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科学技術振興機構の広報誌「JSTnews」 第47回

【JSTnews11月号掲載】NEWS&TOPICS 創発的研究支援事業(FOREST)研究課題「がん細胞内過剰鉄を酸化鉄に変換する革新的技術の開発」

ヒザラガイの硬い「磁鉄鉱の歯」をつくるたんぱく質を発見

2025年11月25日 12時00分更新

文● 中條将典

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 酸化鉄の一種で強い磁性を持つ結晶である磁鉄鉱(Fe3O4)は、その特性を利用して、ハードディスクやMRI 造影剤などのバイオ関連製品に使われています。海岸の岩場で見られるヒザラガイ類は、餌を摂食する歯舌(しぜつ)と呼ばれる器官上に、磁鉄鉱でできた非常に硬い歯がありますが、どのようにして形成されるのかはわかっていませんでした。

 岡山大学学術研究院の根本理子准教授らの共同研究チームは、この「磁鉄鉱の歯」に関わる新規たんぱく質を発見し、生体内で形成されるメカニズムを明らかにしました。同チームはこれまでに、磁鉄鉱の歯に含まれる複数のたんぱく質を同定していました。今回、3種類のヒザラガイの歯舌組織の遺伝子を解析し、3種類に共通するたんぱく質の遺伝子を発見。さらに、ヒザラガイ類にしか存在しないたんぱく質を見つけ、「歯舌マトリックスたんぱく質(RTMP1)」と命名。RTMP1が、あらかじめ形成された歯の骨組みであるキチン繊維に結合し、キチン繊維上に酸化鉄の形成を誘導する仕組みも解明しました。

 現在、工業的に磁鉄鉱を合成する際には高温や有害物質を用いますが、RTMP1を使えば、安全で環境にも優しい方法で合成できる可能性があります。また、人間の体内に鉄が過剰に存在すると、がんや神経変性疾患などを引き起こすことが明らかとなっています。鉄をコントロールできるRTMP1は、これらの病気の治療研究への応用も見込まれます。

鉄(Fe)が流入し、キチン繊維上に結晶構造が不完全な酸化鉄(低結晶性酸化鉄)が沈着。酸化鉄の結晶化が進むことで、黒色の磁鉄鉱から成る歯が形成される。

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