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特許を“5歳児でもわかる”ようにするとどうなる? 眠る技術を動かす「IPマーケット」の知財流通構想

海外起業の経験から生まれた、特許を「売る・買う・使う」ための新しい仕組み

連載
このスタートアップに聞きたい

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特許を「事業の材料」に変える知財プラットフォーム

 こうした課題意識から生まれたのが、特許を「売る・買う・使う」ためのプラットフォーム「IPマーケット」だ。

 IPマーケットは、単なる特許データベースではない。権利を使ってもらいたい側(マネタイズしたい権利者)と、特許を買ったり、事業に活用したりしたい側が、プラットフォーム上で直接メッセージをやりとりできる仕組みを備えている。特許の検索や理解にとどまらず、「誰と、どの技術で何ができそうか」という具体的な対話までをつなぐ場として設計されている点が大きな特徴だ。

 その設計思想の根底にあるのが、特許を専門家向けの技術情報としてではなく、活用者目線で「事業に使えるかどうか」を基準に再構築するという考え方である。特許情報はイラストや4コマ漫画、動画でわかりやすく翻訳され、利用企業からは「自社資料としても使いたい」という声も多いという。

イラストの例(ボイスパス特許)

4コマ漫画の例(ボイスパス特許)

 「特許文献を見たら、普通の人は『うっ……』ってなるじゃないですか。まるで外国人がいきなり英語で話しかけてくる感覚。でも、最初に日本語であいさつしてもらえると、こっちも下手な英語で返していいかなって思える。イラストや4コマ漫画はその『最初のあいさつ』なんです」

 IPマーケットでは、1万件以上の開放特許に対し、用途・市場・製品カテゴリなど“ビジネス視点”のタグを独自に付与。さらに、地域属性を記録することで、地域創生の文脈での連携にも対応できるようにしている。「北海道で一緒に何かしたい」「関西圏の技術を探したい」といったニーズに応えるためだ。

AIで「この特許、何に使える?」を見える化する

AIによる特許レコメンド機能

 「活用者目線」をより具体的な機能として実装したのがAIによる特許レコメンドだ。

 「自社のビジネスジャンルを入力すると、相性のよさそうな開放特許がレコメンドされます。もう少しリテラシーが高い方には、領域ワードから応用可能性を出す検索機能も用意しています」

 さらに、オプションサービスとして、AIによる特許価値の算定も行っている。「技術価値」と「市場親和性」を独自ロジックでスコア化し、特許の強みを定量的に把握できる。

 「特許の価値って、正直よくわからない。どれだけ長々説明されても、『で、何に使えるの?』ってなる。知りたいのは、どれだけすごい技術かではなく、事業としてどれだけ役に立つのか。その視点で見える化するのがポイントです」

大企業からスタートアップまで。休眠特許で事業創出のスピードが上がる理由

 IPマーケットは、事業開発のプロセスにおいてどのように活用されているのか。具体的な事例を聞いた。

 大企業と中小企業のマッチングで象徴的なのが、イトーキと北海道の木材加工会社・広葉樹合板による仮眠用ボックス「giraffenap(ジラフナップ)」だ。この取り組みは、北海道の北洋銀行が主催する知財ビジネスマッチングの枠組みの中で生まれたもので、イトーキが保有する「人体収納用構造体および睡眠用筐体」(特許7273496号)を応用し、異業種連携による商品化に至った。

イトーキの開放特許を用い、広葉樹合板が設計・制作・施工を担い製品化した仮眠用ボックス「giraffenap」

 こうした取り組みは、金融機関との連携にも広がっている。11月には、みずほ銀行と知財活用に関するPoC(概念実証)を開始(プレスリリース)。みずほ銀行の取引先企業が抱える事業課題と、企業が保有する開放特許を掛け合わせる形で、知財マッチングの可能性を検証。IPマーケットのデータや分析を活用しながら、事業化につながるテーマの抽出や、企業同士の接点づくりを行っている。

 「IPマーケットを使うと、PoCまでの時間が約3分の1になったという声もあります。AIレコメンド機能を使えば、相性の良いパートナーも見つかりやすい。IPマーケットを商品開発室や研究開発部の代わりとしてうまく活用していただけたら」

 渡部氏は、IPマーケットを利用するメリットとして、①開発期間の短縮、②権利侵害リスクの抑制、③技術的な裏付けを持った提案ができることによる信頼性の向上の大きく3つを挙げる。

 「特にスタートアップやスモールビジネスでは権利侵害への意識が薄く、十分に調べずにどんどん開発して、ローンチ後に問題になるケースもありますよね。開放特許を利用することで一定の安心材料にはなります」

 こうしたメリットは、とりわけスタートアップにとって大きい。スタートアップは事業を途中で転換するピボットが多く、自社の技術が使えなくなるケースもある。そんなとき、大企業の開放特許を活用することで開発リードタイムを短縮でき、VCなど出資者からの評価にもつながる。

 「大企業の開放特許は、使えないから解放したわけではなく、自社事業と方向性が異なるため休眠しているケースが多い。他者から見れば有用な技術が眠っています」

「特許を使い放題にする」構想が目指す次のステージ

 白紙とロックは、特許庁やINPITなどが整備してきた公的データベースや既存のマッチングでは進みにくかった「特許を活用する」部分に焦点を当てた。そこに着目できたのは渡部氏の成功体験があってのことだろう。

 「権利をマネタイズした経験に加えて、自分が権利者でもあり、スタートアップ活用者でもあった。どちらの目線でも考えられたことも大きいです」

 そのうえで、日本の知財業界を取り巻く文化的な背景にも言及する。

 「知財業界の課題というか、文化的な背景もあるかと思います。日本は、良くも悪くも事を荒立てたくないという文化がある。米国のような訴訟文化がない。なかなか自分の権利を主張しない。その結果、前例のない取り組みや、まだ人が少ない分野に挑戦する動きが生まれにくいと感じていました。だからこそ、知財をもっと使いやすくし、新しい組み合わせや挑戦が生まれやすい環境をつくることができれば、その状況を少しずつ変えていけるのではないかと思ったんです」

 こうした問題意識を背景に、渡部氏が描く次の一手についても聞いた。

 「ひとつずつ事例を積み上げるだけでは限界があります。これからは特許をまとめた特許プールを作り、特許を使い放題にする特許のサブスクにも挑戦したい。個別交渉が不要になれば、日本の産業は一気に効率化できます」

 最終的な目標は、特許=無形資産の流動性を高め、人口減少時代の日本が効率的にグローバルで戦える構造をつくることだ。

 「ゼロから研究開発するのではなく、すでにある技術を活用して事業をつくる。その選択肢を当たり前にしたいと考えています」

 知財をめぐる課題を、事業としてひとつずつ解きほぐそうとしている白紙とロック。日本の特許の使われ方を少しずつ変えていく存在として、今後の動きに注目したい。

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