以前書いたコラムで、プロでも中級機をメインに使用しているケースが多いと書きました。このコラムに読者から「プロなのに中級機を使用するなんて意外」という反響をもらいました。そこで今回はいわゆる「プロスペック機」と実際にカメラマンが使っているカメラのギャップについて書いてみようと思います。
「どんな道具が必要か」を見極められるのがプロ
一口に「プロカメラマン」と言っても、実際にはさまざまジャンルのカメラマンがいることをご理解いただきたいと思います。報道やファッション、風景(ネイチャーフォト)など撮影対象も多彩で、カメラに求められるスペックも「何を撮るか」でまったく異なってしまうのです。
私が若い頃お手伝いしたことのある写真家(スナップや人物撮影で非常に有名です)は、撮影現場にレンジファインダー式のブローニーカメラ、中級クラスの一眼レフ、コンパクトカメラを持ち込み、機材ワゴンの上にずらり並べていました。特別プロ機と呼ばれるものにこだわった機材選びではなく、自分のスタイルに合ったものをその場のノリで持ち替えている感じでした。
また別の写真家は、フィルムカメラからデジタルカメラへの移行機に価格の下がってきた(といっても当時はまだ高価な)デジタル一眼レフカメラを手にしたものの、結局はボディーの軽さと色にほれて、キヤノンの入門機「EOS Kiss Digital」をメイン機にしてしまいました。
スポーツ(Jリーグ)の仕事をしている古い友人は、何はなくとも連写速度が欲しいと、その当時一番連写速度の速かった「ニコンD2Hs」を選択しました。彼の場合、画像の使用はウェブ掲載がメインなので解像度(画素数)にはそれほどこだわりがなかったようです。
全部盛りじゃ、胃がもたれるときもある
結局のところ、メーカーの言う「プロスペック機」とは、プロが撮りうるすべてのジャンルをカバーできる製品ということなのでしょう。しかし、誰もが不満なく使えるカメラというのは往々にして、プロにとってもオーバースペックになっている場合が多いというのも事実です。
例えば、手軽なスナップを身上としている人に、いくら画素数が多くて連写速度が速くても、レンズ込みで2kg近い重量になってしまうようなカメラは持ち運びに最適とは言えません。しかし、2kgという重さも機材の堅牢性を第一に考える人なら納得できる重さと考えるでしょう。
同じように、速報性を求める人はRAWデータの現像処理は時間がかかりすぎムダと感じるかもしれません。しかし、色の再現性を求める人にはRAWデータを処理した画像のほうが確実性があります。
「ある人にとっては必要でないもの」も「ある人にとっては重要」というのがプロの世界なので、そのニーズをすべて満たすことは容易ではありません。結果として、相応の価格とボリューム感を持った製品ができあがってしまうのでしょう。
そういう意味では、ラーメンで言うところの“具全部盛り”状態になっているのがプロスペック機と言えるかもしれません。