ブランド統一発表と、3日間の悩み
2008年1月10日の社名変更、ブランド統一の発表を聞いたホームアプライアンスマーケティング本部(旧ナショナルアプライアンスマーケティング本部)の高見和徳本部長常務役員は、それから3日間、悩みに悩み抜いた。旧ナショナルアプライアンスマーケティング本部は、その名の通り、ナショナルブランドの白物家電商品の国内マーケティングを担当する部門。白物家電のパナソニックへのブランド統一で、最も影響を受ける部門だといっていい。
「ナショナル」から「パナソニック」に変わることで、なにがメリットとなり、なにがデメリットになるのか。課題はなにか、どう成長につなげることができるのか。高見本部長は、あらゆる観点から検討を繰り返した。
連休が開けた1月15日の朝、高見本部長は、同マーケティング本部の社員を集め、こう切り出した。
「これは、我々にとって最大のチャンスである。そして、90年の節目、ナショナルからパナソニックへのブランドへの転換という節目に、一緒に仕事ができることを喜びに感じる。5年後、10年後、15年後に、この仕事を一緒にできてよかったと思えるように、ブランド統一を成功させよう」
高見本部長がチャンスと語る背景には、いくつかの要素がある。ひとつは、パナソニックとナショナルに分離していたブランド発信が一本化することでの認知向上である。パナソニック株式会社の大坪文雄社長が指摘するように、これまで同社が展開してきた「松下電器」、「ナショナル」、「パナソニック」の3つのブランドを、ひとつの会社のブランドとして認識している人は、日本国内でも意外と少ない。ナショナルはナショナル、パナソニックはパナソニックという個別のブランドとして認識され、ブランドの発信力が分散していたのは明らかであった。
これをパナソニックというブランドで一本化できれば、白物家電商品のブランドとしての情報発信力、認知度を高めることができる。「ナショナルがパナソニックに変わることによって、パナソニックの露出は2倍になる。お客様からの支援を得やすくなる」というわけだ。
これは、アプライアンス(白物)商品だけに限らない。パナソニック電工(旧松下電工)が取り扱っている理美容商品、管球(照明)、キッチンをはじめとする住宅設備機器なども、すべてパナソニックへと一本化される。「パナソニックブランドによる、家電の丸ごと提案が行えるようになる」というのは、ブランド統一による大きなメリットだ。
家電が丸ごとパナソニックブランドで統一される効果は少なくない。AV機器、白物家電、照明、理美容機器、キッチンをはじめとする住設機器まで、ひとつのブランドで提供できるメーカーは、パナソニックだけになるからだ。
2008年9月の時点で、東京・御成門のパナソニック一号館の役員応接室には、パナソニックブランドの薄型テレビ「VIERA」の横に、ナショナルブランドの空気清浄機が置かれていた。
牛丸俊三副社長は、これを指さしながら、「ブランドが異なる商品が、家庭内で混在して置かれていると違和感がないか」と、筆者に問う。確かに同じメーカーの商品が横並びで置かれているにもかかわらず、ブランドが異なるのは違和感がある。そして、ブランドの違いは、おのずとデザインの統一感を崩している感じにも受け取れるから不思議だ。これが解決されるだけでも、ブランド統一の効果が大きいことを感じる。
2つめの要素は、ナショナルブランドで比較的弱いとされていた20~30代への訴求が、パナソニックブランドでカバーできるようになることだ。
「テレビやレコーダーのブランドとして、若い人たちにパナソニックのブランドが知られている。これらの顧客層にパナソニックの白物家電を、高い信頼感のもとに販売できる」(高見本部長)
若いときに使ったパナソニックのAV機器がきっかけとなり、10年後、20年後に自立した時には、白物家電の主要な顧客層として取り込める、というサイクルを確立させることができるからだ。だからこそ、ブランド統一は、需要拡大のチャンスだと高見本部長は位置づける。
「もし、ナショナルブランドを継続していたら、冷蔵庫ひとつをとっても、30%以上のシェアに引き上げることは難しい。だが、パナソニックブランドとなったことで、シェア引き上げのベースが出来上がったともいえる」
次ページ「ブランド置き換えに奇策ナシ」に続く
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