発電所から逆算する核融合。FRCミラーで小型・低コストを狙うLINEA
大学の実験室から始まった、“中性子を出さない”核融合への挑戦
放射性廃棄物が少ない次世代の核融合反応
株式会社LINEAイノベーションは、日本大学と筑波大学で進められてきた研究を起点に、2023年9月に設立された。
同社CSOの浅井朋彦氏は、日本大学においてFRC実験装置を開発し、国内で先駆的にFRCの衝突合体生成に取り組み、成果を上げてきた研究者だ。一方、 CTOの坂本瑞樹氏は筑波大学でプラズマ研究センター長を務め、超伝導ミラー装置の建設やプラズマ生成プロジェクトを主導してきた。
両者が意見交換を重ねる中で、FRCとミラーを組み合わせることで、「プロトン・ボロン反応」を狙えるのではないかという構想が具体化した。プロトン・ボロン反応とは、軽水素(プロトン)とホウ素11を燃料とする次世代の核融合反応であり、反応の生成物が安定したヘリウム4原子核であるため、中性子がほとんど出ない特徴を持つ。
こうした研究の流れを受けて、事業化を見据えた体制を整えるために設立されたのがLINEAイノベーションだ。会社設立にあたり、経営を担う人材として参画したのが、共同創業者で代表取締役CEOの野尻悠太氏である。野尻氏は、宇宙スタートアップの株式会社アクセルスペースをはじめ、株式会社JDSC、株式会社ナレルグループなどでCFOを歴任してきた人物だ。研究者主導で生まれた構想に、事業と経営の視点を持ち込む役割を担っている。
「会社をつくるにあたって、『経営をやる人が必要だよね』という話になり、私に声がかかりました。核融合は長く研究が続いてきた分野ですが、正直、いつ実用化されるのかが見えにくい技術だな、と思っていました。ただ、FRC×ミラーという組み合わせを聞いて、これなら現実的な時間軸で狙えるかもしれない。賭ける価値がある、と思ったんです」(野尻氏)
燃料が違うと、核融合炉はぐっとシンプルになる
FRCミラーという炉の構成と並んで、LINEAのもうひとつの大きな特徴が、プロトン・ボロン反応を狙っている点だ。
現在、世界の核融合研究の多くは、重水素と三重水素を使う「D-T反応」を前提に進められている。核融合を起こしやすく、実験的な実績も多いが、実用化を考えると悩ましい点もある。
D-T反応で使われるトリチウムは、地球上にほとんど存在しない放射性物質で、炉の中で生成・回収する必要がある。さらに、反応の過程で大量の中性子が発生し、炉の壁材を劣化させる。結果として、装置は大がかりになり、メンテナンスや廃棄の負担も大きくなる。
一方、プロトン・ボロン反応で使うのは、軽水素とホウ素11だ。いずれも地球上に豊富に存在し、放射性物質ではない。反応で主に生じるのはアルファ粒子(ヘリウム4原子核)で、中性子の発生もごくわずかに抑えられる。
この違いは、炉の設計にも影響する。D-T反応では、中性子を受け止めるための分厚い構造や、熱を取り出すための複雑な仕組みが欠かせない。対してプロトン・ボロン反応では、アルファ粒子のエネルギーを直接電気として取り出すことができる。蒸気タービンを介さずに発電できるため、システム全体をシンプルにできる。
もちろん、プロトン・ボロン反応はD-T反応に比べて核融合を起こしにくく、技術的なハードルは高い。それでもLINEAがこの反応を選ぶのは、発電所として使うところまで含めて考えると、この選択肢が最も筋がいいと考えているからだ。
FRCミラーによるシンプルな炉の構成と、プロトン・ボロン反応による燃料の扱いやすさ。この組み合わせが、「小型・低コスト・安全」というLINEAの方針を支えている。
中性子を出さないプロトン・ボロン反応。軽水素(陽子)とホウ素11を融合させ、有害な中性子放射線を出さずに3つのヘリウム原子核(アルファ粒子)を生成する核融合反応。熱ではなく直接電気として取り出せる可能性がある
反応実証から発電実証へ──短い時間軸を描ける理由
LINEAは、今後2年ほどで核融合反応の実証を行い、2030年代初頭には発電実証へと進む計画だ。核融合としては、かなり短い時間軸に見える。それでも同社がこのスケジュールを描けるのには、きちんとした理由がある。
ひとつは、装置構成がシンプルで、見通しが立てやすいことだ。FRCミラー方式は、巨大な磁石や複雑なコイル構造を前提としない。新たに開発しなければならない要素はあるものの、磁石やビーム技術など、多くは既存技術の延長線上にある。未知の要素を積み上げていくというより、「できることの組み合わせ」で前に進める点が大きい。
もうひとつは、発電実証を“連続運転”から始めないことだ。まず狙うのは、パルス運転による発電実証。長時間運転に伴う排熱処理といった難題は、段階を分けて解く設計になっている。反応が成立し、エネルギーを取り出せることを先に示す。そこから、運転時間を延ばしていく考え方だ。
そして3つ目が、後発であること自体を戦略にしている点だ。トカマク型やレーザー型など、先行する方式はすでに多くの知見と同時に、どこが難所になるかも見えてきている。LINEAはそれらを横目に見ながら、最初から「発電所として使う」前提で方式と燃料を選んでいる。
「反応を起こすこと自体がゴールではありません。最終的に発電所として使える形にするには、どんな炉の構成がいいのか、どんな燃料を選ぶべきか。そこから逆算して考えています」(野尻氏)
反応実証と発電実証の距離をできるだけ縮めようとする、この“逆算”の発想が、LINEAの短いロードマップの前提にある。
































