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「つみきのいえ」でアヌシー映画祭&メディア芸術祭の2冠を達成

加藤久仁生監督に聞く、ネットアニメの現在地

2009年02月06日 20時00分更新

文● 盛田 諒/トレンド編集部

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つみきのいえは、1枚のイメージ画から生まれた

―― 「つみきのいえ」は、昨年のアヌシー国際アニメーション映画祭でもグランプリを受賞しています。国内はもとより、そのボーダレスな映像イメージから海外からの支持が多い印象を受けます。この作品はどのような製作過程から生まれたんでしょうか?

加藤 最初にビジュアルのイメージ画を描いたんです。積み木のような家が積み重なっているものなんですが、それを脚本家の平田研也さんに見せて「何か考えられないか」と。

 イメージ画を見た平田さんが「沈んでいる家の層にはその時代の思い出が沈んでるんだ」という発想をして、そこから大まかなストーリーラインを考えてくれました。イメージ画から組み立てていくという形は「或る旅人の日記」も同じ感じでしたね。


―― 今回の作品や「或る旅人の日記」を観ていると、ラウル・セルヴェ監督の「夜の蝶」であったり、佐藤竜雄監督の「ねこぢる草」などのイメージが連想されます。また「或る旅人の日記」では、東欧の小説家ミロラド・パヴィチや、イタロ・カルヴィーノのような哲学的エッセンスを感じます。以前「ほぼ日刊イトイ新聞」のインタビューでは「外国のテイスト」という話をされていましたが、具体的にはどんな名前が挙がるんでしょう。

加藤 アニメーションであればマーク・ベイカー監督(Mark Baker)の「丘の農家」(アヌシー国際アニメーション1991年グランプリ受賞作)を多摩美術大学に通っているときに見て、衝撃を受けたんです。いや、衝撃というよりは、淡々と進んでいくイメージに影響を受けた、というのが強いですね。

 世界観としてはジャン=ピエール・ジュネ監督(Jean-Pierre Jeunet。「アメリ」監督として広く知られる)ですね。そのほかにも色々なものから影響を受けていると思います。でも、特に「海外向け」という意識を持って作っているというわけではありません。


―― それまでは特に、海外のショートアニメに触れる機会というのは持たずに?

加藤 中学・高校まではあまりアニメは観ていませんでしたね。宮崎駿監督や高畑勲監督のジブリ作品や昔のディズニー作品など、本当に有名なものしか観ていなくて。3年生のとき、授業で前述のショートアニメを観たのがきっかけでした。


―― 現在、日本ではショートアニメを積極的に盛り上げる風潮があまりないように感じています。インターネットで表現の間口が広がったのは確かですが、加藤監督が「或る旅人の日記」を発表したShockwaveは国内でのサービスを終了してしまいました。

 昨年12月から新宿武蔵野館でマイケル・デュドク監督の「岸辺のふたり」を1年間に渡って上映したりと定点的な活動は散発しています。やはりそれでも韓国やフランスの熱狂からは遠いように感じられます。日本と海外とでは何が違うんでしょう?

加藤 以前フランスのアニメスタジオの方が日本で、国と文化の関わり方について講演をされたことがありました。フランスでは映画鑑賞そのものに課税をしていたり、補助金が出たりしていて、それを製作に充てられるというシステムになっているんです。*1

 もちろんそれだけがすべてではないんですが、その辺りが巧みなシステムになっているのではないかと。そんな仕組みを日本でもしっかりと回せれば、もっと面白いことが出来るのかもしれないですね。

*1 フランス文化省のフランス中央映画庁(CNC)が行なっている施策。商業映画とアート映画の溝を埋めるため、公的機関がいわばコンテンツの調整役となり、「(映画業界全体での)バランスをとる」ことを目的に製作会社を支援している。

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