政府の知的財産戦略本部は3月29日に本部会合を実施し、インターネットで流通する海賊版の取り締まりを強化する内容を含む報告書を提出した。著作者が意図しない海賊版が、個人レベルで不正コピーされることを規制することが目的で、法改正も視野に入っている。該当部分の文章は以下のとおり。
インターネット上の違法送信からの複製や、海賊版CD・DVDからの複製について、私的複製の許容範囲から除外することについて、合法的で、ユーザーが利用しやすく、クリエーターへの利益還元も適切になされる新しいビジネスの動きを支援するため、情報の流通を過度に萎縮させることのないよう留意しながら、 著作権法の規定の見直しを進める。
“世界最先端のコンテンツ大国の実現を目指して”(PDF)
資料には具体的なサービス名が記載されていないが、おそらくは“YouTube”に代表される動画共有サービスや、『Winny』などのP2Pソフトを利用し、インターネットに不正にアップロードされたコンテンツをダウンロードする行為そのものを違法化しようということだ。現行の著作権法では、インターネット上のサーバーへのアップロードは違法行為(送信可能化権の侵害)となるが、一度サーバーにアップロードされたコンテンツをダウンロードすること自体は違法ではない。
著作者側からこの行為を規制したいという意見が出るのは当然とはいえ、ユーザーの立場としては「そこまで規制しなくても」と感じる人も少なくないはずだ。YouTubeやニコニコ動画といった動画共有サービスは、ユーザーが不正コピーに触れる機会を増やしたのと同時に、新たな“知る機会”を提供したという側面もある。
オンライン配信や著作権に詳しく、文部科学省の著作権分科会 私的録音録画小委員会にも参加するジャーナリストの津田大介氏は、今回の報告書に関して以下のように語る。
今、知財本部や文化庁の審議会では、著作権法第30条で定めている私的複製の範囲について、さまざまなポイントで議論されている。友人から借りた音楽CDをコピーするのは私的複製にあたるのか、レンタルしたものをコピーする場合はどうなのか、違法にアップロードされたコンテンツをダウンロード(コピー)する場合は違法なのかといった具合だ。
今回の報告書において、知的財産戦略本部は、不正コピーのダウンロードなどを法律で明確に私的複製の対象外にすることを考えているようだ。ユーザーのそうした行為を“犯罪”と定めることで、不正コピーに対する抑止力を生じさせようというのが狙いだ。しかし、現実問題として私的複製の範囲を変更したところで“実効性”の面で考えれば疑問の残る部分は多い。
例えば、ユーザーが持っているデジタルコンテンツが違法かどうかをどうやって見分けるのか。法律に違反した場合、だれがどうやって確認して捕まえるのか。絶版や海賊版など入手しにくいコンテンツを資料としてコピーしたい場合はどうするのか。
法律で禁じられると、多様なコンテンツに気軽に触れられなってしまうことも考えられる。不正コピーをダウンロードするのではなく、ウェブブラウザー上で再生するためにメモリーやHDDにキャッシュする行為ですら違法とされてしまう可能性もある。
極端な話をすれば、私的複製の範囲をいたずらに狭くすることで、何千万人を一挙に犯罪者にしかねないということだ。国民の多くを意識させないままに、そういう法改正を行うことが果たして法治国家として正しい方向なのかという疑問も湧いてくる。個人的には非常に危険な流れだと感じている。
著作権法の改正は、著作者、流通業者、ユーザーといったさまざまな立場の利害や力関係が絡むこともあって単純ではない。いずれの側にも偏らず、バランスの取れた法改正になってほしい。
