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業務を変えるkintoneユーザー事例 第318回

その1日の遅れで失う大切な家族の時間

紙の手続きが奪った「命の時間」 訪問看護ステーションがkintoneで実現した最短0日契約

2026年07月10日 09時00分更新

文● 柳谷智宣 編集●MOVIEW 清水 写真提供●サイボウズ

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「ミッションの数」を積み上げる地図と、現場の言葉を映す「桜の付箋」の羅針盤

 船がどこへ向かうのか。その地図にあたるのが予実管理だ。今どこにいるのかを共有することで、現在地の安心感と達成感が生まれる。菅原さんが積み上げるのは、単なる訪問件数ではない。「利用者さんのお困りごとを解決したミッションの数」と定義したうえで、その達成をグラフにしている。

「空想のデータでは意味がありません。何時から何時まで、誰が何をどれだけやったのか。一工程増えてでも、その実データが欲しかったんです」(菅原さん)

 だからこそ、入力はスマートフォンで、シンプルにプルダウンで選べるように作り込んだ。集計に使うデータコレクトも、あえて手動で動かす。1日の最後の終礼でレコード更新ボタンを押す。「データコレクトするよ」が、合言葉だ。その日の積み上げが共有され、自分たちのポータルでグラフになり、進み具合が誰の目にも見えるようになった。

スマホで手軽に入力したデータが積み上がり、誰でもポータルから確認できるようにした

 ただ、件数を積み上げるだけでは、何のためにこの仕事をしているのかを見失う時がある。そこで羅針盤の役割を果たすのが「桜の付箋」だ。事業所名のさくらにちなみ、利用者や同業者から言われて嬉しかった言葉を桜の付箋に書いて壁に貼る取り組みを、数年前から続けてきた。

 末期がんの利用者を3日ほど在宅でフォローしたことがあった。その方が亡くなった後、家族からこんな言葉をもらったという。

「さくらさんがいてくれたおかげで、私たち家族は、短い時間でしたが母と大事な時間を過ごすことができました。支えてくださって、ありがとうございました」

 冒頭の悲劇を、少しだけ払拭できたような気持ちになったと菅原さんは振り返る。やがてこの桜の付箋もアプリに載せた。すると、どこの事業所の誰がどんな言葉を書いたのかが見えるようになり、「あの人には、こんな言葉が刺さるんだ」と職員同士の交流が生まれていった。

壁に貼っていた「桜の付箋」をアプリ化し、職員間の交流が生まれた

訪問キャンセルが減り、サンキューカードが生まれた kintoneで作る「幸せの仕組み」

 フローの改善は、思いがけない変化も連れてきた。まず、訪問のキャンセル数が減ったという。利用者にかけられる時間が増え、やるべきことに加えて、ほかのことにも目を配れるようになったからではないか、と菅原さんは分析する。

 桜の付箋をきっかけに、職員たちは自発的に「サンキューカード」を始めた。同じ仕組みで、職員同士の感謝や素直な気持ちが交わされるようになった。あるスタッフは、震災で大変な思いをしたのち、成人した子どもを連れて1週間の休みを取り、奄美へ出かけた。その投稿には、仲間から「ゆっくりしてください」「楽しんでください」と声がかかった。

「私たちの業界で1週間休めるのは、自分の親の葬式か、自分の結婚式か、そのくらいというのが常識でした。それができるようになり、しかもお互いを大事にできるようになったんです」(菅原さん)

1週間休むこともできるようになり、仲間からも温かいコメントが集まるようになった

 菅原さんは、ある被災者宅での訪問が終わる日のことを話したことがあるという。その人が「菅原さんにお願いがある」と切り出した。自分が死んだら葬式に来て、東京にいる息子に伝えてほしいことがある、と。

「お母さんは幸せだって、伝えてくれ。被災して、脳梗塞になって、こんなボロ屋で不憫な暮らしをしていると思っているだろうけどね。さくらが来てくれて、リハビリだけじゃなく、いつも私の話を聞いて、心まで癒してくれる。こんなに幸せなことはなかった。離れて暮らしていることを後悔しないでね。お母さんは本当に幸せだって、そう伝えてほしいんだ」

 もっとも、この願いはまだ叶っていない。「うちのリハビリで、今もピンピンしていますから」と菅原さんは笑う。

「私たちAKASIがkintoneで得たもの。それは、患者さんの幸せ、利用者さんの幸せ、会社が目指す幸せ、そして職員一人一人の幸せ。その「幸せの仕組み」を作れるようになったことです」(菅原さん)

 この仕組みを、これからは地域のネットワークに乗せて広げてみたいという。kintoneなら難しくないはずだ、と菅原さんは見据える。

「AKASIのkintoneは未完です。3年に一度、制度が変わり、仕組みも変わる。だから完成することはないと思います。それでも、この先もkintoneと一緒に作り続けていきたい。私の発表が、どなたかのDXの背中を押して、誰かの幸せの一助になればと願っています」(菅原さん)

質疑応答

セッション後、サイボウズの山本祐弥さんから菅原さんに質問が投げかけられた。

サイボウズ山本さん:0日訪問の実現には、行政との相談など苦労もあったと思います。医療業界は、クラウド上に患者データを載せることに抵抗があるという印象もありますが、病院側への説明はどのように進めたのでしょうか。

菅原さん:関係性に助けられた部分もありますが、それをすると何が起きるのかを、ひとつひとつ丁寧に説明しました。「そうでしょう」と言いくるめるやり方では、絶対にうまくいきません。本当に大事にすべきことを見失わないよう、言葉を選び、共感をいただきながら進める。それが何より大事でした。

サイボウズ山本さん:見やすいスケジュール画面が印象的でした。スマートフォンでの入力を前提に、プルダウンなどを工夫されています。社員の方に使い勝手を聞きながら設計されたのでしょうか。

菅原さん:「こういうものを使いたい」と出すと、「どうやるんですか」「この辺は大変ですね」と返ってきます。技術的に難しければ「ここはやめておこう」「今はこのあたりまでにしておこう」となることもある。改善できるものは改善する。そうやって現場とすり合わせてきました。

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