メルマガはこちらから

PAGE
TOP

「研究者だけじゃ成功しない」ディープテックに必要なビジネス人材とは

ASCII STARTUP TechDay2025事前インタビュー:株式会社ケイエスピー 窪田規一氏

連載
ASCII STARTUP TechDay 2025

 長く課題となってきた、ディープテックや大学発スタートアップの経営体制。研究者が自ら創業者になるのか、それとも外部から経営人材を呼ぶのか――。「ASCII STARTUP TechDay 2025」では、人材をテーマにしたセッション「ディープテック・スタートアップに必要なビジネスサイドの構築〜創業経営者、人材流動化はできるか?~」を実施する。今回は、登壇者のひとり、株式会社ケイエスピー 代表取締役社長の窪田規一氏に、事前打ち合わせを兼ねてお話を伺った。

――まずは、普段取り組まれていることを教えてください。

 私は今、JSTの「大学発新産業創出基金」というディープテック向けの大型基金事業のディレクターを務めています。これまでの大学発スタートアップ支援は「とにかく会社を作る」ことを目的化してしまっていました。しかし会社の数を増やすことだけでは意味はない。重要なのは「質」です。起業したその日からブーストをかけられる会社をつくる。そのために研究者と経営人材を早い段階でカップリングさせる仕組みを導入して事業化を進めています。従来とは一線を画すプログラムでは無いかと思います。

――今回のセッションテーマは「研究者と経営人材の関係性」ですね。

 実際には、大学の研究者が社長を務めると失敗することが多いのが実態です。私自身、何百人と関わってきていますが9割方は失敗している。残念ながら日本の研究者は経営のトレーニングを受けていません。一方、アメリカではPhDとMBAを両方持つ人が珍しくなく、さらに座学にとどまらず実際に事業に結びつける経験を積んでいます。この差は大きい。だからこそ日本では、研究者と経営人材を組ませることが不可欠です。とはいえ、その相性は恋愛に似ています。最初は盛り上がっても、途中で方向性がズレると空中分解してしまいます。

――JSTのプログラムでは具体的にどのような取り組みが進んでいるのでしょうか。

 JSTには大きく3つの柱があります。ひとつは「スタートアップ・エコシステム共創プログラム(スタエコ)」、地域(9プラットフォーム)ごとに起業環境を整えるもの。次に「早暁(そうぎょう)」という事業化人材の育成プログラム。技術を持たないが「こういうことをやりたい」という人を起業家候補として育てます。そして更に一歩進めた成功事例を創出させることを目的とした「D-Global」です。「D-Global」では研究者・事業化推進機関(プランナー)・経営者候補の3者をカップリングし、3年間で会社を創業する。支援額は基本3億円から最大5億円。従来の一桁上の規模で、ユニコーンどころか時価総額100億ドルを目指す会社を生み出そうという仕組みです。

――TechDayに来場されるASCII STARTUPの読者は、スタートアップ関係者だけでなく、大企業の事業部などの方もいらっしゃいます。彼らが関わるとしたらどんな参画の仕方があるのでしょうか。

 大企業の方には事業化推進機関(プランナー)として関わることができます。事業化推進機関(プランナー)とは、事業化を推進する役割を担う人材やチームのことです。ベンチャーキャピタルやCVC、企業の研究者や企画部門の人、さらには経験豊富なメンターも含まれます。実際にビジネスプランを作り、ビジネスモデルにまで落とし込む。その伴走ができる人材がディープテックには決定的に不足しています。だからこそ大企業で新規事業を経験してきた方が入ると大きな力になると思います。

――経営人材のマッチングはやはり難しい部分でしょうか。

 ええ、極めて難しいですね。日本の場合、研究者は「先生」と呼ばれて権威的な立場になってしまう。社長候補が対等に意見を言えず、最初はうまくいっていても、いざ方向がズレると「俺の研究はこうじゃない」と口出しして崩壊することが少なからずある。だからこそ、研究者と経営人材が胸襟を開いて本音で意見交換できる環境をいかにつくるか。そこに失敗すれば、どんなに技術が優れていても会社は回りません。

 それはまさに結婚と同じです。良いところだけを見ていては長続きしない。相手の弱さやクセも理解して受け入れられる関係であれば、一緒に長く走れる。経営者と研究者の関係も同じで、信頼がなければ続かないのです。

――先ほど「9割方は失敗する」とのお話でしたが、失敗から得ることもありそうです。

 私も過去に20億を溶かして会社を閉じたことがあります(笑)。日本では一度会社を潰すと再挑戦が難しいのが現実です。ベンチャーキャピタルから出資を受けても「過去に潰した社長だ」と分かった瞬間に投資がキャンセルされる。これはおかしい。失敗から学んで再挑戦できる環境がなければ、挑戦する人は増えません。だからこそ国が最大5億円を出すようなプログラムを整備し、背中を押す必要があるのです。

――海外との比較ではどうでしょう。

 アメリカ流をそのまま真似ても日本には適合しません。シリコンバレーに何万人も日本人が行きましたが、日本に同じものはできなかった。むしろ参考になるのはシンガポールです。小国ながら資源がないからこそ、人材育成を国家戦略として徹底し、一定の経験値を積ませてから送り出す。私は「社会資本主義」と呼んでいますが、日本人にはこちらの方が合っているのではないかと考えています。国が方向性を示し、その枠の中で民間が工夫して成果を出す。この仕組みが日本の強みを発揮するために必要だと思います。

 ある意味、半導体業界が象徴的です。国家戦略として明確な方向性を示して世界シェアの9割を握っていたのに、ある時期から明確な国家戦略が不明瞭になった途端にアメリカや韓国、中国に追い抜かれてしまった。明確な方向性が曖昧なままでは、せっかくの技術も霧散してしまうのです。

――最後に、当日のセッションに向けてメッセージをお願いします。

 理路整然としたフォーラム的にきれいごとを並べても面白くない。セッションでは本音で話しますし、セッション後やアフターパーティーもあると聞いていますから、ぜひそこで直接ディスカッションしましょう。技術分野において日本は世界に負けていません。足りないのは人材と組み合わせ、事業化への道筋です。仕事も人生も、面白くなければ意味がない。どうせなら面白いことを一緒にやりましょう。

窪田 規一(クボタ・キイチ)氏
株式会社ケイエスピー 代表取締役社長。1976年早稲田大学卒業後、米国で研究員として従事。2006年にペプチドリーム株式会社を創業し、代表取締役社長、会長を歴任。2019年には知財功労賞「経済産業大臣賞」、EY Entrepreneur Of The Year Japan優勝など多数の受賞歴を持つ。現在は、JSTの複数プログラムでディープテック・スタートアップ支援を統括。

 2025年11月17日開催のディープテック・スタートアップエコシステムのカンファレンス「ASCII STARTUP TechDay 2025」、14時45分開始セッション「ディープテック・スタートアップに必要なビジネスサイドの構築 〜創業経営者、人材流動化はできるか?~」にて、ケイエスピーの窪田規一氏には自身もシリアルアントレプレナーとして、またディープテック・スタートアップを支援する現在についてお話いただきます。無料参加チケットは以下からお申し込みください。

 「ASCII STARTUP TechDay 2025」開催概要

▼ 参加方法:事前登録制(下記よりお申し込みください)▼
チケット申し込みサイト(peatix)

 【開催日時】2025年11月17日(月) 13:00~18:00
 【会場】浅草橋ヒューリックホール&カンファレンス
 【主催】ASCII STARTUP(株式会社角川アスキー総合研究所)
 【入場方法】事前登録制(入場無料)
       18:00~ アフターパーティーチケット(有料)
 【協賛】MASP(Michinoku Academia Startup Platform)
 【協力】インクルージョン・ジャパン株式会社、関西スタートアップアカデミア・コアリション(KSAC)、一般社団法人スタートアップエコシステム協会、東京大学協創プラットフォーム開発株式会社(東大IPC)、東北大学、フランス貿易投資庁-ビジネスフランス(Business France)、Beyond Next Ventures株式会社、CIC、HSFC<エイチフォース>北海道未来創造スタートアップ育成相互支援ネットワーク、Incubate Fund、Monozukuri Ventures、Peatix Japan株式会社、Platform for All Regions of Kyushu & Okinawa for Startup-ecosystem(PARKS)、QBキャピタル合同会社 TECH HUB YOKOHAMA(横浜市)、Untrod Capital Japan株式会社
 【公式サイト】https://jid-ascii.com/techday/

 ※企業のブース出展は公式サイトからお申込みいただけます。(先着30社)

合わせて読みたい編集者オススメ記事

バックナンバー