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高画素競争だけが、正義ではない

『K100D Super』に見る、一眼レフの進化樹

2007年08月21日 15時13分更新

文● 小林伸(プロカメラマン)

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高画素の撮像素子は分かりやすい指標だが


 撮像素子の進化の速さには、めざましいものがある。技術の順当な進化として、撮像素子の高画素化があるという点は筆者も否定しない。

 しかし、あまりに速いモデルチェンジによって、撮像素子のポテンシャルを存分に生かせるころには、撮像素子そのものが陳腐化してしまっているという逆説が導き出されているのではないかとも感じるのだ。本来の絵をユーザーに見せる前に、その撮像素子を搭載したカメラそのものが市場から消えてしまう。

 カメラメーカー各社が力を入れている高画素な撮像素子の搭載は、基本的には“カタログスペック上の訴求効果”が大きいのではないだろうか。あるいは、半導体技術の進化に追いついていくために、自社技術を蓄積していかなければならないという“メーカーの都合”に起因する部分もあるかもしれない。自社で撮像素子まで生産しているメーカーは、ロードマップに沿って新しい撮像素子を作っていかざるを得ない面もあるため、後者の傾向が強まるようだ。

 一方で私はこれまでの600万画CCD搭載機種でK100Dの画像の出し方を超えたものは正直ないと思っている。それは、数々の試行錯誤を経て、アナログ回路のノイズ対策を限界まで試した、ノウハウの結晶とも言える。その結果は最高感度ISO 3200の画像にも表れている。まるで子供が泥団子に砂をかけながら磨いて光らせていくように、重箱の隅をつつくようなブラッシュアップを重ねる姿は、見ていて気の遠くなる作業だ。ここに光学メーカーであるペンタックスのこだわりを感じるのだ。

 もちろん同じ製品を作り続けていけば、製造コストの低減にもつながる。ユーザーの手に届く製品が安価になるということはユーザーのメリットにこそなれ、デメリットになるとは思えない。



最適な道具というものを考えよう


 とはいえ、エントリークラスのデジタル一眼レフカメラも軒並み1000万画素クラスの撮像素子を搭載している昨今、K100D Superの600万画素のCCDでは見栄えがしないという意見もあるだろう。いまや、600万画素クラスの撮像素子を使用しているのは、K100Dシリーズを除けば、ニコン(株)の『Nikon D40』ぐらいである。

 “大きな画素数=いいもの”とメーカーは盛んに宣伝する。一方で、一般ユーザーにとって、最低限どのぐらいの画素数が必要なのかという議論はあまりなされていない。

 ここで、撮影した画像を出力するケースを考えてみよう。実際は600万画素でも困らないシチュエーションが大半なのだ。600万画素(3008×2000ドット)あれば、A4サイズの用紙に出力した場合でも、300dpi程度の解像度が得られる。雑誌などの商業印刷も300~400dpi程度の解像度で印刷されているため、撮影した画像の一部を切り抜く処理などを行なわない限り十分なサイズである。

 画像を画面で確認するだけなら、その半分の解像度でも十分だろう。ウェブに小さい写真を載せる用途はもちろんだが、フルHDのハイビジョンテレビでも200万画素(1920×1080ドット)程度のドット数しかない。3:2の縦横比を16:9にトリミングしても300万画素あれば十分だ。

 もちろんプロの現場では、1000万画素の解像度が必要になる場面はある。例えば、B5サイズの雑誌の見開きいっぱいに写真を使いたい場合などでは600万画素では足りない。

 しかし、一般ユーザーが気軽に使える用途を考えると、600万画素は不足ではない。逆に、RAW形式で保存をしようと思うと、ファイルサイズが必要以上に大きくなり、現像処理に必要となるマシンのスペックも余計にかかるといったデメリットもある。

 いずれにしても“大きな画素数=いいもの”の図式は、そろそろ見直すべき時期なのではないだろうか。車に例えれば、確かに「大きな排気量の大型車」は「高性能」である。しかし、その車は狭い路地をスイスイと走れるだろうか?

 誰にでも自分の使用条件に合った物がある。ただ、多くのユーザーは自分にとって最適な使用条件が判断できないために、余裕を持った(持ちすぎた)物を選択しがちなのだ。

 デジタル一眼レフは、進化の過程にある。その過程で旧機種の陳腐化が進むのにはやむを得ない面はあるだろう。しかし、その一方で愛着を持った機種を長く使いたいというニーズも今後確実に増えてくる。頻繁なモデルチェンジと仕様の一新によって購買意欲をあおるだけではなく、ブラッシュアップしながら、ひとつのコンセプトを熟成していく、その過程で本当に必要な機能だけを追加してロングセラーとなる商品を作る。これからはそういったアプローチも求められてくるのではないか。

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