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ロボットアーム、リチウム電池の安全運搬ボックス、子どもの多様な体験機会提供など 埼玉「渋沢MIX」が育てる社会課題解決型スタートアップ

埼玉発スタートアップ支援プログラム「渋沢MIXスタートアップ創出・成長支援プログラム」中間成果発表会レポート

特集
埼玉県のイノベーション創出拠点「渋沢MIX」

提供: 埼玉県

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渋沢MIXの伴走支援型「スタートアップ創出・成長支援プログラム」

 埼玉県のイノベーション創出拠点「渋沢MIX」は、「オープンイノベーションの創出・促進」、「スタートアップの創出・成長支援」、「イノベーションを担う人材の育成」の3つのコンセプトを掲げ、埼玉県経済を活性化するハブ機能の実現を目指している。2025年7月の開設から4カ月で会員は400者を超え、起業家から支援者、投資家が交わる“県内最大級のコミュニティ”へと成長しつつある。

 渋沢MIXでは、スタートアップの創出と事業成長を後押しする伴走支援型プログラム「渋沢MIXスタートアップ創出・成長支援プログラム『S4』」を展開している。

 本プログラムは、成長段階に応じて「シード期編」(起業検討中または起業直後)と「アーリー期編」(プロダクトマーケットフィットを目指すフェーズ)の2つのフェーズで県内外から参加者を募集。それぞれ15社(者)ずつ、合計30社(者)を支援対象としている。

 支援体制としては、豊富なメンター陣による個別メンタリングや、知識とノウハウをインプットする集中プログラム(各4回)を実施。特にアーリー期の参加企業に対しては、ベンチャーキャピタル(VC)が“1社1担当”で伴走支援を行なう手厚い体制が組まれている。

 2025年11月26日に開催された中間成果発表会は、プログラムの折り返し地点として、現時点での進捗や事業の展望を確認するとともに、2026年3月6日、7日に開催される最終成果発表会(デモデイ)の登壇者を選出する場となった。なお、アーリー期から選出された5社には、最大100万円の支援金が交付される予定だ。

最終成果発表会へ進む10社が決定

 中間発表会では、まずアーリー期14社が登壇し、その後、シード期12社(者)が登壇。埼玉県内での展開や自社のビジネスモデルについて、5分間のピッチと5分間の質疑応答が行われた。

 評価員を務めたのは、株式会社シクロ・ハイジア代表取締役CEOの小林誠氏、ミライドア株式会社投資本部副本部長/インベストメントオフィサーの石坂颯都氏、株式会社tsam代表取締役の池森裕毅氏、埼玉県産業支援課長の島田徹氏、そして運営事務局である有限責任監査法人トーマツディレクターの中尾謙太氏の5名。

 審査基準は、成長ステージによって異なり、アーリー期は「事業の将来性」、「事業の実現可能性」、「事業の優位性」、「地域での事業継続性」、「支援金活用計画の内容」の5項目。シード期は「課題の解像度」、「アイデア・技術のユニークさ」、「実現可能性」、「地域での事業継続性」の4項目で評価。

 この評価点に基づき、デモデイ登壇者としてアーリー期5社、シード期5社(者)、計10社(者)のスタートアップが選出された。

 ここからは、デモデイ登壇が決まったアーリー期5社のピッチ内容を紹介する。

アーリー期編から選出されたのは、左から順に株式会社meepa、株式会社Every WiLL、株式会社スポンサル、株式会社電知、株式会社Kailas Roboticsの5社

多様な体験で子どもの“好き”を見つける仕組み

 株式会社meepaは、 保育園や幼稚園、学童などの施設向けに、子どもたちへ多様な体験機会を提供するプログラム「みーぱのじかん」を運営している。プログラム運営をmeepaに一任することで、子どもたちが「本当に好きなこと」と偶然出会える環境をつくる。現在21施設で導入され継続率は100%。全国300施設以上を運営する大手法人グループへの導入実績もあり、今後は行政との連携もしながら効率的な営業と事業拡大を目指すという。

株式会社meepa 共同創業者 塩田純希氏

普段どおりに保育園や学童に通うだけで、多様な体験ができる仕組みを提供

 質疑応答では、行政連携のメリットや時間的課題についての質問があった。塩田氏は、行政連携は「ひとつの要素」として捉えており、基本的には施設への直接アプローチで進める方針。ただし、市の保育園の園長が集まる機会などは行政経由の方が効率的な場合もあるため、状況に応じて連携を図りたいと説明した。

 講評では、次世代を担う子どもたちの可能性が広げられる事業として評価が高かった点が選出理由として挙げられた。加えて、講師に埼玉地域内の人材をうまく活用し、地域住民と子ども、保育園や学童等が相互に発展できることが期待された。

配車業務のDXを“現場志向”で進める

 株式会社スポンサルは、中小運送会社で属人化が進む「配車マン」の業務を自動化するクラウド型AIシステム「ラクハブ」を提供。運送業3代目としての現場理解と問題意識から、紙ベースの配車表作成や請求書発行のデジタル化サービスを月額9800円という低価格で提供。2026年3月にはAI配車マンをリリース予定で、AIによる自動化への段階的移行を目指す2段階モデルを採用している。埼玉県は運送会社数が全国3位と多く、今後は支援金を活用して県内導入およびAI開発に注力する方針だ。

株式会社スポンサル 代表取締役社長 丹野健心氏

ラクに使えるデジタル化を土台にAI導入を進める

 質疑応答では「なぜ最初からAIを導入しないのか」という質問が寄せられた。丹野氏は、「現場では新しい仕組みに対する抵抗が強く、まずは業務が楽になる体験から始めなければ受け入れられない」と説明。競合が“AI直行”で苦戦している例を挙げ、現場理解を前提とした段階的モデルが現実的であると強調した。

 講評では、こうした運送業への深い現場理解と、それに基づく段階的なDX戦略が評価された。

電池の火災リスクを防ぐ安全回収ボックス

 株式会社電知は、 独自技術による簡易、高速かつ高精度なリチウムイオン電池診断サービスを提供。近年社会問題化しているリチウムイオン電池の火災リスクに対応した安全運搬ボックス「DENPOI」を開発している。2025年4月に環境省から自治体による電池回収の方針が示された政策動向を受け、川口市の公共施設など埼玉県内の自治体と連携し、「DENPOI」を用いた実証実験の開始が決定しているとのこと。

株式会社電知 研究開発部 研究員 井上一孝氏

車載電池パック診断機を独自に開発

 質疑応答では、競合の有無が問われた。井上氏は、「発火を検知する収集ボックスは存在するものの、『DENPOI』のように“密閉して回収し、内部で発火した際には消火剤が自動で落下する”仕組みを備えた製品は現状ほかにない」と独自性をアピールしていた。

 講評では、回収や処理の仕組みが確立していない領域において、新たな社会インフラのモデルになり得る点が評価された。

再配達をなくす“届けない配送”モデル

 株式会社Every WiLLは、ドライバーが複数の荷物を無人拠点にまとめて置き、個人がポイント等を対価に荷物を取りに行く「届けない配送」モデルのシェアリングプラットフォーム「トリイク」を運営している。再配達問題とドライバー負担の軽減を目的とし、国土交通省と連携して実証実験を進行中。グレーゾーン解消制度を活用し、拠点に荷物を置いた時点で配送完了となる経済合理性の高いモデル構築を目指す。

株式会社Every WiLL 代表取締役 須藤俊明氏

再配達ゼロを目指した無人拠点「トリイク」を展開

 質疑応答では、サービスの原価構造について質問があり、須藤氏は「拠点構築の初期費用が約30万円、ランニングは月数千円」と説明。また、不動産費用については、賃料を払わない場所での展開を目指し、現在も賃料ゼロで商業施設や集合住宅で実証を行っていると回答した。

 講評では、物流逼迫が進む中で、配送のシェアリングは有力な解決策になり得ると評価された。

移動体に搭載できる超小型ロボットアーム

 株式会社Kailas Roboticsは、ドローンなどの移動体にも搭載できる超小型、軽量、低消費電力の統合ロボットアームシステムを開発。従来の固定式ロボットでは難しかった、不安定なプラットフォーム上での作業を実現し、労働人口不足の課題解決を目指す。チームは、東京大学出身のCTOを中心に埼玉県川口市で開発を進めており、物流やインフラ点検などでの活用を想定しているとのこと。

株式会社Kailas Robotics CEO 塩見佳久氏

移動体にも搭載可能な統合ロボットアームシステムを開発

 評価員からの競争優位性についての質問に対し、塩見氏は「競合と争うより、現場での協働の余地が大きい」と回答。高所作業における人の作業範囲の補完や、地上から遠隔操作を可能にするなど、多様な連携の可能性を示した。

 講評では、グローバルでも競争が激しい領域であるものの、技術力次第で確かな差別化が図れると評価。今後はユーザー現場のニーズをどこまで深掘りできるかが鍵とされた。

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