要素はそろった。それでも動かない核融合。日本は「サプライヤー」から抜け出せるか
技術が進んでも動かない理由と「統合」を巡る次の論点
核融合をめぐる動きが、ここ数カ月で一気に具体化してきた。青森県は「核融合拠点化」を掲げ、六ヶ所村を中心に産業集積を進める方針を打ち出した(参照)。量子科学技術研究開発機構(QST)は、発電実証を担う「原型炉」の建設費を最大2兆円とする計画案を提示し、2030年代後半の実現を視野に入れる(参照)。茨城県那珂市の「JT-60SA」も本格的な運転フェーズに入り、実用化に向けたデータ取得が始まっている(参照)。
政策や研究開発の枠組みの面では、核融合はすでに具体的なプロジェクトとして動き始めている。だが、それだけで産業として成立するわけではない。
もちろん技術の面でも前進は続いている。ヘリカル型では、発電プラントに先立つ統合実証段階で実際に使用されるコイルケースの完成が発表されるなど(参照)、装置を構成する要素は具体的な形として現れ始めている。材料、加工、制御といった分野でも企業の参入は広がり、サプライチェーンは着実に厚みを増している。
個々の取り組みは前に進んでいるが、それぞれがどのようにつながり、発電所という形にまとまっていくのか。個別の発表だけが積み重なっている中で、炉方式や立地、プロジェクト主体といった全体像は実はまだ定まりきっていない。全体としての動きが見えにくく、バラバラに進んでいるようにも感じられる。こうした状況の中で、ヘリカル型核融合炉による発電を目指すスタートアップである株式会社Helical Fusionに、現場の捉え方を聞いた。
技術はあるのに、まとまらない日本
核融合は、単一の技術で成立する産業ではない。炉本体に加え、燃料供給、冷却、発電設備、運転・保守といった複数の要素が組み合わさって初めて、発電所として成立する。問題は、それぞれの技術があるかどうかではなく、それらをどう組み合わせ、誰が全体を設計・主導するのかという点にある。
FASTやヘリックス計画といったプロジェクト、J-Fusionのような枠組みは存在するものの、それぞれがどうつながり、どの役割を担うのかは外部からはまだ読み取りにくい。どのプレイヤーが全体をまとめるのかという前提が固まらないまま、取り組みが並行して進んでいる。この状況は現場ではどのように捉えられているのか。
Helical Fusionの執行役員COO兼 事業開発部門長の久保洋介氏は、日本の状況をこう説明する。
「日本の強みは、やはりものづくりです。サプライチェーンも含めて、技術の蓄積はかなりあります」
ただ、その強みはそのまま制約にもなり得る。日本はこれまで、部材や要素技術では競争力を発揮しながらも、最終製品の主導権を握れなかったケースが多い。
「サプライチェーンだけでは主導権は取れない。個々の技術が優れていても、それを束ねる主体がなければ産業としては立ち上がらないのです」
久保氏が指摘するのは「産業の組み立て方」の問題だ。要素技術やサプライヤーがそろっていること自体は強みだが、それだけでは発電所という最終形には到達しない。全体を設計し、責任を持ってまとめる主体がなければ、技術は点のままにとどまる。
「作れるが、決められない」構造
さらに、この構造は資金と意思決定にも影響している。核融合では、発電実証を担う原型炉の建設費が最大2兆円と試算されるなど、巨大な投資が前提となる。しかし、その資金を誰が担い、どのように意思決定するのかはまだ輪郭がはっきりしていない。
「技術も企業も、ある程度はそろってきています。ただ、それを実際のプロジェクトとして動かすための資金の流れが、まだ十分にできていない」
つまり、資金の不足というよりも「意思決定の主体」が定まっていないという問題だ。誰がプロジェクトを主導するのかが決まらなければ、資金も人材も集中せず、全体は動かない。
海外では対照的な動きが見られる。米国や中国では、建設地やプロジェクト主体を先に決めたうえで、資金と人材を集中させる形で技術・サプライチェーンは後追いで開発が進められている。
一方、日本では技術開発を起点に個別の取り組みが積み上がりやすく、全体を束ねる前提が後追いになりがちだ。結果、資金や意思決定も分散しやすい。こうした状況を踏まえると、日本は「作れるが決められない」構造にあると言えそうだ。
日本と同じものづくり国家であるドイツは、2028年までに合計10億ユーロ(約1,600億円)超の投資を決め、研究開発と産業化を一体で進める方針を打ち出している。技術基盤を持つ国が、資金と政策を組み合わせて産業化に踏み込む動きは、すでに始まっている。
サプライヤーで終わるか、インテグレーターになるか
こうした状況の中で、核融合への関わり方は大きく2つに分かれる。
ひとつは、海外プロジェクトに対して部材や技術を供給するサプライヤーとして関わる形だ。日本の製造業にとって現実的な選択であり、すでに多くの企業がこの立ち位置で参入している。もうひとつは、発電所そのものを成立させる側に回るという選択だ。Helical Fusionは後者の立場を取る。
「核融合炉の中では、極低温の超電導と、1億度のプラズマが同時に存在する。個別の技術を足し合わせるだけでは成り立ちません。全体のバランスを見ながら設計する必要があります」
核融合は、個別技術の集合ではなく、全体設計で成立するシステムだ。その中核となる設計人材は世界でも数十人レベルに限られ、その多くが日本の研究機関に蓄積されてきた。Helical Fusionは、自然科学研究機構核融合科学研究所(NIFS)からのスピンアウトとして、その知見を背景に事業化を進めている。
この構図は、すでに別の産業で答えが出ている。例えば自動車産業では、デンソーやアイシンといったサプライヤーが高度な技術を担う一方で、最終的な製品をまとめ上げるのはトヨタのような完成車メーカーだ。核融合も、部材供給にとどまらず発電所全体を設計・統合する主体があって初めて、自動車産業のように世界をリードする産業になり得る。
日本がその役割を担うのか、それともサプライヤーとして関わるにとどまるのか。その選択が、核融合における日本の立ち位置を左右する。
転換点は産業の形が決まるとき
分岐点となるのが、2030年代後半に予定されている発電実証炉の完成だ。トカマク型、ヘリカル型、レーザーなど、それぞれ方式は異なるが、いずれもこの時期に発電実証を目指している。発電実証炉は、その設計や到達目標によって位置づけは異なるものの、発電所としての成立性を問う段階に入る。
この段階では、建設、運用、電力供給の体制が具体化していなければならない。つまり、どの方式を採用し、誰が発電所をまとめるのかが、この時点までに定まることになる。
日本では、主体が定まらないまま複数の炉方式が並立している。現時点では、政府は方式にこだわらず支援する方針だが、すべてを同時に成立させる余力があるとは言い切れない。最終的に問われるのは、どの方式かではなく、誰が発電所としてまとめ上げるのかという点だ。
主体――すなわちインテグレーターが定まるかどうか。それが、日本がサプライヤーにとどまるのか、それとも次世代エネルギー産業の主導権を握るのかを分ける分岐点になりそうだ。
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