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建材ロス削減に挑むHUB&STOCKが最優秀賞 埼玉発サーキュラーエコノミー推進プラン集まる

第2回埼玉県サーキュラーエコノミー スタートアップビジネスプランコンテスト「CSUP」レポート

提供: CSUP/埼玉県

 埼玉県は2025年11月11日にイノベーション創出拠点「渋沢MIX」にて、第2回埼玉県サーキュラーエコノミー スタートアップビジネスプランコンテスト「CSUP(シーサップ)」のファイナルピッチ(最終審査)を開催した。全国のスタートアップや社内ベンチャーなどを対象に、埼玉県内におけるサーキュラーエコノミー推進を目的としたビジネスプランコンテストだ。この日、一次審査を通過したファイナリスト8名による公開ピッチと最終審査、大野元裕・埼玉県知事による表彰が行われた。

県内でのサーキュラーエコノミー推進を支援

 冒頭、主催者である埼玉県 産業労働部 産業政策局長の神野真邦氏が挨拶を述べた。

「埼玉県では環境部と産業労働部が両輪となってサーキュラーエコノミーを推進しており、その一環として昨年度、初めてCSUPを開催しました。結果、選りすぐりのアイデアが多数集まり、埼玉県におけるサーキュラーエコノミー推進の第一歩として、力強いスタートを切ることができました。

 第2回の今回も、多くのすばらしいアイデアが集まっています。本日入賞された方々には、埼玉県およびご協賛・ご後援をいただいている金融機関などの支援機関の方々から力強く後押しさせていただきます。ぜひとも埼玉の地でビジネスを成功させていただければと思います」

埼玉県 産業労働部 産業政策局長 神野 真邦 氏

 今回の最終審査は、審査員長の吉高まり氏(一般社団法人バーチュデザイン 代表理事)をはじめ、小中洋輔氏(三井住友銀行TBFチームシニアマネージャー)、斉藤麻子氏(株式会社ドラマティック 代表)、酒井里奈氏(株式会社ファーメンステーション 代表取締役)、那須清和氏(サークルデザイン株式会社 代表取締役)、および神野氏の6名が審査を担当した。

(左から)吉高 まり 氏(一般社団法人バーチュデザイン 代表理事)、
小中 洋輔 氏(三井住友信託銀行株式会社 TBFチーム シニアマネージャー CE・NP1号ファンド エグゼクティブアドバイザー)、
斉藤 麻子 氏(株式会社ドラマティック 代表)

(左から)酒井 里奈 氏(株式会社ファーメンステーション 代表取締役)、
那須 清和 氏(サークルデザイン株式会社 代表取締役)、
神野 真邦 氏(埼玉県 産業労働部 産業政策局長)

 審査は、事業の有効性、新規性・先進性、具体性・実現可能性、発信性、波及性、継続性・発展性の6つの視点をもとに、審査員6名によって投票が行われ、最優秀賞・優秀賞(2者)・特別賞が決定する。

 それでは、一次審査を通過したファイナリスト8名によるファイナルピッチの模様を紹介していこう。

空き家を活用したアフォーダブル賃貸住宅事業(株式会社ヤモリ)

株式会社ヤモリ 代表取締役 藤澤 正太郎 氏

 埼玉県内には33万戸の空き家があり、全国で9番目に多い状況になっている。一方で、都市部では物件価格と家賃の高騰しており、特に若い世代にとって住宅コストの上昇は大きな課題になっている。ヤモリは、空き家問題と住宅費問題を一度に解決するビジネスモデルを展開している。

 中古不動産市場は、プレーヤーがいない、データがない、融資がつかないという3つの“ない”問題を抱えており、それが中古不動産の流動性を阻害している。このためヤモリでは、中古不動産オーナーを育て、空き家データベースを作り、一定数がまとまったらファンド化して流動性を高める計画で、2030年までに1万件の空き家を再生して利活用する目標を立てている。

 現在、全国の不動産業者から空き家情報を日々入手しており、これにハザード情報や公示価格、人口変動、学区などの情報を重ね、賃貸需要が見込めそうなエリアの物件を検索できるデータベースを運用中だ。同システムでは、賃貸オーナー向けに30年間の家賃収支シミュレーションも可能で、これをもとに融資資料を作成し、提携金融機関への相談へとつなげる手伝いもしている。同社では、埼玉県内ですでに23物件を再生し、賃貸物件として運営中だ。

ヤモリが提案する埼玉空き家再生賃貸ファンド

「今回提案するのは、自治体およびインフラ事業者、金融機関などとの提携により、空き家再生賃貸ファンドを立ち上げ、アフォーダブル住宅を提供することで子育て世帯を支援していくことです。空き家再生賃貸住宅は新築よりも家賃を44.5%安く提供できます。また、再生する際に断熱性の高い建材に取り替えることで省エネ化も促進できます」(藤澤氏)

過熱蒸煎機を用いた かくれフードロスの削減及びアップサイクルフード市場の創出(ASTRA FOOD PLAN株式会社)

ASTRA FOOD PLAN株式会社 営業・マーケティング部 齋藤 夏実 氏

 ASTRA FOOD PLANが取り組んでいる課題は「かくれフードロス」。食品の売れ残りや食べ残しではなく、その上流にある生産・加工の工程で発生するロスのことで、国内では現在、年間2000万トン以上発生しているという。埼玉県は食品工場が多いため、かくれフードロスも多いことが推察される。

 同社は400℃の過熱水蒸気を用いて食品を10秒程度で乾燥・殺菌できる「過熱蒸煎機」を開発し、特許を取得。フリーズドライ製法の場合、乾燥時間は24時間、エネルギーコストが1kgあたり数百円かかるのに対し、過熱蒸煎機は乾燥時間が5~10秒、エネルギーコストが1kgあたり10円からと、優位性があるという。この独自の技術を活かして、食品パウダー「ぐるりこ」という新たな食材にアップサイクルする取り組みを行っている。

 すでに、1時間あたり200kgの処理能力がある中型モデルを、埼玉県内にある大手牛丼チェーンの工場にレンタル。その工場では玉ねぎの端材が大量に発生し、年間最大250トンを廃棄処理していたという。過熱蒸煎機導入後は、工場内で端材をパウダー化し、これをASTRA FOOD PLANが全量買い取り、「ぐるりこ」ブランドで販売。工場側の機器レンタル料はパウダーの買い取りでほとんどペイする仕組みで、工場側にとっては廃棄処理するよりコストを抑えられる。「ぐるりこ」は消費者に直接販売するだけでなく、食品原料として食品メーカーにも販売されている。

 このほか、カット野菜メーカーが野菜端材を乾燥・配合して野菜出汁を作ったり、出汁メーカーが出汁を取ったあとのガラをもう一度乾燥させて再度出汁として利用したり、サプリメントメーカーではアップサイクルではなくサプリメントを製造する際の食品の乾燥・殺菌に使ったりと、過熱蒸煎機はさまざまな方法で利用されている。

過熱蒸煎機の普及と「ぐるりこ」を販売するプラットフォーム事業展開を目指す

「ビール製造後のホップの搾りかすを乾燥してもう一度ビール醸造に使用したアップサイクルホップビールも商品化されました。麦芽かすやコーヒーかす、おからなどさまざまなかすを焙煎してブレンドしたコーヒー豆を使用しないビーンレスコーヒ、リンゴジュースの残滓を飼料化するプロジェクトも立ち上げました。今後、持続可能な産業としての食のサーキュラーエコノミーの実現を目指します」(齋藤氏)

醤油粕アップサイクル燻製材 meets 彩香の燻醤 がっこいぶりの生ふりかけ ~漬物ロスゼロ化を目指して~ (Smoke-i-freet)

Smoke-i-freet 代表 辻 健太朗 氏

 燻製食品は世界的にも人気で、市場規模は年々拡大しているという。その一方で、木材価格は高騰を続けており、製造コストは上昇し続けている。山火事や開発により森林は減少し、一方で地球温暖化対策の観点から森林保護が進んでいるため、燻製のための木材の入手リスクは今後ますます高まっていくと見られている。そこで、Smoke-i-freetでは醤油粕からアップサイクル燻製材を生み出す製法を開発した。

 醤油粕は年間約10万トン発生しているが、その多くが酪農家へ飼料として提供されているという。しかしこの20年で酪農家も減少しており、新しい活用先の開発が急務となっているのだ。

 Smoke-i-freetが開発した醤油粕アップサイクル燻製材は、従来の木材より燻製を短時間化、低温化できるため工場の稼働時間を短縮できるという。また、殺菌効果が高いため食材のロングライフ化に寄与し、さらに醤油の薫香により塩分・糖分が低くても味わいは変わらず、おいしく感じるというメリットがある。

 現在、川越市の漬物メーカーと提携し、大根の漬物を製造する際に発生する廃棄物(形状不良や漬け不足)を醤油粕燻製材で燻製漬物として商品化することで、フードロスゼロに取り組んでいる。

Smoke-i-freetは醤油工業協同組合と協業して醤油粕を安定的に入手

「今後、醤油メーカー・組合と協業することで醤油粕の入手経路を確立し、品質と供給の安定化を図っていきます。製造の機械化やOEMにより価格競争力を高め、燻製需要の高い北米を含めた世界展開も視野に入れ、2023年には売上高50億円を目指します」(辻氏)

スマートゴミ箱からはじまる“街の資源循環ステーション”(株式会社フォーステック)

株式会社フォーステック 事業共創室 森下 優利奈 氏

 観光庁の調査によると、訪日外国人の「旅行中の困りごと」として「ゴミ箱の少なさ」が1位に挙げられているという。日本の公共スペースにおけるゴミ箱設置数は欧米の主要都市に比べて少なく、大都市中心部や有名観光地の道端にゴミが捨てられている光景がしばしば見られる。

 フォーステックでは、ゴミ箱を社会インフラのひとつと捉えるとともに、日本独特の「おもてなし」精神の観点からも、この課題に対処するべきと考えた。そこで、IoTスマートゴミ箱「SmaGO」を全国に約600台導入、埼玉県内では川越市内に5台設置し、街角ゴミ問題の解決を図っているところだ。

「SmaGO」の特徴は大きく3つ。1つ目は、天板にソーラーパネルを搭載し、太陽光で発電したエネルギーで可動すること。2つ目は、その電力を使ってセンサーがゴミの量を検知し、一定量たまると自動で圧縮してゴミを最小化する。従来のゴミ箱の5倍の量を収容できるので、ゴミが入り切らずに溢れることを防ぎ、回収する回数を減らせる。3つ目は、クラウド上でリアルタイムにゴミの蓄積状況を管理・分析し、ゴミ回収の効率化が図れる。

 東京の原宿・表参道では、日本特殊陶業株式会社の協賛と地元商店会である原宿表参道欅会の協力、株式会社ヘラルボニーとの連携によって「スマートアクションプロジェクト」を実施。表参道駅から原宿駅までの道沿いに、ヘラルボニーと契約する作家のアート作品をラッピングした34台の「SmaGO」を設置した。その効果として、歩道に散乱していたゴミの低減、ゴミの回収が1日3~4回から1日1回減少、分別率の向上が認められたという。また、協賛費によって持続可能な運用スキームも構築できている。

「今回、『SmaGO』とゴミの種別を自動判別するAIリサイクルボックスを活用し、 “街の資源循環ステーション” というテーマで、プロジェクトを提案します。ゴミと資源をスマートに管理してポイ捨てなどをなくし、設置主や回収事業者と連携して、『県内の資源循環率を2030年までに25%以上にする』という埼玉県の目標達成に貢献します。このプロジェクトの成功の鍵は、大学を起点すること。大学を地域のハブとして、学生・自治体・地域企業・住民との全方位型共創によって社会的なムーブメントへと発展させていきたい」(森下氏)

「エシカルリノベーションシティ埼玉」の実現 ―建築資材ロス削減と資源循環文化の創造―(HUB&STOCK株式会社)

HUB&STOCK株式会社 代表取締役社長 豊田 訓平 氏

 現在、国内では年間約40万トンの新品未使用建築資材が廃棄されていると推定される。このうち、埼玉県では年間2.5万トンをロスしていると見られているそうだ。資材が足りなくなって工期が遅れることを恐れて過剰発注したり、他の現場に流用できない特注品だったり、新製品が登場したことで廃盤となったり、こうした理由により未使用なのに捨てられているのだという。

 この課題については建材特化型のリユース市場が存在しないことが問題を深刻化させていると考え、HUB&STOCKでは余剰建材を買い取り・回収し、自社倉庫で保管・管理、そしてアウトレット価格で再販するビジネスモデルを立ち上げた。すでに、国内主要メーカーとの連携を進め、これまでに累計500トン以上の建築資材を循環させているところだ。

「なぜこの事業を埼玉県で行うのか。それは埼玉の立地構造と文化的特性にあります。埼玉県は首都圏の物流ネットワークのハブであり、工場、施工現場、倉庫が1時間圏内に集まる地理的中心地。すでに埼玉県内だけで100トン以上の未使用建材を回収しています。文化面においては、建材を“作る人”と“使う人”が近いことが挙げられます」(豊田氏)

建材に特化したリユース市場を構築することで建材ロスの課題解決を図る

 顧客ターゲットは、DIY愛好者向けの個人需要、リフォーム事業者向けのビジネス需要、さらにホームセンター資材館アウトレットコーナーへの展開の3つで、それぞれ床材や壁材を主力商品に定価の7~8割引きで販売中だ。なお、東京・板橋にショールームを設置しているほか、ECでの販売も実施しているという。SNS上ではリユース建材を活用した空間事例を発信している。

「今ある資源を活かし、建材ロスをゼロにする持続可能な町づくりという、エシカルリノベーション埼玉モデルを確立した後、同モデルを全国展開して2029年には年間資源循環量600トン、売上高3億円を目指します」(豊田氏)

運ばず、燃やさず、資源化する「JOYCLE BOX」(株式会社JOYCLE)

株式会社JOYCLE 代表取締役社長 CEO 小柳 裕太郎 氏

 人口減少に伴いゴミ焼却施設数が減っているとともに、収集運搬するドライバーも不足しており、さらには燃料代を含めた処理コストが上昇するなど、国内のごみ処理は問題を多く抱えている。今後、財政が厳しい自治体によっては自地域で焼却できないだけでなく、他の自治体に運ぶこともできずに、すべて埋め立てざるを得ない地域も出てくるかもしれないという。

 こうしたゴミ問題を解決するため、JOYCLEでは移動可能な小型資源化装置「JOYCLE BOX」を開発した。灯油・ガス等の化石燃料を使わず、電熱ヒーターでゴミを加熱し、熱分解して資源化する機器だ。

JOYCLEが開発した小型資源化装置「JOYCLE BOX」

 具体的には、液体・金属を除く可燃ごみ45L×20袋を5時間ほどで熱分解し、1~5%のバイオ炭や無機資源に減容しながら資源化する。熱分解するときに発生する有害ガスは効率的に分解・冷却して無害化し、発生熱は発電や給湯、融雪などへの活用にも今後繋げていく見込み。なお、5時間の使用で電気代は500円程度とのこと。排出される無機資源は建材や路盤材、アートなど材料にアップサイクル可能だ。

「JOYCLE BOX」は小型で移動可能なので、病院や研究所、工場、ホテル、離島など、施設ごとに分散処理する使い方が適している。特に、感染性廃棄物の処理コストの高い病院では、通常の処理コストと比べると「JOYCLE BOX」によって3~5割のコストカットが可能になるとしている。

「埼玉県も他の地域同様にドライバーが不足しているほか、県内のゴミ焼却施設47カ所のうち約半数が30年を経過しています。また、近隣都県から廃棄物を受け入れ処理しており、最終処分場の一人当たり残余容量は全国でワースト3位という状況です。我々はこの問題に向き合い、代替案を示したい。短期では産廃処理の実証実験をしながら、中長期的にはゴミステーションの代替として一般廃棄物も資源循環できるような新たなインフラを作り、埼玉県から世界に発信したい」(小柳氏)

廃棄プラスチックのバイオリサイクルによるサーキュラーエコノミーの実現(株式会社Enzyme Labo)

株式会社Enzyme Labo 代表取締役 濵松 一弘 氏

 2023年の国内の廃棄プラスチック量は769万トン。東京ドーム15個分に相当する。リサイクルもされているが、約6割が最終的に焼却され、1500万トン超のCO2が発生しているという。Enzyme Laboでは環境負荷の少ないバイオリサイクルで、廃棄プラスチックの有効利用とサーキュラーエコノミーの実現を目指す。

 軸となるのは、Enzyme Laboと共同研究を行う福島大学・杉森研究室によるポリプロピレンの微生物・酵素分解技術。ポリエチレンやラップなども分解できることがわかっており、研究成果は福島大学と同社の共同で特許を出願しているという。

 現状は廃棄プラスチックの多くが焼却されるが、輸送費と焼却費がかかり、CO2も多く発生している。廃棄プラスチックを輩出する工場内でバイオリサイクルできれば、生成される物質を売却することでリサイクルコストを賄え、焼却処分場への輸送コストやCO2発生も抑えられる。まずは製造業をメインにポリプロピレンやポリエチレンを工場内で再資源化することを目指し、さらには地域の人々が参加しやすいペットボトルキャップの再資源化にも拡大していきたいという。

バイオ技術で廃棄プラスチックを分解・再資源化し循環型リサイクルを目指す

「2025年から2026年にかけては既存微生物の分解率向上、プラスチック分解酵素の精製に努め、2028年から酵素剤 試作品の作製、販売を計画しています。並行して新規微生物の探索も実施していきます。廃棄プラスチックのバイオリサクルは必ずできる。そのためにこれからも歩み続けます」(濵松氏)

.Garbon あらゆる廃棄物を「炭化」し、素材に変える。(株式会社Gab)

株式会社Gab 代表取締役 CEO 山内 萌斗氏

 一般廃棄物・廃プラスチック・衣類などのリサイクル率は10~20%程度といわれている。分別が難しかったり、リサイクルのプロセスが複雑すぎる、コストがかかるなどの理由で80~90%が燃やされていることになるという。しかも、その焼却時にはCO2など温室効果ガスを排出している。

 Gabでは、頭打ちになっているリサイクル率を引き上げるため、廃棄物の炭化技術を活かした新循環ソリューション「.Garbon」を開発した。

「炭化と聞くと燃やすと思われがちですが、炭化と燃焼には決定的な差があります。それは酸素の有無。燃焼は加熱時に酸素と廃棄物の炭素が結びつくことでCO2が発生しますが、酸素がなければ廃棄物の炭素はCO2にならずに、そのまま資源として残るのです」(山内氏)

 事業スキームとしては、分別困難なゴミ、汚れや劣化した素材、端材など、これまで焼却してきた廃棄物をGabが買い取って炭化し、その粉末を再利用して高付加価値素材へと変換する。炭の粉末は黒色の顔料としてだけでなく、消臭・抗菌・遠赤外線効果などの機能を備えており、人工皮革や建材、顔料、消臭剤・抗菌剤など、多様な素材へと展開が可能だ。すでに人工皮革は量産体制ができており、トヨタ自動車をはじめ、大手スポーツメーカーやアパレルメーカーなどと炭化の実験を行い、商品開発を進めているという。

 ビジネスモデルとしては、企業から相談を受けて炭化の実験を行い、炭化ができたらその炭を使って素材開発を実施。開発が成功したら、その素材を企業に販売する。さらに大型炭化炉の開発を行っており、今後、産業廃棄物処理事業者への炭化炉販売も行っていく予定だ。

炭化実験と素材販売に加え、炭化炉販売でのマネタイズを目指す

「埼玉県は産業廃棄物処理事業者数が全国2位であり、製造事業者数も全国4位。さらに物流拠点も多く抱えている。こうしたさまざまな事業者と連携することで、地域で資源を循環させるモデルを形成できると考えている。『.Garbon』を活かした地域資源循環の成功モデルを埼玉県で創出し、全国へ、世界へ広げていきたい」(山内氏)

ピッチだけでは語りつくせない事業にかける思い

 ファイナルピッチ終了後、審査員6人が別室で審査している時間を利用して、ファイナリスト8人よるパネルディスカッションが行われた。ここでは、ピッチでは説明し尽くせなかった話題や事業に対する思いが語られた。

モデレーターは、ASCII STARTUP編集長の北島幹雄が務めた

ヤモリ 藤澤 正太郎 氏:
これまで、建物は古くなったら壊してまた建て直す「スクラップ・アンド・ビルド」が当たり前でしたが、今後は成り立たないと思っています。そうした中で私たちは、地元自治体、地元金融機関、地元に根ざして活動する企業の皆さんとパートナーを組み、各地で事業を展開してきました。この埼玉でモデルケースをつくっていきたい。

ASTRA FOOD PLAN 齋藤 夏実 氏:
私たちがまず目指すのは、唯一無二の過熱蒸煎機の普及です。昨年は深谷市で、スーパーに卸す前に切り落とされたネギの葉の部分を使って、「ネギぐるりこ」を作成する取り組みも行ってきました。今後も埼玉県で新しい「ぐるりこ」を作り、地産地消の輪を広げていきたいと考えています。

Smoke-i-freet 辻 健太朗 氏:
北米では、バーベキューで混材ペレットの使用が増えており、当社でも醤油粕ペレット型燻製材の開発を進めているところです。日本の桜チップを求める海外の食品メーカーもあるのですが、ほとんど手に入らないそうです。そこで、ペレット型燻製材に日本の木材を混ぜれば、日本の木の良さと醤油の燻香をどちらも楽しめます。

フォーステック 森下 優利奈 氏:
私たちは海洋ゴミ問題の解決と日本における公共のゴミ箱普及を実現したいと考えています。海洋ゴミの約8割が街中から来ているといわれていますが、街中にゴミ箱を増やすことで海洋ゴミを減らせると考えます。公衆トイレのように、街中に公共のゴミ箱が当たり前のインフラのようにある社会を目指しています。

HUB&STOCK 豊田 訓平 氏:
今、建材価格は高騰を続けています。不動産価格や人件費も高騰し、公共工事のコストも跳ね上がっています。一方で、未使用の建材が大量に捨てられている現実があります。こうした「建てるか/捨てるか」という二極ではなく、私たちは事業を通じてこのギャップを解消し、「エシカルリノベーション」という文化を広げていきたい。

JOYCLE 小柳 裕太郎 氏:
海外展開も視野に取り組んでおり、フィリピンやインドネシアなどに行く機会が増えています。東南アジアは離島が多く、ゴミを船で運ぶ時間もコストもかかるので、「JOYCLE BOX」に興味を持ってくれています。また、設置によるCO2削減見込みのデータ可視化、効果的な設置場所や効率的な運用法についてAIを活用したシミュレーションにも取り組んでいます。

Enzyme Labo 濵松 一弘 氏:
製品生産に伴い廃棄プラスチックが出ている工場を対象にサーキュラーエコノミーにつながる課題解決に向け、県内の事業者と連携したい。また、再生率が低く資源化の余地が多いペットボトルキャップについては、県民や地域と連携したい。例えばショッピングモールにペットボトルキャップを持参し、ポイントと交換するなども考えられる。こうした仕組みづくりにも取り組みたい。

Gab 山内 萌斗 氏:
社会課題解決の担い手を「ニッチからマス」にしたいと考えて取り組んでいます。これまでこの領域で多くのベンチャーが登場し、廃業してきました。それは社会課題の解決になっても顧客課題の解決にならず、マーケットに浸透しなかったからだと思うのです。エンドユーザーたちが面白い、かっこいい、役立つと思い、受け入れてくれるビジネスと未来を作っていきたいです。

始まったばかりのビジネス分野、何度でもチャレンジを

 審査結果の発表に先立ち、審査員長の吉高まり氏は次のように総評を語った。

審査員長の吉高まり氏

「2回目のCSUPでしたが、昨年の1回目から格段の進化を感じました。特に、明日にでも“埼玉サーキュラーモデル”として自走するような実効性のある提案が多かったこと、また、そのコアがサーキュラーというだけでなく、コベネフィット的に社会の課題解決を明確に打ち出した提案になっていたのが素晴らしいと感じました。

 審査にあたっては『埼玉県における取り組み』という要素も重視したのですが、多くの企業が埼玉県に関するリサーチもしっかり行っていました。また、リユース・リサイクル・リデュースの3Rだけを目的とするのではなく、新たなサーキュラーエコノミーモデルとして提案されたところも評価に値します。

 サーキュラーエコノミーはまだ始まったばかりのビジネス分野です。前回に続いて再チャレンジしていただいた企業も何社かありましたが、さらに上をめざしてのチャレンジは、CSUPならでは。何度でもチャレンジして埼玉県をサーキュラーエコノミーのハブとして盛り上げていただきたいと思います」

最優秀賞は建材ロスに切り込んだHUB&STOCK

 審査結果の発表では、埼玉県知事の大野元裕氏がプレゼンターを務めた。

 最優秀賞は建材ロス削減を提案したHUB&STOCKが獲得。優秀賞には醤油粕燻製材のSmoke-i-freetと空き家活用事業のヤモリの2社が、特別賞には過熱蒸煎機のASTRA FOOD PLANがそれぞれ選出された。最優秀賞には賞金100万円、優秀賞の2社には賞金50万円、特別賞には賞金30万円が贈られた。

【最優秀賞】HUB&STOCK株式会社「『エシカルリノベーションシティ埼玉』の実現~建築資材ロス削減と資源循環文化の創造~」

【優秀賞】Smoke-i-freet「醤油粕アップサイクル燻製材 meets 彩香の燻醤 がっこいぶりの生ふりかけ ~漬物ロスゼロ化を目指して~」

【優秀賞】株式会社ヤモリ「空き家を活用したアフォーダブル賃貸住宅事業」

【特別賞】ASTRA FOOD PLAN株式会社「過熱蒸煎機を用いた かくれフードロスの削減及びアップサイクルフード市場の創出」

埼玉はサーキュラーエコノミーを実践するのに最も適した県

 最後に、大野知事から閉会の挨拶とともに、埼玉県のサーキュラーエコノミー推進への強い意志が語られた。

埼玉県知事 大野 元裕氏

「ファイナリストの皆様、表彰を受けた皆様、誠におめでとうございます。今後、プランとしてだけでなく、ぜひ埼玉でビジネスを展開していただくことを心から祈念しています。

 埼玉県では、2023年にサーキュラーエコノミー推進センターを設立しました。国内では埼玉県以外にも3つほどの自治体も同様の部署を設置していますが、他はすべて環境部門が管轄しているのに対し、埼玉県は産業労働部が管轄しています。私どもでは、経済として成立しなければ環境面でも成立しないと考えているからです。

 埼玉県は今年の都道府県魅力度ランキングで最下位でしたが、教育や交通の便は上位でした。特に交通に関して、埼玉県は新幹線の6路線が乗り入れる交通の要衝であり、1時間でアクセスできる人口が非常に多い。サーキュラーエコノミーは製品を作るだけでなく、使って、排出したものを循環させることが重要です。つまり、埼玉はサーキュラーエコノミーを実践するのに最も適した県なのです。

 こういった特性を最大限に活かすことで、経済そして環境に大きなチャンスがあります。CSUPから多くの事業の芽が出て、“Win-Win”で誰もが利益を享受できるような、そんな未来を皆様と作っていきたいと考えています」

 審査員長の吉高氏の言葉にもあったように、今回集まったビジネスプランはどれも実効性の高いものばかり。埼玉県だけでなく、日本中、世界中が抱える社会課題に切り込み、実績を上げているものある。「CSUP」を契機に、埼玉から世界を変えるビジネスが生まれてくるだろう。

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