「世界に1000人しかいない人材」はどう動く? 人材流動化の現実
ASCII STARTUP TechDay2025事前インタビュー:株式会社An-Nahal CEO 品川優氏
研究成果を社会実装につなげるには、「人」が鍵になる。ASCII STARTUP TechDay 2025では、「ディープテック・スタートアップにおけるビジネスサイド構築と人材流動化」をテーマにセッションを実施する。ダイバーシティ経営・人材育成の専門家として、国内外で組織開発や起業支援に携わっている品川優氏(An-Nahal CEO)に、現場で見えている課題と多様な人材の力で何が変えられるのかを伺った。
――普段はどんな活動をされていますか?
いまは「TECH HUB YOKOHAMA」という横浜にあるディープテック、ハードテック支援拠点で、誰でも参加できるイベントを第2、4水曜日に開催しています。そこでは、起業家から研究者、行政、投資家、学生といった人たちが出会う場をつくっています。私自身は、エコシステムの「ソフト面」、つまりつまり人と人をつなぎ、コミュニティーの空気や仕組みを整える立場です。特に、外国人起業家や女性起業家など、これまでスタートアップエコシステムにおける少数派の方々も歓迎されていると感じられる場づくりを心がけています。
――ダイバーシティ&インクルージョンの領域に取り組もうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
大学時代に参加した内閣府主催の国際交流事業の海外代表青年や外国人留学生が、言語や文化の違いから専門性を活かした仕事を日本で見つけられない、もしくは定着しない実態をみてきました。卒業後、組織人事コンサルティングに従事する中で、この課題を解決するのに必要なのは彼らが変わることではなく、受け入れ側の組織や人の変化だと思ったんです。それがきっかけで2019年に独立し、An-Nahalを立ち上げました。「An-Nahl」とは、アラビア語で「ミツバチ」という意味です。花粉を運び花を開かせるミツバチのように、様々な人と関わりながらインクルーシブな文化を醸成していきたいと思い名付けました。
――研究や技術の分野にも「多様性」は必要なのでしょうか?
とても重要だと思います。研究の現場に「多様な視点」を入れることは、社会的責任にとどまらず、研究そのもののクオリティーを上げることにつながります。例えば、最近はジェンダードイノベーションという分野が注目されています。自動車の安全テストは、長年男性の体型モデルで実施されてきた結果、妊婦や子どもの重症化リスクが高いというデータがあります。
製薬の分野でも、治験に妊婦の女性が含まれないことで副作用が見落とされるケースがあります。これは技術以前に「誰のために研究しているのか」という視点を欠いた例です。ジェンダーや文化、背景の違いを初期段階から取り入れることで、技術も社会もより良くなっていく。ディープテックも例外ではありません。
――これまでの活動で、印象に残っている取り組みや気づきは?
最近関わった「WISER(ワイザー)」という株式会社tayoが主催する女性研究者起業支援プログラムでは、起業を志す若手女性研究者と多く出会いました。そこで印象的だったのが「女性というラベルを貼られるのは抵抗があったけど、この会場にきてみてこんなに楽なんだとびっくりした」という声が複数あったことです。マイノリティとして存在することに慣れすぎて、無意識の緊張やストレスに気づいていなかったというケースは多くあります。研究領域での多様性を増やすことは、この目に見えない緊張やストレスを減らすことで研究者の能力を最大限発揮する環境につながるとも実感しています。
――今回のテーマ「ディープテックに必要なビジネスサイドの構築」について、どんな問題意識をお持ちですか?
人材の獲得と組み合わせの難しさですね。研究者とビジネスサイドの人が出会う機会がまだまだ少ない。とくにディープテックの場合、ニッチな領域で世界に専門家が1000人もいないような領域もあります。
海外から人を呼びたくても、日本では報酬体系やストックオプション制度が合わず、優秀な人材を惹きつけにくい。この「構造的な壁」を変えない限り、世界水準のチームづくりは難しいと感じます。
――TechDayにはメーカーなど大企業の方も多く来場されます。どんな関わり方ができそうですか?
大企業の方々にこそ、ディープテックの世界にいる研究者やスタートアップとの接点を増やしてほしいです。先日CVC担当者の方が「自社では1からの研究開発や事業化には時間がかかりすぎる。すでに技術やプロダクトを持つスタートアップと連携することでスピード感を上げたい。逆に、自社がもつチャネルを実証フィールドとして活用するなど相互に連携していきたい」という話がありました。この感覚を得るにはお互いを知ることから始まります。だからこそ、まずは参加して研究者やスタートアップの持つ独自性や強みをぜひ好奇心を持って聞きにきていただきたいと思います。
ディープテックは特別な世界ではなく、産業全体で育てる領域。TechDayを、そうした「橋渡し」の場にしていけたらと思っています。
――当日はどんな話をされますか? どんな人に聞いてほしいですか?
今回はモデレーターの立場なので、私が話すというよりは、窪田さんや成井さんの現場経験から、どのような課題意識や具体的な解決策が出てくるのかを引き出したいと思っています。特に、創業経営者としてのリアルな苦労や、研究者とビジネス人材がいかに有機的にチームを組成するのかという部分を深掘りしたいですね。
聴いてくださる方には、「研究者は全部自分でやらなくていい」という感覚を持ち帰ってほしいです。経営やビジネスの仲間を組み込むことで、研究のスピードも社会実装の精度も上がる。多様な人が交わることで、日本のディープテックの“質”はもっと高められると思います。
――最後にメッセージを。
ディープテックの現場を、もっと「インクルーシブ」にしたい。それが結果的に、研究も社会も強くするはずです。会場で新しい出会いが生まれることを楽しみにしています。

品川 優(シナガワ・ユウ)氏
2019年に株式会社An-Nahalを設立。企業のダイバーシティ&インクルージョン推進を、組織開発や人材育成の観点から支援している。外国人起業家や外国籍人材のキャリア開発支援にも取り組む。現在はVenture Café Tokyoが運営するイノベーションコミュニティ「YOKOHAMA CONNÉCT」のプログラムマネジャーを務め、スタートアップDEI推進協議会でも活動。世界経済フォーラムのGlobal Shapers、日本版JWLIフェロー、Vital Voices Global Fellowship(2024)など、国内外のリーダーシップネットワークにも参画している。
2025年11月17日開催のディープテック・スタートアップエコシステムのカンファレンス「ASCII STARTUP TechDay 2025」、14時45分開始セッション「ディープテック・スタートアップに必要なビジネスサイドの構築 〜創業経営者、人材流動化はできるか?~」にて、An-Nahalの品川優氏にはモデレーターとして、また人と人をつなぐコミュニティー、エコシステムについてお話いただきます。無料参加チケットは以下からお申し込みください。
「ASCII STARTUP TechDay 2025」開催概要
▼ 参加方法:事前登録制(下記よりお申し込みください)▼
チケット申し込みサイト(peatix)
【開催日時】2025年11月17日(月) 13:00~18:00
【会場】浅草橋ヒューリックホール&カンファレンス
【主催】ASCII STARTUP(株式会社角川アスキー総合研究所)
【入場方法】事前登録制(入場無料)
18:00~ アフターパーティーチケット(有料)
【協賛】MASP(Michinoku Academia Startup Platform)
【協力】インクルージョン・ジャパン株式会社、関西スタートアップアカデミア・コアリション(KSAC)、一般社団法人スタートアップエコシステム協会、東京大学協創プラットフォーム開発株式会社(東大IPC)、東北大学、フランス貿易投資庁-ビジネスフランス(Business France)、Beyond Next Ventures株式会社、CIC、HSFC<エイチフォース>北海道未来創造スタートアップ育成相互支援ネットワーク、Incubate Fund、Monozukuri Ventures、Peatix Japan株式会社、Platform for All Regions of Kyushu & Okinawa for Startup-ecosystem(PARKS)、QBキャピタル合同会社 TECH HUB YOKOHAMA(横浜市)、Untrod Capital Japan株式会社
【公式サイト】https://jid-ascii.com/techday/
※企業のブース出展は公式サイトからお申込みいただけます。(先着30社)
































