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会社を作るVC 京都大学イノベーションキャピタルの“大学シーズを会社に変える”プロセス

ASCII STARTUP TechDay 2025「京都iCAP/京都大学 成長戦略本部」展示レポート

連載
ASCII STARTUP TechDay 2025

提供: 京都大学イノベーションキャピタル株式会社

 京都大学イノベーションキャピタル株式会社(京都iCAP)は、京都大学子会社のベンチャーキャピタルとして、国立大学の研究シーズをもとに創業支援や投資活動を行っている。TechDayでは、投資部の大林正佳氏、アクセラレーション担当の奥田さら氏に、創業プロセスや人材支援の仕組みを聞いた。

京都大学イノベーションキャピタル株式会社 投資部の大林正佳氏(左)、アクセラレーション担当の奥田さら氏(右)

創業前から事業計画づくりに関与する投資モデル

 京都iCAPの投資先の約半数は、研究者に起業を提案し、会社設立から支援する“創業案件”だ。投資部では、論文や特許を読み込み、事業化の可能性を検討するところから始まる。

 大林氏は日々の業務についてこう語る。

「サイエンスやネイチャーなどの論文、特許を見て、たとえばレアメタルの代わりに鉄を使った触媒を開発していたり、核融合だったり、窓ガラスで赤外線を吸収して発電できないか、といったエッジの効いたシーズを探すのが仕事です」

 シーズ探索後は、科学技術そのもののポテンシャルを多様な角度から評価していき、国立大学の産学連携機関(京大では成長戦略本部)と協働して研究者に研究を継続してもらい、事業になるまで数年単位で発明をアセットとして育てていく。

700名規模のCXO候補プールとマッチング

 起業の次の課題は、事業を動かす経営人材の確保である。京都iCAPは20〜40代を中心に約700名のCXO候補プールを持っている。

 奥田氏は、大学シーズと経営者の関係をこう例える。

「どんなにいい材料があっても、料理をするシェフがいないと美味しい料理はできません。京大には材料(研究シーズ)はたくさんあるのですが、シェフ(経営者)が圧倒的に足りていないんです」

 海外MBA取得者の誘致や研究者とのマッチングイベントを定期的に実施し、起業に関心ある人材との接点を日常的に広げている。マッチング成立後は、大学発スタートアップの設立に向けて、研究者と起業家による事業計画の作りこみが行われていく。

 京都iCAPでは事業創出に熱意を有するキャピタリストも随時募集しており、案件組成から研究者・経営者と三者で事業化を進めるスタイルを採用している。

大学出資子会社だが、投資判断は独立

 京都iCAPは京都大学の子会社だが、同社が運営する投資ファンドには大学からの資金のほかに民間からの資金も組み入れられており、投資判断は大学側とは切り離されている。

「リターンはもちろん大事ですが、“どれだけ社会にインパクトがあるか”も重視しています。民間VCと同じことをしているだけでは不十分で、難易度の高い領域にも投資しないといけません」と大林氏。

 バイオ医療、核融合などの次世代エネルギーなど、民間VCには踏み込みづらい領域も対象とする点が特徴だ。設立から約10年で投資件数は70社程度に達し、その半数は創業前から関与した案件。初期の投資先からはEXITケースが出始めているという。

EIR制度から海外コンペで優勝した企業も

 京都iCAPは、任期付きの投資部員として給与を得ながら2年間で自分のスタートアップをつくる「EIR(客員起業家)」制度も運用している。

 この制度を通じて設立されたライノフラックス株式会社は、バイオエネルギー炭素回収プラントを開発し、2025年11月12日に開催された KPMG Private Enterprise Global Tech Innovator Competition(ポルトガル・リスボン)で日本代表として出場、優勝した。

 研究シーズの事業化に時間がかかるとされるディープテック領域でも、支援環境が整えばグローバルで評価されるという事例のひとつだ。

挑戦を繰り返せる“土壌”の必要性

 最後に、大林氏は継続的な挑戦環境の重要性を強調した。

「失敗の経験を活かすことが成功の近道ですし、リスクを取って起業する人が尊敬される社会づくりに貢献していきたい」と話していた。

共同出展:京都大学 成長戦略本部の取り組みも紹介

 今回のブースは、京都iCAPと京都大学 成長戦略本部の共同出展として構成されていた。

  成長戦略本部側では、フィジカルAI分野のに関心のある学生・研究者・企業が交流するコミュニティ 「Kyoto University Physical AI Community(KUPAC)」 を紹介。ロボットやセンサーなどを活用した、現実世界で動くAI研究の交流を目的としたコミュニティで、研究者同士や企業との協働につながる場になっている。

 また、KUPACでは、フィジカルAIの社会実装を目指すオープンコアプロジェクト 「KVT Project」 を進めており、技術実証や導入に関する相談も受け付けている。参加方法や活動内容の詳細は公式サイトにて。

KUPAC幹事の平塚 謙良氏(左)と代表の大澤 衡正氏(右)

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