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デザインツールで、変わる大学教育

思考力に加え、伝達力が求められる社会で

2009年02月23日 17時58分更新

文● 編集部、監修●チバヒデトシ

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思考力に加え、伝達力がこれからの社会で必要とされる


 総合大学でITが根付かない背景には、学生だけでなく、教員の意識という問題もある。

 「例えば人文系の講座/発表では、基本的に文字が主体です。資料を読み上げているだけというのが多い。伝統的なアカデミズムの感覚で言うと、重要なのは中身です。伝達は二の次という人がいるのも止むを得ない部分かもしれません。しかし、私は思考の中身と伝達力のバランスが重要だと思っていますし、そうでなければプレゼンテーションの効果も半減すると考えています」

金氏は慶応大学で、メディア融合政策、グローバルメディアポリシー、クリエイティブ産業戦略、インターネットとマスメディアといった講座を担当している。例えばクリエイティブ産業戦略では、創造性基盤産業育成への国家戦略について米国、英国、韓国、日本の事例を比較しながら紹介している

 金氏は発表には、「思考力と伝達力」という二つの要素が不可分だと話す。そして、後者の「伝達力」に対して、デジタルツールが果たす役割は大きいと語る。

 「日本人の思考力は優れているんです。しかし、欧米に比べるとそれを効果的に伝えるスキルが足りていない。それは海外の会議に出ても明らかなんです。伝達するためのスキルを見につけ、自分の意思を的確に伝えられなければ、生き残っていけません。アカデミズムの分野に残るにせよ、社会に出て行くにせよ、です」

 決まった枠組みを用意すれば、一定の成果に結び付けられる点は、日本の学生のいいところ──そんな風に金氏は話す。テーマ設定に基づいて、バリエーションを広げていける。

 だから「自分の講義では、なるべく具体的なテーマを設定し、その中で学生オリジナルの切り口を探すよう指導している」と金氏は言う。例えば「金融危機」をテーマに全員3分のプレゼン。唯一の条件は他人とかぶらないようにすること。そうすると、「金融危機と内定取り消し」「金融危機とビジネスチャンス」など、面白い切り口のプレゼンが出てくる。

 興味深い内容があるなら、次はそれをいかにリッチに伝えるかが重要だ。そのための環境が大学にあれば、学生は自ずと刺激し合い、意欲的なプレゼンをするだろう。にもかかわらず、教育環境が古いのでやろうとしてもできない。そういった環境を打開できるのではないか。

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