番組のディレクターをしている中谷日出さんが別の授業で多摩美術大学にいらしていた時期がありまして。そのとき、ぼくは別の授業でアニメーションを実際に作っていたんです。その授業の先生に「いい作品があったら出してくださいね」と中谷さんが話していたのがきっかけになりました。

 とはいえROBOTTINGは1人だけのものではなく、同級生との合作という形でした。自分の絵を動かすという前段階の習作はあったんですが、まとまった1本の作品としてアニメにしたのはあのときが初めてでしたね。


「つみきのいえ」はDVDパッケージのほか、手書きの味をそのまま生かした絵本としても刊行されている

―― 在学時から「鉛筆で描く」という手書きのテイストを変えずに作りつづけていて、それが加藤監督の作家性というか「映像の味」になっています。ディレクターとしてROBOTに入り、自分以外の手を借りて映像作品を作るようになっても、いまだに「手書き」を続けている理由はどこにあるんでしょう。

加藤 ROBOTTINGのようなまとまったアニメを作る前までは、1枚絵を描いてやっていこうと思っていたんです。そこでつちかった鉛筆画のイメージを大事にしていきたいと思ってつづけています。

 ただ1枚絵の方は鉛筆画だけではなく、水彩画などの絵画的手法もありますし、自分も実践してきました。アニメにもそれを応用したり、映像としてもう少し色々やってみたいなという気持ちがありますね。


―― 音楽の話ですが、鉛筆画のやわらかなイメージにぴたりと合った近藤研二さんの音楽は固定ファンもかなり多いと思います。この場合も、脚本家の平田さんと同じように、打ち合わせを重ねてイメージを詰めていくわけですか?

加藤 最初に絵コンテを前に話をする点は同じです。そこで、あいまいではありますが、自分のイメージを言葉にして伝えるんですね。ぼくは音楽が出来るわけではないので、あくまで印象や感覚を伝える感じになります。

 たとえば「ここは寂しいシーンですが、音楽は明るめに」とか「アコースティックな音が入ってくるといいかも」とか、そういった具合ですね。もちろん一方的に伝えるわけではなく、あちらからの提案をこちらが受けてイメージをまとめていきます。音楽に関しては、近藤さんに委ねている部分がかなり多いです。

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