この秋、私はいくつかのイベントに関係させてもらっているが、そのうち、9月に新宿、11月に長岡でひらかれる2つのすばらしいイベントを紹介させてもらいたい。
「はるこの秘密 Vol.32」が開催
私が月刊アスキーの編集長をしていた頃、誌面でいちばんといっていいほど楽しい原稿を書いてくれた1人が桃井はるこさんだった。
小学生の頃から秋葉原に通いはじめて、1995年の夏、高校在学中に、のちのとらのあな創業でも知られる神林ビルにあった「くず屋うさぎ堂」でアルバイトを始めている。まだインターネットがようやく世の中に知られはじめた頃に、すでに「桃井はるこの秘密日記」というサイトを持っていた。
1996年には、新宿ロフトプラスワンにおいて「はるこの秘密 Vol.1」が開催される。
その後の現在にいたる活躍に関しては、「萌えソング」というジャンルをほとんど一人で立ち上げてしまう。「元祖アキバ系女王」と呼ばれる歌手・声優・作詞作曲家であり、JR秋葉原駅の電気街口にある時計塔は「モモーイ時計」とも呼ばれる。
その桃井はるこさんの連載を、私が編集長をつとめていた『月刊アスキー』では、1998年4月号から2002年6月号まで、4年あまりにわたって掲載させてもらっていたのだ。
1980年代前半の月刊アスキーのアイドル的著者が、コーナー「TBN」に連載していた「Yoのけそうぶみ」の鷹野陽子さんなら、1990年代後半に読者へ熱いオタクメッセージを送り続けたのは、桃井はるこさんに違いなかった。
2000年12月号では、インターネット博覧会の担当大臣であり経済企画庁長官の堺屋太一氏を取材。その場で、インターネット博覧会の黙認イメージソング「インパク音頭」の制作が決まり、いまもネットで公開されている。さすが、著書『知価革命』で情報化社会をいちはやく予見したことでも知られる堺屋先生にして、この秋葉原感というものだ。
「桃井はるこ新聞」(『月刊アスキー』2000年12月号)より。桃井「東京のだいたいの駅前には“まんが喫茶”っていうものがあるんですが、こういう所にぜひ光ファイバーを引いていただきたいなあ。」、長官「これからまず、学校などから始めますが、競馬中継がちゃんと見られるのが、10Mだと言いますよね……。面白くて、便利がなくてはならない」。堺屋先生が「桃井はるこ新聞」に宛てた色紙が紹介されている。「「稚(こども)の夢、鬼の気迫、人の才能、仏の心」という意味だそうだ。すばらしい。
ちなみに、昨年74年の歴史の幕を閉じた秋葉原ラジオセンターの万世書房の店主は、小さい女の子の頃から秋葉原に通っていた桃井さんを覚えておられたというのがまた凄い。
その桃井さんが、活動30周年だという。これは、たしかにすごくない!? というわけだ。
今回の「はるこの秘密Vol.32『30周年ってすごくない!?』」は、2026年9月22日(火・祝)、新宿ロフトプラスワンで昼と夜の2部制でおこなわれる。昼の部に、すがやみつるさんと私がゲストで呼ばれている。テーマは「PC・ケータイ・カメラ・雑誌! あの日の相棒・秋葉原とヲタクの未来」だそうだ。
すがや先生といえば、『ゲームセンターあらし』のまんが家であり、同時に、『こんにちはマイコン』という、まんがでプログラミングを教えてしまう本を描いた人物でもある。『こんにちはマイコン』でBASICを覚えた、といういまのエンジニアや研究者は、この日本には本当に多い。
そのすがやさんと桃井はるこさんに交じって、私がトークさせてもらうというのは、楽しみでもありちょっと怖くすらある。私などは傍観者の部類で、アキバ、マイコン、萌え、プログラミング・・・そこらには転がっていない、“ホンモノ”の意味を知っている人たちだからだ。
もっとも、私も一度、この「はるこの秘密」に出演させてもらったことがある。そのときは、サプライズゲストだったのだが、登場したばかりのMP3プレイヤーに入っていた韓国語の解説音声(それがMP3がいかにこれから世界の音楽シーンを変えるかという興奮気味のすばらしい内容=まったく韓国語はわからないのだが)を、私は独自解釈で同時通訳させてもらった。
それから、韓国の萌え系アイドル2人組や五十音をすべて発音するだけの台湾のアイドルソングなんかを紹介させてもらいつつ、サーキットベンディングの『Speak & Spell』をプレゼントさせてもらったのを思い出した。
桃井さんといえば、1998年の11月、月刊アスキー主催のシアトル、COMDEX開催中のラスベガス、ニューヨーク、ボストン、シリコンバレーを駆けぬけるツアーに参加してくれたことがあった。
ボストンではMITメディアラボを訪問。偶然なのだがCSK会長大川功氏が講演されていて(大川センターのときですね)、セガの湯川専務と遭遇。テトリスの共同開発者ワディム・ゲラシモフ氏、LEGOマインドストームの開発者たちに会い、タンジブルユーザインタフェースで知られる石井裕さんの研究室も訪問させてもらった。
その石井さんが、11月に長岡に来る。
11月、長岡で「人類のミライへ」
もう1つのイベントは、2026年11月28日(土)・29日(日)に新潟県長岡市でおこなわれる「人類のミライへ in NAGAOKA 2026」だ。
講演会、AIを使って制作された絵画やアプリを展示・表彰するコンテスト、親子で参加できる体験型ワークショップなどからなる大型イベントだが、なんといっても講演会の登壇者がすごい。
石井裕さん(MITメディアラボ副所長)、暦本純一さん(東京大学名誉教授・ソニーコンピュータサイエンス研究所副所長)、稲見昌彦さん(東京大学大学で、光学迷彩マントの発明者)、そして落合陽一さん(筑波大学でメディアアーチスト)。ナビゲーターは清水亮さん(FreeAI ltd.共同創業者)である。それぞれ、誰にも似ていないスタンスで日本のコンピュータサイエンスを引っぱってきた人たちである。
公式サイトを見ると、それぞれの登壇者のところに「世界で活躍する人材になる方法を聞こう!」「人類を変える発明をする方法を聞こう!」「超人になる方法を聞こう!」「アーティストになる方法を聞こう!」といった調子の言葉が添えてある。
いまどきのAIがどうこうとか、最新事情がこうだから遅れてはダメだのといった話ではない。
AI時代のその先に何があるのかは、世界中の誰にもわからない。ニュースを追って右往左往してもしょうがない。結局、意味があるのはAIにしっかり取り組んでいくことだけといってもいい状況である。では、そのときどんな態度でいればいいのか。
人の人生を決めるきっかけは、たった1つの出来事や出会いだったりする。毎日の学校の授業も大切ではあるが、ある日聞いた一言だったり、知った事柄だったりするのではないか。最先端で活躍している人たちに、なぜそれができたのか、いちばんヒミツで価値のある部分を話してもらおう、というイベントなのは価値がある。
目の前の答えを求めるよりも、若い人がどう育つかのほうが重要だからだ。
長岡という「学びの磁場」
たぶん、長岡というところに関しては「花火が有名ね」くらいしかイメージを持っていない人も多いと思う。さらにいうと「米百俵プレイスってどういうこと? 新潟だからお米たべれる?」くらいに思われそうである。
「米百俵」というのは、2022年の映画『峠 最後のサムライ』と同じ戊辰戦争の時代の逸話である。戦争で敗れた長岡藩に、支藩の三根山藩から見舞いの米百俵が届く。藩士たちは分けてくれと言ったが、大参事の小林虎三郎がそれを売り、その金で1870年に「国漢学校」を開いたのだ。
いま食えないからこそ、学校を建てて人を育てるのだ、というのである。長岡の子供は、小学生くらいからこれを繰り返し聴かされて育つ。
それと直接のかかわりは私は知らないのだが、長岡という土地には、学びや本やメディアに関して「磁場」のようなものを持っている。
戦前最大の出版社で、雑誌『太陽』などで一世を風靡した「博文館」の創業者・大橋佐平は長岡の出身。博文館から派生した書籍取次の東京堂、のちの取次最大手トーハンの源流のひとつともいわれる。出版や書店の東京堂もそうだが、神田神保町に縁が深く、古書店の創業者にも長岡につながる人が多い。
その神保町は、2025年にタイムアウト誌の「世界で最もクールな街」ランキングで堂々の1位に選ばれた。100軒以上の古書店が軒を連ねる、本好きの楽園である。
ところが、あれだけの街なのに、神保町にはヘソがないと思う。街の歴史がわかるスポットがない。だったら、そこに長岡とのつながりや神保町の歩みがわかるカフェなどあったらいいと密かに思っている私である。
カフェでは、長岡のお酒や茶豆と呼ばれる旨い枝豆もだが、これから話題になると睨んでいる長岡風の醤油おこわや地方グルメでは有名なフレンドのイタリアンはどうだろう。
さて、「人類のミライへ in NAGAOKA 2026」に話を戻すと、講演会のほかにもいくつか企画がある。
「ながおかAIクリエイターズマーケット」があり、「小中学生AI絵画コンテスト」があり、「AIアプリコンテスト」がある。絵画コンテストの審査員はメディアアーティストの八谷和彦さん、AIアプリコンテストの審査員は私が務めさせてもらう。生成AIを使って制作したアプリケーションのコンテストのテーマは「越」となっている。
生成AI作品なら誰でも参加・展示できる「ながおかAIクリエイターズマーケット」も楽しそう。
11月、長岡で会いませんか。
■関連リンク
遠藤 諭(えんどうさとし)
新潟県長岡市出身。角川アスキー総合研究所リサーチパートナー、MITテクノロジーレビュー日本版アドバイザー、ZEN大学客員教授、ZEN大学 コンテンツ産業史アーカイブ研究センター研究員。プログラマを経て1985年に株式会社アスキー入社。月刊アスキー編集長、株式会社アスキー取締役、株式会社角川アスキー総合研究所取締役などを経て、2025年より現職。雑誌編集長時代は、ミリオンセラーとなった『マーフィーの法則』など書籍も手がけた。著書に、『計算機屋かく戦えり』、『近代プログラマの夕』(ともにアスキー)など。
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