【JSTnews11月号掲載】NEWS&TOPICS 創発的研究支援事業(FOREST)研究課題「がん細胞内過剰鉄を酸化鉄に変換する革新的技術の開発」
ヒザラガイの硬い「磁鉄鉱の歯」をつくるたんぱく質を発見
2025年11月25日 12時00分更新
酸化鉄の一種で強い磁性を持つ結晶である磁鉄鉱(Fe3O4)は、その特性を利用して、ハードディスクやMRI 造影剤などのバイオ関連製品に使われています。海岸の岩場で見られるヒザラガイ類は、餌を摂食する歯舌(しぜつ)と呼ばれる器官上に、磁鉄鉱でできた非常に硬い歯がありますが、どのようにして形成されるのかはわかっていませんでした。
岡山大学学術研究院の根本理子准教授らの共同研究チームは、この「磁鉄鉱の歯」に関わる新規たんぱく質を発見し、生体内で形成されるメカニズムを明らかにしました。同チームはこれまでに、磁鉄鉱の歯に含まれる複数のたんぱく質を同定していました。今回、3種類のヒザラガイの歯舌組織の遺伝子を解析し、3種類に共通するたんぱく質の遺伝子を発見。さらに、ヒザラガイ類にしか存在しないたんぱく質を見つけ、「歯舌マトリックスたんぱく質(RTMP1)」と命名。RTMP1が、あらかじめ形成された歯の骨組みであるキチン繊維に結合し、キチン繊維上に酸化鉄の形成を誘導する仕組みも解明しました。
現在、工業的に磁鉄鉱を合成する際には高温や有害物質を用いますが、RTMP1を使えば、安全で環境にも優しい方法で合成できる可能性があります。また、人間の体内に鉄が過剰に存在すると、がんや神経変性疾患などを引き起こすことが明らかとなっています。鉄をコントロールできるRTMP1は、これらの病気の治療研究への応用も見込まれます。

この連載の記事
-
第58回
TECH
アンデス・アマゾン考古学で探る人と自然の共生システム -
第57回
TECH
「誰」を優先対象とすべきか、ポストコロナ時代の新型コロナワクチン接種 -
第56回
TECH
食虫植物が獲物を捕らえる「感覚毛」の全容解明に一歩前進 -
第55回
TECH
環境モニタリングへの応用も期待される、“液体の流れで生じる電位差”を利用した電気化学発光法を開発 -
第54回
TECH
ゲノム編集技術の活用で、男性不妊の新たな原因遺伝子を発見 -
第53回
TECH
小さな気泡を発生させて水の摩擦抵抗を減らし、船舶航行の省エネを実現 -
第52回
TECH
深海の極限環境をヒントに、食品製造に欠かせない高機能乳化剤を開発 -
第51回
TECH
産学連携で理想の分析システムを実現! 「超臨界流体クロマトグラフィー」が開く未来の科学 -
第50回
TECH
頭蓋骨をナノマテリアルで代替。生きた脳を超広範囲で観察する手法を完成 -
第49回
TECH
金の原子3つ分の超極細「金量子ニードル」を開発、他分野への応用に期待 -
第48回
TECH
温度変化をスイッチとしてたんぱく質の機能を操る、新たな分子ツールを開発 - この連載の一覧へ








