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「ダウンロード違法化」──なぜいけないかを考えるシンポジウム

2007年12月27日 17時00分更新

文● 編集部 小林 久/広田 稔

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「消費者の効用」という視点を無視してはいけない


 経済学者の池田氏は「(ネットの著作権侵害によって)『経済的な被害が出ている』というのが文化庁の常識になっているようだが、それは固定観念から出ているのではないか?」と話を切り出した。

池田氏

上武大学大学院 経営管理研究科教授の池田信夫氏

 「違法コンテンツの流通による機会損失は確かに存在するが、正確な損失額に関しては検証されていない。JASRACが年間100億円という根拠のよく分からない数字を出しただけ。ただし宣伝効果のようにファイルを共有することで生じる便益もある」(池田氏)

 さらに池田氏は「『消費者の利益』という概念が、これまでの議論ではスッポリ抜けている」と話す。

 池田氏は「経済学者もバカじゃないから、そういう研究(機会損失と宣伝効果のどちらが大きいのか)をやっている人がいる」と話す。

 同氏の説明によると、許諾を得ないコンテンツがP2Pや動画共有サイトに流れることによるマイナス効果(機会損失)とプラス効果(宣伝効果)はほぼ等しいというFelix OberholzerとKoleman Strumpfの研究論文が「Journal of Political Economy」に載ったという。


池田氏のスライド

池田氏が示した、ファイル共有ソフトによって経済的に不利益は生じないということを解説した式

 機会損失と宣伝効果が等しいのであれば、ネットによって消費者の満足感(効用)が高まっているぶん、社会全体の便益は上がっているはずだ。しかし、違法コンテンツの流通に関する議論では、3つのうち最初の1つ──「経済的な不利益=機会損失」という部分ばかりが強調される。

 「法律は政府(文化庁)が作る。政府は社会全体の利益を増進するべきであって、業者の利益を増進するのではない」(池田氏)

 さらに池田氏はダウンロード違法化に伴った萎縮効果が、日本経済の発展を阻害する点も問題だと指摘する。日本では厳しすぎる著作権法によって、日本国内に検索サーバーが置けないなど、ウェブサービスを立ち上げることが極めて困難だ。萎縮効果による損害は、著作権侵害による損害よりもはるかに大きい。「成長を阻害するような政策を文化庁がするのは愚かなのではないか?」と疑問を投げかける。

 同氏は講演のあとに行なわれたパネルディスカッションの席上でも以下のように文化庁を痛烈に批判していた。

 「文化庁がこれ以上狂った政策を続けていいのだろうか? というのが根本的な問題だと思う」

 「文化庁は霞ヶ関でも孤立している。総務省が2010年の国会に出す『情報通信法』の基本は通信と放送の区別を廃止すること。インフラとプラットフォームとコンテンツを3つの水平のレイヤーに分けて、オールIPを前提にして業界別の規制をなくす……ということを経済産業省も進めている。情報通信を所管している官庁は通信と放送の区別はなくなるし、なくすべきだと考えているのに、文化庁は公衆送信の枠組みでやろうとしている。文化庁と、経産省・総務省との間に整合性がない。これは政府として情報通信に対する政策がないとしか言いようがない」



情報は複製されてこそ価値がある


 慶応大学の斉藤氏は、今回の措置は「より自由な権利者と不自由な権利者」を生み、「大手の権利者とそうでない権利者」の格差を広げる。これにより「インターネットの自由度が大きく損なわれる」とコメントした。ここでいう権利者とは、著作権者だけではなく、コンテンツを閲覧するオーディエンスも含まれる。

斉藤氏

慶応義塾大学 デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構専任講師の斉藤賢爾氏

 斉藤氏は「情報は伝わって初めて価値が生まれる」と述べる。情報が伝わるということは、自分の手元にある情報が相手に複製されるということだ。したがって、ダウンロード違法化は情報の価値を制限する。

 「デジタル化の本質は数にして伝えることで効率的な複製が可能になること。複製のされ方に制限が加われば、価値の生まれ方にも制限が生じる」(斉藤氏)

 また、技術者の立場からデジタル化されたコンテンツに対して「(違法とされる)ダウンロードと(違法とされない)ストリーミングの区別はできない」「録画・録音とそれ以外のデータの区別はできない」「情(=違法ダウンロードサイトかどうか)を知っているかどうかの区別もできない」とコメント。

 技術革新がめまぐるしく進む社会の中で、将来を見こした物事の決め方がなされるべきだと主張した。



自分の頭で判断することが必要


津田氏

IT・音楽ジャーナリストの津田大介氏

 シンポジウムでは、ITジャーナリストの津田大介氏が、著作権法は1997年の送信可能化権以降、強化の一途をたどってきたと紹介した。

 合わせて「違法な録画や録音を減らしたいという目的に対して、ダウンロードの違法化がもたらす実効性と副作用のバランスは取れているのか」「違法行為と適法行為の境界が曖昧な中、いたずらに萎縮効果だけを生んでいないか」「著作権法の制約により、インターネットサービスの革新を妨げて国際的な孤立を生まないか」「これだけ影響範囲の広い法律を当事者不在の状態で、一部の権利者だけで強行することに問題はないのか」と問題を投げかけた。


 小倉氏、池田氏、斉藤氏のコメントはそれぞれの立場から、この問題に対する見解を提示した形となる。

 モデレーターの小寺氏は「違法にアップロードされたものをダウンロードするのも違法でしょうというのは、キャッチフレーズの勝利。分かりやすいロジックなので、そこで思考が停止してしまう。しかし、問題意識を持っている人がそうじゃないとやっていかなければならない」と、コメントした。

 同氏は、はてなのサイトで実施した2つのアンケートを引用しながら、ダウンロード違法化について反対派が約70%、委員会での決定がパブリックコメントを反映していないが64.1%という結果だったと述べた。しかし、その一方で「分からない、どちらとも言えないという回答も意外と多い」と、違法コンテンツのダウンロードを罪に問うことがなぜ問題視されているかというメッセージを、MIAUとしてうまく伝え切れていない点も認めた。

 いずれにしても一番重要なのは、これらの視点を手がかりに「違法なコンテンツのダウンロードはよくない」という論理の裏側をもう一度咀嚼吟味し、読者自身の判断を下せるようにすることだ。

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