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富士通の強豪スポーツチームを「実証フィールド」に 未踏のスポーツビジネスへ挑むスタートアップ募集

提供: 富士通株式会社

 2025年12月1日、富士通株式会社は自社のスポーツ資産を開放し、スタートアップと共にイノベーション創出を目指す「Fujitsu Accelerator Program for SPORTS」の説明会およびローンチイベントを開催した。会場には多くのスポーツ産業に関心をもつ企業、スタートアップが集まり、新たなビジネスチャンスへの期待が高まる中で幕を開けた。

 本プログラムは、単なる技術提供にとどまらず、富士通が保有するスポーツチームの現場を実証フィールドとして開放するのが特徴だ。2026年1月21日には、富士通のスポーツビジネス担当者とダイレクトな対話を通じて、募集テーマの深掘りやフィードバックを得られる「共創ワークショップ」(関連サイト)が開催される。その後、2月6日まで募集テーマに沿った技術、サービスをもつ企業を募集し、2月26日には、応募企業によるピッチコンテストを開催(関連サイト)し、4月から協業検討、および、 実証実験の開始を予定している。

「Fujitsu Accelerator Program for SPORTS」のローンチイベントが開催された

勝利の追求だけでなく社会的価値の創出も求められる企業スポーツの転換点

 かつて企業スポーツといえば、社員の一体感醸成や福利厚生、あるいは社会貢献といった側面が強く意識されていた。しかし、時代の変化とともに、その役割は大きく変容しようとしている。説明会の冒頭では、富士通 執行役員常務 エンタープライズ事業担当の古濱淑子氏が登壇し、テクノロジーカンパニーとしてスポーツが持つ潜在能力を最大限に引き出すと語った。

「私自身、女子バスケットボール部の後援会長を務める中で、スポーツが企業に与える価値の大きさを日々実感しています。当社のテクノロジーとスポーツ、そしてパートナー企業の皆様の力を掛け合わせることで、単なる競技の枠を超え、エンターテインメントや観光など幅広い分野での価値創造が可能になるはずです。今回は、富士通が持つリアルなスポーツの現場をフィールドとして開放しますので、ぜひ活用していただき、共に新しいビジネスを創出していきましょう」(古濱氏)

古濱淑子氏(富士通株式会社 執行役員常務 エンタープライズ事業担当)

 富士通アクセラレーター代表の浮田博文氏は、本プログラムの全体像と具体的な募集領域について説明を行った。今回の取り組みは、単なる競技力の強化にとどまらず、スポーツを起点とした社会課題の解決や新たなビジネスモデルの構築を目的としている。

 採択企業には、選手やスタッフへのヒアリング機会に加え、練習場などの実証フィールド、さらには将来的に武蔵中原に建設予定の「富士通アリーナ」での実装も見据えた、予算を含む手厚いリソース提供が約束されている。

「一言で言いますと、企業スポーツの価値拡大とマネタイズへの挑戦を皆さんと一緒にやっていきたい。アスリートの強化や運営基盤だけにとどまらず、ウェルビーングや推し活、エンタメ、地域活性化といった広いテーマで、新しい価値を作っていきたいと考えています」(浮田氏)

富士通アクセラレーター代表の浮田博文氏

 続いて、富士通 企業スポーツ推進室の常盤真也室長は、現代の企業スポーツに求められる新たなミッションについて熱く語った。常盤氏はアメフト部のGMや女子チアリーダー部の部長も兼任する現場の人間で、スポーツチームである以上「勝利(Victory)」を追求することは絶対条件であるとしながらも、同時に社会や事業とつながり新たな意味を生み出す「価値(Value)」も高めることこそが、これからの企業スポーツが持続可能な存在であり続けるために必要だと語った。

 しかし、長年内部で運営を続けていると業務が常態化し、本来改善すべき点や新たな可能性に気づきにくくなるという側面もある。このプログラムでは、外部の視点や技術を取り入れることで、内部の死角を補い、企業スポーツ特有の課題解決モデルを構築することを目指しているという。この取り組みは富士通一社の利益にとどまらず、企業スポーツを基盤として発展してきた日本のスポーツ界全体に対し、持続可能な運営のあり方を提示するモデルケースとして注目されている。

「スポーツにお金を投資したから何が返ってくるかというのは言いづらい世界です。特に企業スポーツは、将来どこへ行くのかという部分を磨くのが非常に難しい。今回、そうした課題を解決できるような提案をぜひいただきたいと思っています」(常盤氏)

富士通 企業スポーツ推進室 室長 常盤真也氏

経験則から脱却しデータを武器に世界と戦う陸上競技の進化と課題

 続いて行なわれたチームインタビューでは、陸上競技、アメリカンフットボール、女子バスケットボールの各現場を統括するリーダーやトップアスリートが登壇。勝利の裏側にある過酷な現実と、テクノロジーへの切実な期待が語られた。

 バルセロナ大会から9大会連続でオリンピック選手を輩出している陸上競技部からは、長距離ブロック長の三代直樹氏が登壇した。かつては指導者の経験則が重視されたトレーニングも、現在はウェアラブル端末による心拍数や負荷の可視化が標準となっている。しかし、データが「見える」ようになったからこそ、それらを複合的に分析し、いかに個々の選手に最適な「攻め」の強化策へ落とし込むかが次なる壁となっている。

「タイムや走行距離といった端的な情報だけに頼らず、今は多角的な情報が手に入る時代です。それらを掛け合わせることで、これまでとは違う視点で選手を伸ばしていけるのではないかと感じています」(三代氏)

富士通陸上競技部 長距離ブロック長 コーチ 三代直樹氏

 競歩で3大会連続オリンピック出場、2025年11月27日に現役引退を発表した岡田久美子氏は、極限のコンディション管理について語った。彼女は日本陸連の科学委員会と連携し、自身の汗の成分を徹底的に分析。ナトリウムなどの不足分を特定し、給水ドリンクの配合をグラム単位で調整しているという。さらに、レース中の水分補給においては、成分だけでなく温度の管理もパフォーマンスを左右する重要な要素となる。

「給水の温度も、1周目、2周目と状況に合わせて変化させないといけません。冷たすぎても、ぬるすぎてもよく飲めない。そういった細かいところもしっかりとスタッフと協力しながら工夫していました」(岡田氏)

富士通陸上競技部 競歩 元日本代表 岡田久美子氏

 アメリカンフットボール「富士通フロンティアーズ」の大久保壮哉主将は、平日はフルタイムで勤務し、週末は日本一を目指して戦う「デュアルキャリア」の難しさに触れた。限られた時間の中で結果を出すために、彼は徹底してコントロールできることに意識を集中させているという。その思考法は、ビジネスパーソンにも通じる普遍的なメンタルマネジメント術といえる。

「緊張や不安を感じてしまうことは、一種の感情であり、仕方がないものだと受け止めています。その上で、しっかり自分のやるべきこと、コントロールできることに集中しようということを常に意識しています」(大久保氏)

富士通アメリカンフットボール部 フロンティアーズ 主将 大久保壮哉氏

 同じくフロンティアーズからは、ヘッドトレーナーの井澤秀野氏が現場の深刻な悩みを吐露した。コンタクトスポーツに怪我は付き物だが、近年は選手本人の自覚症状もなく、水分量などの客観データにも異常が見られない状態で、突発的に発生する肉離れが増えているという。既存の指標では検知できないリスクを、どうすれば事前に察知できるのか。井澤氏は、より簡便かつ即時性のある判定技術を求めている。

「主観的な張りの感覚だけでなく、患部にピッと当てたら数値が出るようなデバイスがあれば理想的です。一定の数値を超えたらリスクが高いと判断できるような指標があれば、怪我の発生を未然に防げるのではないかと考えています」(井澤氏)

富士通フロンティアーズ ヘッドトレーナー 井澤秀野氏

 女子バスケットボール「富士通レッドウェーブ」の日下光ヘッドコーチは、指導におけるコミュニケーションの効率化を課題に挙げた。選手との年齢差が広がる中、情報の伝え方にも工夫が求められている。特に映像分析においては、長時間のビデオを見せる従来の手法は、今の若い選手の集中力や学習スタイルに合わなくなってきていると指摘する。

「僕も選手時代そうだったんですけど、もう20分も30分も映像を見せられても頭に入ってこないんです。ですので、選手に見せる映像はなるべく10分以内に短く編集するなど、情報の質を意識しています」(日下氏)

富士通レッドウェーブ ヘッドコーチ 日下光氏

 5人の証言からは、トップスポーツの現場がすでに「根性論」の世界を脱し、データと効率を追求する高度なマネジメント領域に移行していることがわかった。ここで語られた「未知の怪我の検知」や「情報の最適化」といった課題は、そのままスタートアップ企業が挑むべきイノベーションの種となるだろう。

人間の可能性を拡張し地域やファンと新たな絆を結ぶデジタルの力

 後半のパネルディスカッションでは、富士通の青野考氏をモデレーターに、スポーツビジネスの最前線で活動する5名のパネリストが登壇。「スポーツ×テクノロジー×共創の未来」をテーマに、それぞれの視点から見た課題と可能性について議論が交わされた。

 体操競技の自動採点システムを開発し、現在はその技術を「Human Digital Twin」として展開する富士通の藤原英則氏は、スポーツにおけるAI活用の核心について語った。当初は社内での理解を得るのに苦労したというが、現在は選手のトレーニングやメタバース空間でのファンエンゲージメントなどに応用範囲を広げている。藤原氏は、技術はあくまで人間の可能性を広げるためにあるべきだと強調する。

「どうしてもAIが普及すると「人間がいらなくなる」という話になりがちですが、スポーツは生身の人間がやることに意味があります。AIによって人をどれだけエンパワーメントできるか、そこに技術を使っていただきたいと考えています」(藤原氏)

富士通株式会社 Human Digital Twin事業部 事業部長 藤原英則氏

 データの力で地域とスポーツをつなぐ取り組みを紹介したのは、株式会社ジー・サーチの植木誠二郎氏だ。同社は、FC徳島と連携し、選手のパフォーマンスデータを完全にオープン化して外部の研究機関や企業に提供するという大胆な試みを行っている。データが開示されることで、新たな製品開発やツーリズムが生まれ、スポーツが地域のハブとして機能し始めるという。

「データの一番大きな価値は、地域や時間という軸を超えられることです。データがあれば、それを介して離れた場所や未来の人々とつながることができます。スポーツの可能性を呼び起こすために、このオープンな環境を活用してほしいと思います」(植木氏)

株式会社ジー・サーチ 代表取締役社長 植木誠二郎氏

 Jリーグ加盟を目指すアマチュアクラブ、鎌倉インターナショナルFCの勝碕俊行氏はリソースが限られる中で、仲間を集めることの重要性を説いた。トップチームとは異なり、圧倒的な競技力だけでファンを惹きつけることが難しいアマチュアスポーツにおいて、ステークホルダーを増やすためには共感を呼ぶストーリーと明確な理念が必要となる。

「スポンサー企業は株主に説明が必要ですし、サポーターもトップ選手ではなくアマチュアを応援する理由が必要です。みんながいいねと思える最大公約数的な目標を掲げ、仲間として集まってもらうための理由をしっかり提供することが不可欠です」(勝碕氏)

鎌倉インターナショナルFC オーナー室長 勝碕俊行氏

 米国のスポーツビジネスに精通するジーノ ゴードン氏は、スポーツをコンテンツとして捉えると語った。勝利という結果だけでなく、ドキュメンタリーやSNSを通じたエンターテインメント性の高い発信が、グローバルな認知獲得には欠かせないという。その上で、変化の激しい市場においてスタートアップが果たす役割に期待を寄せた。

「スタートアップの最大の価値は、ピボットがしやすいところです。チームや選手が抱える課題に対して、柔軟にアプローチを変えながら解決策を探れるフレキシビリティこそが、大手にはない強みだと感じています」(ジーノ氏)

レッドフェニックスエンターテインメント CSO ジーノ ゴードン氏

 元バレーボール選手であり、現在は企業の立場でアスリートを支援する久保今日子氏は、選手と企業の幸福な関係性について語った。現役選手を社員として雇用し、福利厚生の一環として格闘技レッスンを提供するなど、競技活動と業務を両立させるモデルを実践している。

「アスリートが持つ可能性を、次は会社や社会への価値に変えていく。活かせる環境を作ることは企業の役割ですが、同時にアスリート自身も、企業に対してどう貢献できるかを考え、双方で価値を作っていく姿勢が大切だと考えています」(久保氏)

株式会社アクロフロンティア 株式会社Asian Bridge 久保今日子氏

 このセッションではスポーツが単なる競技や興行の枠を超え、テクノロジーを媒介とした社会インフラへと進化しつつある未来が語られた。人間の能力拡張、地域経済のハブ、そしてコミュニティの核など、パネリストたちが語った事例は、勝利の追求だけでは到達できない領域にこそ、未開拓のビジネスチャンスが眠っていることを示しているのだ。

共創パートナーと共に描く2026年のスポーツビジネスの青写真

 本イベントでは、富士通が本気でスポーツビジネスの構造を変えようとしている姿勢が打ち出された。単にスポンサーとしてお金を出すだけでなく、自社の最先端技術と、外部のスタートアップの尖ったアイデア、そして現場のアスリートの知見を掛け合わせることで、化学反応を起こそうとしているのだ。

 現在、川崎市の富士通エリア「Fujitsu Technology Park」では、テクノロジーを実装した次世代型アリーナ「富士通アリーナ(仮称)」の計画も進行中だという。今回のアクセラレータープログラムで生まれたアイデアやプロダクトは、将来的にこのアリーナで社会実装される可能性も秘めている。まさに、机上の空論ではなく、リアルな街づくりやビジネスへと直結するプロジェクトなのだ。

「Fujitsu Accelerator Program for SPORTS」の応募締め切りは2026年2月6日となっている。その後、書類選考を経て、2月26日にはピッチイベントが開催され、採択企業が決定する予定だ。採択された企業は、2026年度から富士通のスポーツチームと共に実証実験(PoC)を開始することになる。

 井澤トレーナーが語ったような「見えない怪我」の解決策を持っている企業、あるいは岡田選手のように「極限状態のコンディション」を可視化できる技術を持つ企業、そしてファンとチームの新しい関係性を構築できるアイデアを持つ企業にとって、これほど恵まれた実証フィールドは他にないだろう。どんなスタートアップが手を上げるのか、大いに期待したいところだ。