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Letter from Silicon Valley 第12回

経済危機でイノベーションにもブレーキか

2009年01月16日 04時00分更新

文● 秋山慎一

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経済危機がおカネの流れを滞らせ、起業家の資金調達にも影響しつつある。しかしベンチャーキャピタルは仮想化やクラウドなど、注目分野のウォッチに抜かりない。

ネットワークマガジン2009年2月号掲載

連載の第1回で、シリコンバレーにはイノベーションのためのシステムが存在する、とお話ししました。そのシステムの中で重要な役割を果たしているのが ベンチャーキャピタル(VC) です。ベンチャーの起業資金の多くがVCから提供されます。そのVCは幅広く一般的な企業などから資金を集めます。

※  Venture Capital
VCが果たす役割は、資金の仲介と供給にとどまりません。事業化のノウハウの支援、有望なベンチャー企業の評価・選別、ベンチャーへの有能な人材の紹介、販売ルートの紹介など幅広く、ときには直接役員を派遣して経営を支えたりもし、見込んだベンチャーの成功に全力を尽くします。

「お金を出すだけなら誰にもできる。それに加えて、豊富な情報や人脈を提供して事業を成功させ、大きなリターンを目指すのが我々のやり方なんだ」。グローブスパン・キャピタル・パートナーズの共同創設者の1人であるアンディ・ゴールドファーブ氏はいいます。同社はシリコンバレーのパロアルトと東海岸のボストンを拠点に、セカンドライフのリンデンラボやネットワーク系ではブロケードなど、多くの投資実績を持つ中堅のVCです。

クリスマスのイルミネーション:クリスマスが近付くと、多くの家では庭や玄関を工夫を凝らして装飾します。ニューイヤー明けまで数週間、夜のシリコンバレーはメルヘンです。

クリスマスのイルミネーション

今、米国ではサブプライムローンに端を発した金融危機と、それに続く景気の悪化が大問題になっています。日本にも大きな影響を与えているのはご存じの通りです。この経済状況は、ベンチャーへの資金の流れを滞らせて、シリコンバレーの技術の進歩にも悪影響を与えつつあります。

グローブスパンでは次の ファンド を2010年に予定しており、まだ経済危機の直撃は受けていないそうですが、VCによっては現時点でも投資のための資金が集めにくくなっているところもあるようです。

※  ファンド
VCでは、投資家から資金を集めて「ファンド」を構成し、その資金プールから複数のベンチャーに対して分散投資を行ないます。

この状況でもっともつらいのは起業家たちです。VCの資金が細り、選別が厳しくなります。結果として、新技術を市場に出す役割を担うベンチャーが、出資者を見付けられずに起業を諦めたり、 セカンド、サード といった追加資金の手当てができずに事業を諦めざるを得ない、というケースも予測されます。ネットワークの分野でも、イノベーションのスピードがダウンしてしまうかもしれません。

※  セカンド、サード
ベンチャーは一般に、ファースト、セカンド、サードと、成長に応じて段階的に資金を集めます。出資側は事業の様子を見てリスクをコントロールしつつ投資します。

ベンキー氏(左):グローブスパンの7人のパートナーの1人。パートナーとは、VCの投資に責任を持つ、いわば役員です。氏は同時にいくつもの投資先ベンチャーの役員としても活動しています。若くて気さくに話してくれますが、アメリカのエリートの1人といえるでしょう。右は同社の前田浩伸氏。

ベンキー氏(左)

とはいえ、だからこそ何が次の技術やビジネスとして成功していくのか、ベンチャーキャピタリストたちは将来を見通すために熱心に研究を続けています。同社でWebやネットワーク系に詳しいベンキー・ガネイサン氏によれば、「仮想化」と「クラウド」が、いまもっとも重要なキーワードだといいます。「今後のITシステムは仮想化抜きに考えられなくなるだろうし、ネットワーク製品も仮想アプライアンスなど、仮想環境を前提とした製品が多くなるでしょう」。

ネットワーク分野に関していえば、パケットをより「ディープ」に「インスペクション」し、よりインテリジェントな処理をすること、別のいい方をすれば、アプリケーションやユーザーといった高いレイヤで、しかも高速にトラフィックを扱うことが求められている動向とのことです。

筆者はもともとエンジニアなので、ベンチャーを見るときはつい技術で見てしまいます。一方で、ベンキー氏のようなキャピタリストによりますと、投資すべき有望企業を選択する場合には、技術よりも「人」と「市場」を判断基準にするそうです。つまり、その企業が世に出そうとしているものは、市場が本当に求めているソリューションなのかどうか。「アスピリン」には投資しない。「ペニシリン」でなくてはならない、というのです。頭痛薬のアスピリンはなくても何とかなる。でも、抗生物質のペニシリンがないと生死にかかわります。ITの分野でも同様なのだそうです。と同時に人が重要。能力と熱意を備えているかどうか。技術も重要だけれども、有望な市場ターゲットがあり、熱意ある優れた人が集まっていれば、技術は克服できるのものだ、といいます。だとすると、経済の危機も乗り越えて、シリコンバレーのイノベーションは続いていくに違いありませんね。

一番にぎやかな家:筆者の家の近所で、もっとも目立つ飾り付けです。さすがにここまで派手にやる家は滅多にありません。写真を撮っていたら奥さんが出てきて「主人が好きでね、みんなやったのよ」と誇らしげでした。

一番にぎやかな家

筆者紹介─秋山慎一


Letter from Silicon Valley

日立システムアンドサービス にてシステムエンジニアやプロダクトマネージャ、 マーケティングを経験。現在Hitachi America Ltd. に駐在し、シリコンバレーの技術動向の調査やビジネス開発などに携わる。「SEのためのネットワークの基本」(2005年・翔泳社刊)、ネットワークマガジン連載「トラブルから学ぶネットワーク構築のポイント」(2005.12〜2006.12)などを執筆。


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