スマホのOS市場を独占するアップルとグーグルに対して、競争を促す法律が2025年12月18日に施行されることになった。
この「スマホソフトウェア競争促進法」(以下、「促進法」という。)は、おおまかに次のような内容だ。他社がアプリストアを開発して、iOSやAndroid上で運営できるようにさせる。ユーザーが検索エンジンを自由に選ぶことができるようにする。同法を担当する公正取引委員会が15日に公表したガイドライン(指針)は、どのような行為がこの法律に抵触するのか、かなり細かく考え方を示している。
iPhoneが登場したのは2007年のことだ。そして、最初のAndroidスマホは2008年に登場した。その後はしばらく、マイクロソフトのWindows Mobileや、BlackBerryなどある程度、複数社が両社に挑む状況があった。しかし、遅くともこの10年はアップル、グーグルの2強がスマホOSの市場を独占する状況が固定化している。
公取委が担当する独占禁止法と促進法は突き詰めると、「マーケットに競争があるからこそ、イノベーションが生まれる」という共通した考え方が根底にある。しかし、多くのユーザーはこの10年、アマゾンのAndroid端末などの一部を除き、iPhoneのユーザーはApp Storeで、AndroidのユーザーはGoogle Playでアプリをダウンロードする状況を、ほとんど当たり前のものとして受け入れてきたのではないか。
EUにはすでに、両社を含むプラットフォーマーを規制するデジタル市場法(DMA)という法律がある。促進法は、日本版DMAとも呼ばれている。新しい法律の施行は、こうした状況に変化を生み、イノベーションを生むきっかけになるだろうか。
アプリの利用のあり方は大きく変わる
まず、促進法の施行でアプリに関わる支払いのあり方は大きな変化が生じるだろう。促進法は、「代替支払管理役務等の利用を妨げること」を禁止している。現在のスマホOS2社のアプリストアは、原則として、アプリストアを通じた支払いを求めている。
たとえば、アマゾンの電子書籍Kindleは、電子書籍を読むデバイスのKindleは、アップルのアプリストアから直接決済して購入することができる。しかし、Kindleで読む電子書籍を購入しようとすると、「このアプリではこのコンテンツを購入できません」という表示が出る。ユーザはー、PCのブラウザや、電子書籍リーダーから電子書籍を購入することになる。
ゲームなどのアプリも、状況はおおむね同じだろう。スマホで使うゲームの購入や、ゲーム内のコインなどはアプリストアからの支払いが原則とされている一方で、同じゲームが保存されたカード型のROMであれば、通販アプリで購入できる。
しかし、促進法は12月以降、アップルやグーグルに対して、代替となる支払いの手段を妨げることを禁じる。このため、アマゾンのアプリから電子書籍を直接購入することができるようになり、ゲームの運営会社が提供する決済システムからゲーム内の通貨を購入することもできるようになると考えられる。
促進法のガイドラインは、具体的な「想定例」も示していて、「代替的な支払手段」を提供する事業者に意地悪ができないよう、けん制している。たとえば、次のような意地悪がすでに想定されている。
代替的な支払手段を提供したから、アプリストアで、そのアプリが表示される順位が下がるようにアルゴリズムに手を加える。代替的な支払手段を提供するアプリの審査を厳しくしたり、異常に長くしたりする。
ガイドラインで、可能な限り具体的な事例を示すことで、アプリを開発する企業側も、「これはおかしい」と言いやすい環境ができるかもしれない。
新たなアプリストアは登場するか

この連載の記事
- 第340回 政府、海外の研究者獲得に1000億円 受け入れ準備、世界に出遅れ
- 第339回 スマホにマイナカード、大丈夫? 競争と安全のバランス、さらに難しく
- 第338回 「米国SNS検閲ならビザ発給制限」トランプ政権の狙いは
- 第337回 ステーブルコイン、米国と香港で法制化に進展 トランプ氏の蓄財装置にも
- 第335回 日本のコンテンツ産業、海外市場で“半導体超え”──20兆円市場の鍵を握るのはマンガか
- 第334回 証券口座乗っ取り、自衛しないとまずい
- 第333回 トランプ大統領の仮想通貨「TRUMP」が急騰 親族の蓄財か?
- 第332回 “ブロッキング”議論再燃 オンラインカジノめぐり
- 第331回 「タイミーだけのお店」登場──スキマバイトは飲食業を救う?
- この連載の一覧へ