物流大手が、ステーブルコインを発行するスタートアップ企業と資本提携した。
アマゾンの配送などを請け負う物流大手AZ-COM丸和ホールディングス(以下、「丸和」)が2026年7月22日、日本円に連動するステーブルコイン「JPYC」を発行するJPYC(以下、「JPYC社」)との資本業務提携を発表した。JPYC社は、2025年10月に日本で初めて円と連動するステーブルコインの発行を始めた企業だ。丸和の適時開示資料によれば、JPYC社の11万6000株を引き受け、10億108万円を出資する。出資後の議決権保有比率は2.9%となる。
ステーブルコインの発行開始前ではあるが、2025年7月期の決算で、JPYC社の売上高は300万円、営業損益は6億1200万円の赤字だった。この決算後の同年10月に、JPYCの発行を始めているため、同社の業績には大きな変化が生じている可能性は大きいが、丸和側としては、JPYC社のどこに可能性を見出したのだろうか。
小規模の事業者がひしめく物流業界
丸和は、東証プライム市場の上場企業だ。丸和が中核としている事業は、サードパーティ・ロジスティクス。サードパーティ・ロジスティクスは、荷主企業の物流業務を倉庫の運営から配送まで一括して請け負う事業を指す。丸和はアマゾンジャパンのほか、ドラッグストア大手のマツキヨココカラ&カンパニーなどを大口顧客に持つ。ヤマト運輸や佐川急便といった、個人からも配送を請け負う企業とは異なり、丸和はいわゆるBtoB(企業間)のビジネスを主戦場としているため、一般には社名が浸透していないのだろう。
2026年3月期の有価証券報告書を確認すると、アマゾンジャパンが最大の顧客で、アマゾンジャパンを取引先とする売上は、全体の三分の一を占め、約775億円にのぼっている。
丸和がステーブルコインの発行企業に出資を決めた背景を理解する前提として、物流業界の構造を押さえておく必要があるだろう。現在の物流業界には、小規模の企業と個人事業主が大量に参入している。
国土交通省が公表している統計「貨物自動車運送事業者数」によれば、2025年3月末時点で、運送事業者は62383事業者。そのうち、「一般」に分類される56954事業者は、配送を担う中小規模の事業者が多く、約46.1%が従業員10人以下の小さな事業者だ。
丸和の関連団体に、「一般社団法人AZ-COMネットワーク」という団体があり、この団体が、会員の中小企業に対し、必要な資材やガソリンの共同購入、高速道路料金の割引きといったサービスを提供している。この団体には、2968社が会員になっている。
さらに、物流には「ラストワンマイル」と呼ばれる分野がある。物流企業の配送センターから、届け先の個人宅やマンションまでの配達を請け負う仕事が「ラストワンマイル」と呼ばれている。こうしたラストワンマイルを担う「貨物軽自動車運送事業」は届出で事業を開始することが可能で、EC需要の拡大にともない、個人事業主の参入が急増している。貨物軽自動車運送事業は「黒ナンバー」と呼ばれる車両を使うが、アマゾンのラストワンマイル配送を担うのも、このカテゴリに当たる。2025年3月末の時点で、25万391事業者にのぼっている。
かなり乱暴な整理ではあるが、小規模の企業と個人事業主がひしめく物流業界で、中小の事業者を取りまとめて荷物を配送するのが、丸和のビジネスだと理解していいだろう。
運送業界でステーブルコインをどう使う?
丸和の開示資料には「一般社団法人AZ-COMネットワークにおける会員向けの便益向上や、当社が展開する『物流サービス事業』の拡大に伴い、今後は従来以上に多数の小口支払いが発生することが見込まれます」という記述がある。
この小口の支払いの迅速化と、手数料負担の軽減が、丸和がステーブルコインの発行企業に出資する意図だろう。ステーブルコインは、銀行などの送金と比較して、送金手数料が低いという特徴がある。小規模の事業者に対する支払いは、件数が積み重なれば、手数料の負担は結構つらいだろう。
開示資料には、「スマートコントラクト活用による自動化を目指す」と明記されている。スマートコントラクトは例えば、次のような仕組みが想定される。丸和が、中小の運送会社や個人事業主に対して、スマホのアプリなどで、配送の仕事を発注する。受注する側は、スマホやPCで契約の内容を承諾し、荷物を運ぶ。配送が完了した時点で、自動的に発注者側から受注者側に対して、JPYCが送られる。
ステーブルコインは、日本ではまだまだ浸透が進んでいないが、丸和とJPYCのように具体的かつ一定の規模のあるユースケースが出てきたことで、普及の起爆剤になる可能性がある。三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行の3メガバンクは、2026年度中に日本円に連動するステーブルコインの発行を目指している。
ステーブルコインをめぐっては今後数年間、企業間の決済の新しい仕組みとして、様々な動きが出てくる可能性がある。
筆者──小島寛明

1975年生まれ、上智大学外国語学部ポルトガル語学科卒。2000年に朝日新聞社に入社、社会部記者を経て、2012年より開発コンサルティング会社に勤務し、モザンビークやラテンアメリカ、東北の被災地などで国際協力分野の技術協力プロジェクトや調査に従事した。2017年6月よりフリーランスの記者として活動している。取材のテーマは「テクノロジーと社会」「アフリカと日本」「東北」など。著書に『仮想通貨の新ルール』(ビジネスインサイダージャパン取材班との共著)。
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