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量子チップ「Nighthawk」と「Loon」により次のステージへ

誤り耐性実用化に向けたIBM量子コンピューティングの現在地 量子優位性の達成は間もなく

2025年12月05日 12時00分更新

文● 福澤陽介/TECH.ASCII.jp

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 IBMは、2026年末までに量子優位性を実証し、2029年までに誤り耐性を持つ初の量子コンピューターを構築することを目指している。2025年11月に米国で開催された年次イベント「Quantum Developer Conference」では、これらの進捗が共有された。

 量子優位性の実証に向けては、新量子プロセッサ「Nighthawk」を発表。加えて、大規模なフォールトトレラント(誤り耐性)量子コンピューター構築を見据え、実験的プロセッサ「Loon」を披露している。

 日本アイ・ビー・エムは、2025年12月4日、同イベントを振り返る説明会を開催。 IBM Quantum Japanの統括部長 シニア・テクニカル・スタッフ・メンバーである堀井洋氏は、「IBMは、2026年の量子優位性、2029年のフォールト・トレラント量子コンピューターと着実にステップを踏み、様々な適用領域で実用化するための試みを進めている」と語った。

IBM Quantum Japan 統括部長 シニア・テクニカル・スタッフ・メンバー 堀井洋氏

国内外におけるIBM量子コンピューティングのここまで

 まずは、IBMの量子コンピューティングにおける取り組みの概要について語られた。

 IBMの同領域におけるミッションは「実用的な量子コンピューターを世界に提供する」ことだ。そのために、量子プロセッサに加えて周辺のエレクトロニクスからシステム、ソフトウェアまで、量子コンピューティングを実現するためのプラットフォームを開発・提供してきた。

 現在、100量子ビットを超え、5000回以上の2量子ビットゲートを実行できる量子コンピューターを、グローバルで25台展開。多くのユーザーが利用できるクラウドで提供されているのが特徴であり、全体の平均稼働率は97%に達するという。最新の量子プロセッサである「Heron R2+」搭載の量子コンピューターは、ジョブ成功率が99.4%を越え、「まさに実運用に向けて、IBMが量子コンピューターを提供できていることを示している」と堀井氏。

 また、ニューヨークとドイツで量子データセンターを運営するほか、9台の量子コンピューターがオンプレミスで稼働し(来年初期に予定のものを含む)、その中には、東京大学とIBMが運用する「IBM Quantum System One(ibm_kawasaki)」、理化学研究所とIBMが運用する「IBM Quantum System Two(ibm_kobe)」も含まれる。

かわさき新産業創造センターに設置されているIBM Quantum System One(日本IBMのブログより)

 また、量子コンピューターを利用するためのソフトウェアライブラリ「Qiskit」も手掛ける。オープンソースの量子SDK(Software Development Kit)であり、多くのプロジェクトに利用されるディファクトスタンダードとなっている。「他社と比べて格段に処理が速いため、開発生産性も上がり、量子アプリケーションの実行時間にも優位性を示せている。それが人気の要因ではないか」(堀井氏)

 こうしたプラットフォームを基に、世界中の企業や研究機関とエコシステムを形成しており、社会実装に向けたアプリケーションの開発研究を活性化させている。産業界では50社以上、商業パートナーやスタートアップは65社以上、学術・研究機関においては170団体以上と協業し、これらのメンバーがIBMの量子プラットフォームにアクセスしている状況だ。

 国内で代表的な協業は、理化学研究所との取り組みだ。米国外で初となる「IBM Quantum System Two」を導入。この量子コンピューターは、Heron R2+を搭載し、同じ建物内にあるスーパーコンピューター「富岳」と接続して、日々アプリケーションの研究開発に利用されている。その成果のひとつとして、複雑な硫化鉄の電子構造を正確にモデル化する技術が、米学術誌Science Advancesの表紙を飾っているという。

理研のIBM Quantum System Two(ニュースリリースより)

 また、東京大学と共に2021年に設立した「東京大学- IBM Quantum ハードウェアテストセンター」は、性能要件が厳しい量子コンピューター用ハードウェアのテストベッドとなる施設だ。TDKやフジクラ、キーコム、I-PEX、アルバックなどが同センターを活用して成果を生み出している。

“量子優位性”達成のための120量子ビットプロセッサ「Nighthawk」

 年次イベント「Quantum Developer Conference」では、IBMの提示している量子コンピューティングのロードマップの通り、新たな量子プロセッサとソフトウェアの機能強化が発表された。

量子コンピューティングのロードマップ(IBMのブログより)

 これらのアップデートは、2026年内に量子優位性(Quantum Advantage)を実証して、2029年までに初となる大規模フォールト・トレラント量子コンピューターを提供するというマイルストーンに沿ったものだ。

 IBMでは、量子優位性を「量子コンピューターで実行される情報処理タスクが、『分離性』と『検証性』を満たすこと」と定義している。分離性とは、古典コンピューター単独では不可能な効率性や高コスト効果、高精度といった優位性を示すことだ。検証性とは、出力の正確性を厳密に検証可能なことを指す。

 「我々が量子優位性を示すだけではなく、他社がIBMのシステム・ソフトウェアを利用して、検証できることが非常に重要」(堀井氏)

 現在、量子優位性を達成したという様々な論文が発表される中で、どのように達成しているのか、検証できているのかというポイントをトラックするシステムとして「Advantage tackers」も発表している。

Advantage tackers(IBMのブログより)

 イベントにおける目玉となったのが、量子優位性を実証するために設計された、120量子ビットの新量子プロセッサ「Nighthawk」である。前モデルHeronから量子ビットは減っているものの(Heronは133量子ビット)、量子ビットを四角格子に配置することで、接続性を高めている。Heronと比較してカプラー数(量子ビット間で結合できるペアの数)が20%以上増加し、30%複雑な量子回路を実行可能になっている。これにより、Nighthawkの3000回の2量子ビットゲートは、Heronでの4200回の2量子ビットゲートに相当するという。

 Nighthawkは今後、2026年末までに7500回、2027年に1万回、2028年に1万5000回の2量子ビットゲートを実行できるようにする計画だ。

Nighthawk(IBMのブログより)

 また、量子SDKであるQiskitでは、様々なプラットフォームとつながるためのSlurmやQMRI、Prefectといった機能拡張をしており、他のソフトウェアとの接続がしやすくなっている。「こうした機能で、様々なアプリケーションがHPCや量子コンピューターを利用できる仕組みを提供する」と堀井氏。

Qiskitによるオープンエコシステム(IBMのブログより)

 また、量子情報科学の研究のために必要なマッピング、最適化、実行、結果の処理といった構成要素を提供するツール(Quantum information science research)においても、各レイヤーに新機能を追加している。例えば「Samplomatic」は、量子コンピューターの中でのエラーを緩和するのを支援するコンポーネントである。

 また、QiskitはPythonで構築されているが、昨今連携することが増えたHPCではC++が使われている。そこで、C-APIという基盤でC++のインターフェースを提供する「Qiskit C++」を提供開始した。C-APIでは、ほぼすべてのプログラミング言語にネイティブ接続が可能だ。なお、Qiskit C++は日本チームが開発したという。

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