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日本の核融合は、どうやって失敗するのか。技術で勝っても産業で負ける「6つの敗北シナリオ」

国内に残らない、回せない、間に合わない。その分岐点を整理する

特集
日本で核融合は産業になるのか。商用化の条件とは

2026年3月3日(火)13時より、都内にて核融合スタートアップが登壇するセッションを開催!

 核融合は、もはや「実験がうまくいくかどうか」の段階を超えつつある。問われているのは、核融合を産業として成立させられるかだ(前回記事)。

 では、日本が核融合で失敗するとしたら、どこでつまずくのか。それは事故や大炎上ではない。むしろ静かで、気づきにくい失敗である。

 ここでは、日本が陥るおそれがある「敗北シナリオ」を整理する。

敗北シナリオ①技術は世界水準、でも日本に産業が残らない

 これは、核融合に限らず、半導体や液晶ディスプレイなど技術に優れているがゆえに枚挙にいとまがなく、ディープテック領域でも危機意識が高い話でもある。研究は評価される。論文も出る。技術者も世界で活躍する。──なのに、実証や準商用設備は海外に建ち、量産やプラント建設も海外で進む。気がつけば日本は、「優秀な研究者と部品はあるけど、産業としてはない国」になっている。

 核融合においても、これはありがちな悲観論ではない。少なくとも国の後押しが始まった2024年以前では、かなり現実味のあるルートだった。国内に「最初の実証拠点」が見えないまま、海外では核融合プロジェクトが次々と動き始める。資金も人材もそこに集まるのは、むしろ自然な流れだ。

 実際、日本企業がまず海外でポジションを取るのは、事業として合理的でもある。京都フュージョニアリング株式会社もその一社だ。同社は、核融合プラントを成立させるための周辺技術やエンジニアリングを強みに、海外プラント向けに機器やシステムを提供しながら、「世界のどこで核融合が立ち上がっても、必ず関わる」立場を着実に築いてきた。

 問題は、その先だ。海外案件が増えるほど、「じゃあ国内に実証炉を作る理由は?」という問いが後回しになる。その結果、次のような状態に陥りかねない。

●国内に実証炉・準商用設備ができない
●国内での雇用や産業集積が育たない
●建設・運転・保守といった“現場の経験”が日本に残らない

 このタイプの失敗は、事故も炎上も起きない。むしろ「海外で評価されているから順調」に見えるぶん、気づきにくい。だからこそ、どこで実証し、どこに経験と人を残すのかを、早い段階で決めておかないと、手遅れになりかねない。

敗北シナリオ②炉心はできた。でも電気にならない

 核融合における「プラズマの生成に成功」「反応を確認」といった内容は大きな前進であることは間違いない。ただし、それだけでは発電所ができるわけではない。

 核融合炉の中心で反応が起きることと、そこから安定して電気を取り出し、事業として回すことは、まったく別の話だからだ。

 このズレを考えるうえでわかりやすいのが、国際プロジェクトであるITERだ。ITERは、核融合反応の「科学的な成立」を確かめるための計画であり、電力を売る発電所ではない。言うまでもなく、反応が起きたからといって、そのまま電気が生まれるわけではない。サイエンスとしての優先順位とは別に、発電所として成立させるためには次のような領域が欠かせない。

●どうやって熱を取り出すのか
●どうやって燃料を回収し、循環させるのか
●どのくらいの稼働率で回せるのか
●壊れたとき、どう止めて、どう直すのか

 炉心の開発に注力するほど、これらは「あとで考える話」になりやすい。核融合からの発電を期待してしまうが、プラズマの反応を確認できても、電気として使えない。つまり、「反応が起きる」ことと「電力事業になる」ことは、まったく別のゴールなのだ。

 この問題は、日本だけの話ではない。海外の核融合スタートアップも、多くはまず「炉心の開発」に注力している。プラズマをどう安定させるか、反応をどう維持するか。派手でわかりやすく、投資家にも説明しやすい領域だからだ。

 その一方で、発電、燃料循環、プラント全体の統合といった地味で面倒な周辺領域は、どうしても後回しになりがちだった。結果として、「炉心」はすごい。しかし、「発電所」としてはまだ道半ば、という構図が生まれている。

 こうした中で、炉心の外側にフォーカスしてきたのが、上述した京都フュージョニアリングだ。同社が手がけているのは、発電や燃料循環、プラント統合といった、目立たないが不可欠な領域。まさに、多くのプレイヤーが手を付けきれていなかった部分である。

 核融合開発が世界的に進む中で、同社は特定の炉方式に依存しない立ち位置を取り、確実に存在感を高めている。「どの方式が勝っても必要になる部分」を押さえていることが、いま世界でポジションを取れている理由のひとつだ。

敗北シナリオ③材料・製造のボトルネックで量産できない

 核融合炉やその周辺機器には、高温・高放射線という極限環境に耐える材料が必要になる。しかもそれを、1点モノではなく、同じ品質で何十、何百と作らなければならない。ここで壁になるのが、材料と製造だ。

 特に問題になりやすいのが、「核融合は特殊すぎて、作れるメーカーが限られる」という点である。例えば、核融合炉の周辺機器のひとつに「ブランケット」と呼ばれる装置がある。炉の内側で発生するエネルギーを受け止め、熱の取り出しや燃料回収にも関わる重要な部材だ。

 京都フュージョニアリングによれば、このブランケットを成立させるために検討している一つの方法として、①極限環境に耐える素材を開発する、②その素材を、必要な特性を持つ繊維・織物へと加工する、③さらに、特定の構造を持つ成形物として加工する、④それらを組み合わせ、装置として完成させる――といった複数の工程が必要になるという。

 つまり、「ブランケットを作る」と一言で言っても、その裏側では素材メーカー、繊維メーカー、加工・製造企業など、複数の企業が縦に連なって初めて成立する。しかも、それぞれの工程が「前例のない開発」だ。既存製品の延長ではなく、核融合のためだけの仕様が求められる。

 市場規模がまだ見えない段階では、どの企業も大きな投資には踏み切りにくい。素材だけができても、繊維ができても、使われる保証がない。核融合が産業になるかどうかは、この分業の連鎖を、どこまで実体として回せるかにかかっている。

敗北シナリオ④安全・規制・保険で止まる

 核融合は、「原子力より安全」と言われる。実際、核分裂をエネルギーとする原発とは仕組みがまったく違い、暴走や大事故のリスクは小さいとされている。だが、それと「すぐ社会で使える」かどうかは別の話。発電所として動かす以上、核融合でも避けて通れないのが、安全基準、規制、認証、そして保険の問題である。

 ここで想定されるのが、次の2パターンだ。ひとつは、「核融合は新しすぎて、ルールがまだない」問題。どの法律が適用されるのか。どこまで安全対策を求められるのか。これらがはっきりしないままでは、実証も建設も前に進まない。技術的には動くのに、「手続きをどうすればいいかわからない」状態で止まってしまう。

 もうひとつは、「原発と同じルールをそのまま当てはめてしまう」ケース。核融合と核分裂は、リスクの性質も、事故の起き方も違う。それにもかかわらず、既存の原子力規制をそっくり適用すると、安全側に倒れすぎて、実証のハードルが一気に跳ね上がる。結果として、技術としては先行していたのに、許認可に時間がかかりすぎて、実証で海外に追い抜かれる、という展開は悪夢に近い。

 さらに厄介なのが、保険の問題だ。発電所を動かすには、事故時の補償スキームが欠かせない。しかし、前例がない技術なのだから、第一歩として保険の設計が必要となる。

 「安全です」と説明できても、「では、万が一のとき誰が責任を取るのか?」 という問いに答えられなければ、事業としては動きにくい。もちろん、リスクを引き受けるプレイヤーが現れる可能性はある。ただし、その前提となる枠組みづくりには時間がかかりそうだ。

 ここも、スタートアップ1社ではどうにもならない。技術開発とは別に、制度・ルール・責任の置きどころを、並行して設計できるかが問われる。

 もっとも、これらの問題が放置されているわけではない。現在、原子力規制庁では、核融合発電を想定した安全規制のあり方について、現行法の改正や新たな制度設計も視野に入れた論点整理を進めている。

 また、政府は核融合を戦略分野と位置づけ、産学官連携の枠組みとして「J-Fusion」を立ち上げ、制度や産業基盤の整備に向けた議論を進めている。規制や責任の所在をどう設計するかは、技術と並ぶ重要なテーマになりつつある。

 技術の進展に、制度が追いつけるか。核融合が止まるとすれば、それは事故や反対運動ではなく、 「決めきれなかった」ことが原因になる可能性も高い。

敗北シナリオ⑤人材が「研究と事業の谷」で消える

 日本には、世界に通用する核融合の研究者が数多くいる。また、プラントを建て、動かし、保守するという点においても、製造業や建設業に世界屈指の現場力がある。

 問題は、そのあいだが分断されていることだ。これまで核融合の研究者は研究コミュニティを中心とした世界にいた。製造や建設の人材は、別の産業で活躍している。近年は両者をつなぐ動きも出てきているが、それを一過性ではなく、産業として回る仕組みにできるかが次の課題だ。

 核融合は、研究テーマとしては最先端だが、プロジェクトとしては、極めて泥臭い。工程管理、品質保証、安全設計、規制対応――といった“産業の当たり前”を、早い段階から織り込めるかどうかで、後の難易度は大きく変わる。

 さらに、プロジェクトが動く場所には、人が集まる。国内で実証や建設が進まなければ、経験を積みたい人ほど、海外プロジェクトに向かう。結果として、日本には“最後まで回した人材”が残りにくくなる。

 核融合は、天才研究者か、優秀な現場だけがあれば成立するものではない。両者をつなぎ、全体を回す役割を、意図的につくらなければ失敗する。

 人がいないからではない。つなぐ設計をしないまま進めてしまうことが、この敗北シナリオだ。

敗北シナリオ⑥「夢の技術」のまま、時間切れになる

 ここまで見てきた①〜⑤は、いずれも起こり得る失敗だ。だが、もっとやっかいなのは、正しい方向に進んでいても、時間切れになるというシナリオだ。

 核融合は、エネルギー技術として見れば、非常に魅力的だ。脱炭素目標にも整合し、エネルギー安全保障の観点でも理にかなっている。長期投資が必要なのも、最初からわかっている。

 問題は、時間軸だ。核融合が「いつか来る未来」として語られているあいだにも、世界は並行して動いている。

 例えば、「再生可能エネルギー+蓄電池」は、着実にコストを下げている。電力系統(グリッド)制御も高度化している。冷却しやすく原発より安全性の高い小型原子炉(SMR)など、別の選択肢も現実味を帯びてきた。こうした技術が先に社会に実装されれば、「核融合が来る前に、だいたい解決してしまった」という状況も起こりうる。

 時間切れは、失敗として認識されにくい。事故が起きるわけでもない。 計画が中止されるわけでもない。ただ、意思決定が遅れ、実証が先送りされ、気づいたときには、世界の主戦場が別の場所に移っている。

 しかも、時間がかかるほど、①〜⑤のリスクがすべて重なって効いてくる。

 核融合の難しさは、正解が分かっていても、それを適切なタイミングで実装できるかにある。だからこそ、核融合は「いつか成功すればいい技術」ではない。いつ、どこで、最初の一歩を踏み出すかが、成否を分ける。

 核融合が失敗するとしたら、それは技術が足りなかったからではない。決めるべきことを決めきれず、つなぐべきものをつながないまま、時間だけが過ぎてしまうことだ。

 では、その失敗を食い止めるために、日本はいまどこに手を打ち始めているのか。次回は、核融合を「実験」から「産業」に引き戻す動きを追う。



 本連載と連動し、加速する核融合産業化の最前線を語るセッションをJID 2026 by ASCII STARTUPにて開催。見るべきサプライチェーンはどこにあり、企業はどのポジションを取りにいくべきかを実践者が語る。

SFの先へ。加速する核融合産業化で日本企業が取りにいくポジションを解く

【概要】
「核融合はいつできる?」という問いはもう古い。今は「サプライチェーンをどう作るか」の戦いが始まっている。「究極のハードウェア」としてのフュージョンエネルギー実現に向けて、足りないものは何なのか。日本企業はそこに対してどう動けるのかを探る。

【登壇者】
森 芳孝(株式会社EX-FUSION 共同創設者)
西村 美紀(京都フュージョニアリング株式会社 Corporate Design Dept. Manager)
北島 幹雄(角川アスキー総合研究所 ASCII STARTUP編集長)※モデレーター

【開催日】2026年3月3日(火)13:00~
【会 場】東京都立産業貿易センター浜松町館(2F・3F)
【公式サイト】https://jid-ascii.com/

  【参加⽅法】事前登録制(下記よりお申し込みください)
        参加チケット申し込みサイト(Peatix)

 

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