「賢さ」から「使いやすさ」へ──AI競争はどこへ向かうのか
GPT-5.2は、モデル性能の着実な更新だ。長文処理の安定性、推論の粘り強さ、コード生成の精度向上など、地道だが確実な底上げが図られている。一方、グループチャットやショッピングリサーチ、Adobe連携といった新機能は、ChatGPTを「対話AI」から「日常の作業基盤」へと変えようとする試みだ。
その背景にあるのは、AI競争の構造変化だ。Gemini 3の躍進を受けてOpenAIが「コードレッド」を発令したことが象徴するように、モデル性能だけでは優位を保てなくなった。グーグルは既存サービスへの組み込みで、OpenAIは機能拡張で、Anthropicは安全性重視で──それぞれ異なる土俵で戦い始めている。
同時に、AAIFのような業界横断組織の設立や、グーグルによるMCPの即座の採用は、「インフラ部分では協調する」という成熟の兆しでもある。ChatGPTが登場してから約3年。AI競争は、技術の優劣を競う「研究室の戦い」から、ユーザーの日常にどう溶け込むかを競う「実用の戦い」へと、確実に移行しつつある。
この変化は、ユーザーにとっては悪くない。これまでのベンチマーク至上主義は、スコア稼ぎに最適化されたモデルを量産するだけで、実際の使い勝手とは乖離していた。GPT-5.2が「GDPval」のような実務タスク評価を前面に出しているのは、その反省の表れとも言える。
とはいえ、使い勝手の面ではまだ不満も残る。特にライターとして原稿作成に使う立場からすると、ChatGPTの「過剰なサービス精神」が邪魔になる場面が多い。たとえば、記事の構成を壁打ちしているだけなのに、「必要であれば、各セクション向けのテキスト草案も作成可能です。どの項目を優先して執筆するか指定してください」といった提案を勝手に差し込んでくる。こちらは構成を整理したいだけで、ChatGPTに書いてもらうつもりはない。いちいち「まずはこっちで書くから提案はいらない」と断らなければならず、正直うっとおしい。もちろん、こうした積極的な提案を歓迎するユーザーも多いだろうし、むしろそちらが大多数かもしれない。ただ、プロのライターのように「道具として使いたい」層にとっては、この親切心が余計なノイズになる。
結局のところ、ベンチマーク競争から機能拡張競争に戦場が移っただけで、チキンレースの構図自体は何も変わっていない。ユーザーとしては、派手な新機能に目を奪われず、「本当に使えるか」を冷静に見極める必要がありそうだ。

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