核融合を“炉の外から”動かす。京都フュージョニアリングとFAST計画の戦略
発電実証とサプライチェーン構築を同時に進める“巨大な分業”の現在地
前回は、日本の核融合開発が陥るおそれのある「6つの敗北シナリオ」を整理した。なかでも最も起こりやすい失敗が、「技術はあるが、日本に産業が残らない」というケースだ。
研究成果や要素技術は評価されるものの、実証やプラント建設は海外で進み、国内には雇用もサプライチェーンも育たない。2020年代前半まで、日本の核融合はこのシナリオに向かって進んでいるようにも見えた。
では今、その流れは本当に変わりつつあるのか。その問いに対し、具体的な動きを示しているのが、京都フュージョニアリング株式会社と、同社の子会社が関与する国内発電実証計画「FAST」だ。
核融合は「炉心」だけでは動かない
一般に、核融合開発というと、トカマク型やレーザー型といった「炉方式」や、プラズマ性能の話に注目が集まりがちだ。しかし、発電所として核融合を成立させるには、炉の外側に膨大な工程が存在する。
核融合反応で生じたエネルギーをどのように熱として回収するのか。未反応の燃料をどのように回収し、循環させるのか。設備を安全に止め、壊れた部品をどのように交換するのか。これらは、プラズマ物理というより、むしろプラント工学や化学工学、運転設計の領域に近い課題だ。
国際協力で進められてきた「ITER」は、核融合反応の科学的実証として極めて重要な役割を果たしてきた。一方で、ITERは発電所そのものではない。発電や燃料サイクル、運転を含めた「プラント全体」をどう成立させるかは、依然として世界共通の未解決領域として残されている。
京都フュージョニアリングが事業の中心に据えているのは、まさにこの「炉の外側」の部分だ。同社は、核融合プラントに共通する周辺システムを統合し、エンジニアリングとして成立させることを目指している。
当初から「この規模・役割」を想定していたわけではない
京都フュージョニアリングの取り組みは、単一の計画として進んできたわけではない。役割は、段階的に拡張されてきた。
まず技術統合と発電要素の成立性を確認する場として位置づけられているのが、京都リサーチセンター内に2024年より建設中の統合試験プラント「UNITY-1」だ。ここでは、核融合反応そのものではなく、発電に関わる要素技術の統合が試みられている。また並行して燃料循環にかかわる技術開発を「UNITY-2」と名付け、カナダで進めている。
次の段階にあたるのが、2030年代の発電実証を目標とするFAST計画である。UNITY-1で得られた知見を前提に、実際のプラントとして発電を行い、あわせて国内でサプライチェーンを構築できるかを検証する。ここから先は、単なる技術実証ではなく、産業としての成否が問われるフェーズになる。
発電実証は「巨大な分業」になる
京都フュージョニアリング執行役員 兼 J-Fusion事務局長・実行委員長を務める中原大輔氏は、FASTを「巨大な分業プロジェクト」だと表現する。発電実証を成立させるには、装置開発だけでなく、電力インフラ、建設、規制、安全設計、地域理解、資金調達といった幅広い要素を同時に進める必要がある。そうした前提のもと、FAST計画を含む、より上位のレイヤーとして設計された子会社が、Starlight Engine株式会社だ。発電実証やサプライチェーン構築を含む核融合プラントの実装を、個別の装置開発や実証にとどまらず横断的に推進するための「器」として位置づけられている。
中原氏は、こうした現在の体制について、「最初からこの規模や役割を想定していたわけではありません」と語る。世界の動きと国の関与が重なり、段階的に役割を積み上げていった結果として、いまの形に至っているという認識だ。
核融合プラント化で立ちはだかる複数の難所
では、商用化に向けて、いまどこが最も詰まりやすいと考えているのか。結論から言えば、特定の一工程だけがボトルネックになっているわけではない。材料、製造、設計、規制、安全、運転――核融合プラントを発電所として成立させるために必要な工程のほぼすべてが、同時並行で難所に直面している。
核融合は、単に技術を磨き上げれば前に進む分野ではない。ある工程が前進しても、別の工程が追いつかなければ、全体としては止まってしまう。そのため、どこか1カ所を「解決すればよい」という状況ではないのが実情だ。
その中でも、象徴的な課題として挙げられるのが、「ブランケット」と呼ばれる装置である。ブランケットは炉心を取り囲む構造物で、①プラズマとは切り離せない中性子の遮蔽、②熱回収・エネルギー変換、③燃料(トリチウム)の増殖という3つの役割を同時に担う。ひとつの装置に、材料、熱、核、化学といった異なる要件が重なり、設計・製造ともに難易度が高い。
この領域は1社で完結できるものではない。特殊材料の供給、加工技術、シミュレーション、品質保証など、複数の業種が連携して初めて成立する。ブランケットは、その複雑さゆえに、核融合が「研究テーマ」から「産業プロジェクト」へ移行する際の難しさを最も端的に示す象徴だと言える。
FAST計画では、こうした個別技術の優劣を競うというよりも、複数の工程を同時に前に進め、全体として実装可能かを検証することが重視されている。どこかひとつが突出するのではなく、全体を引き上げていく――そこに、この計画の現実的な狙いがある。
核融合は「設計の競争」へ
FAST計画は、第2回で整理した「技術はあるが産業が残らない」という敗北シナリオに対し、その回避に向けた日本側からの具体的な手当てのひとつだと位置づけられる。もはや競争の軸は、「どの方式が優れているか」だけではない。どこで実証を行い、どこに人材とサプライチェーンを集積させるのか。技術を、どの産業構造として定着させるのか。いま問われているのは、その全体設計だ。
京都フュージョニアリングが国内実証に踏み出した背景には、最初から描かれていた青写真というよりも、世界のスピードと国の関与が重なった結果、「そうせざるを得ない状況」が生まれたという側面が大きい。
核融合は、研究テーマから、現実の産業プロジェクトへと姿を変えつつある。日本はようやく、「どこで作るのか」という問いに、具体的な答えを出し始めた。
ここまではトカマク型を前提に議論を進めてきたが、方式が変われば、前提となる技術課題も、時間軸も、生存戦略も変わる。次回は、FRCミラー方式やレーザー型に取り組むスタートアップの視点から、核融合が抱える「別の課題」を探る。
本連載と連動し、加速する核融合産業化の最前線を語るセッションをJID 2026 by ASCII STARTUPにて開催。見るべきサプライチェーンはどこにあり、企業はどのポジションを取りにいくべきかを実践者が語る。
SFの先へ。加速する核融合産業化で日本企業が取りにいくポジションを解く
【概要】
「核融合はいつできる?」という問いはもう古い。今は「サプライチェーンをどう作るか」の戦いが始まっている。「究極のハードウェア」としてのフュージョンエネルギー実現に向けて、足りないものは何なのか。日本企業はそこに対してどう動けるのかを探る。
【登壇者】
森 芳孝(株式会社EX-FUSION 共同創設者)
西村 美紀(京都フュージョニアリング株式会社 Business Development and Operations Division / Manager)
北島 幹雄(角川アスキー総合研究所 ASCII STARTUP編集長)※モデレーター
【開催日】2026年3月3日(火)13:00~
【会 場】東京都立産業貿易センター浜松町館(2F・3F)
【公式サイト】https://jid-ascii.com/
【参加⽅法】事前登録制(下記よりお申し込みください)
参加チケット申し込みサイト(Peatix)


































