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「ノンエンジニアにもすそ野を広げたい」 UnityとPLATEAUが目指す次のステージとは

SDK提供で開発ハードルを引き下げたUnity、次は「AIコーディング」「自治体テンプレート」?

特集
Project PLATEAU by MLIT

提供: ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン

 都市デジタルツインの実現を目指し、国土交通省がさまざまなプレイヤーと連携して推進する「Project PLATEAU(プロジェクト・プラトー)」。今年度もPLATEAUを活用したサービス/アプリ/コンテンツ作品コンテスト「PLATEAU AWARD 2025」において、幅広い作品を募集している。賞金総額は200万円となっている。

 本特集ではPLATEAU AWARD 2025の協賛社とともに、PLATEAUに携わる人々が、その先にどんな未来を思い描いているのかを探っていく。

 PLATEAUのエコシステムを盛り上げていくためには、PLATEAUデータを使って新しい価値を生み出すサービス/アプリの開発者が増えていく必要がある。ゲームやインタラクティブな体験の構築と成長のためのプラットフォーム「Unity」を提供するユニティ・テクノロジーズ・ジャパンでは、開発者向けツールキット/SDK「PLATEAU SDK-Toolkits for Unity」(開発元:シナスタジア)の提供などを通じて、PLATEAUアプリ開発におけるハードルを取り除く取り組みを行ってきた。

 さらに開発のすそ野を広げていくために、どんなことを考えているのか。今回は、ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンで産業ソリューションに携わる高橋忍氏と、国土交通省 都市局でProject PLATEAUのプロジェクト・ディレクターを務める十川優香氏に、そのビジョンを聞いた。聞き手は角川アスキー総合研究所の遠藤諭だ。

ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン 産業営業本部 シニア ソリューション エンジニアの高橋忍氏、国土交通省 都市局 国際・デジタル政策課 企画専門官/Project PLATEAU プロジェクト・ディレクターの十川(そがわ)優香氏

東大工学部でPLATEAUの特別授業を開講、AIコーディングで学生も「手応え」

――(アスキー遠藤)東京大学でPLATEAUを使った授業をされているとうかがいました。そもそもこれはどんな授業なのですか。

国交省 十川氏:まずは、この授業の背景を簡単にご説明しますね。

 東京大学の工学部では、実践的活動を重視した「創造的ものづくりプロジェクト」という枠組みで、複数の体験型授業が展開されています。座学だけでなく、実際に手を動かしながら学ぶ点が特徴で、プロジェクトによっては「学生ロボコン」や「学生フォーミュラ」「人狼知能国際大会」といったコンテストへの出場が最終目標になっています。

 この創造的ものづくりプロジェクトの1つとして、2023年度から国土交通省 都市局が「都市デジタルツイン応用プロジェクト」という授業を行っています。こちらでも最終目標には「PLATEAU AWARDへの作品応募」を掲げつつ、半年間、全13回の授業を通じて、PLATEAUの基礎技術から、3D都市モデルを活用したアプリ開発までを学ぶものになっています。

 この授業の中で、ゲームエンジンの活用方法を学ぶ回があり、企業向けに技術啓蒙を行っている高橋さんに初年度からご担当いただいています。

――具体的にはどんな授業をされたのでしょうか。

Unity 高橋氏:まずは「ゲームエンジンとは」という説明から始まり、産業分野での活用事例の紹介、そして実際にUnityに触りながら基礎技術を理解していく、といった構成です。今年度は特に、Unityに触る部分で「ChatGPT」にアプリ開発を支援してもらう内容としました。

 昨年(2024年度)も授業を担当させてもらったのですが、そのときはほぼ座学になってしまい、Unityに触る時間がとれませんでした。それがとても残念だったので、今年はぜひ、簡単なアプリ開発までやってもらいたいと考えていました。ただ、僕が書いたコードを学生がなぞるだけだとつまらないですよね。そこで、ChatGPTにコーディングを手伝ってもらうことにしました。

――なるほど。最近はAIコーディングが劇的に進化してますからね。

Unity 高橋氏:そうなんです。だから、AIを使わない手はないなと。

 具体的には、PLATEAU SDK(PLATEAU SDK-Toolkits for Unity)でUnityにPLATEAUデータを取り込んだら、学生がそれぞれやりたい機能をChatGPTに伝える。そして、出てきたソースコードをUnityにコピペ(コピー&ペースト)して動かしてみる。そういう流れでした。

 実際にやってみると、コードのエラーが出たり、やりたかったこととは違うコードが出てきたりもしたのですが、要は「AIを使えば誰でも、Unityの知識やプログラミングのスキルがなくてもアプリが作れる」ことを体感してほしかったのです。

東大工学部での特別授業で使われた資料

――座学よりも、実際に触れてみるほうが楽しいですよね。受講した学生の反応はいかがでしたか。

十川氏:授業への感想をアンケートしたのですが、「デジタルツインが社会や産業に役立っていることがイメージできて、とてもわかりやすかった」という声が多かったです。やはり、ゲームエンジンを使ったデジタルツインの構築、3次元シミュレーションというテーマが、学生さんにもなじみやすかったのではないかと感じています。

 全13回の授業では、ゲームエンジン以外にも「ArcGIS」やWebGISといったツールも教えています。ただ、授業の最終回で各学生チームに作品発表をしてもらったところ、半分程度のチームが“Unity+PLATEAU SDK”環境で開発していました。

 授業は工学部の学生が中心なので、普段からコーディングやゲームエンジンに慣れているわけではありません。それが、AIのおかげで、実際に手を動かしてやってみやすくなりました。これをきっかけに、PLATEAUのアプリ開発に関心を持つ学生の方も増えるのではないでしょうか。

――Unityを使ったことがない学生でも、1回の授業の中でアプリを動かすところまで進めるのは、かなりすごいことですよね。

高橋氏:昨年、シナスタジアさんとわれわれで開発したPLATEAU SDKをリリースしたことで、PLATEAUの3D都市モデルをUnityに取り込む作業は、とても簡単になりました。

 ただし、そこから先のアプリ開発には、まだUnityの知識やプログラミングのスキルが必要で、ハードルがあったのは事実です。その一方で、すでにスキルがある人も「自分が作れる範囲のものしかイメージしない」というバイアスがかかりがちでした。

 ここにAIの支援が入ることで、自分ができる/できないではなく、まずは「こういうものが作りたい」というところからイメージが広げられるようになってくるのだと思います。

テンプレートの公開を通じて、新たな分野での活用イメージを広げる

――テクノロジーが作る人の想像力を邪魔しないようにする、というのは大事なポイントです。

高橋氏:はい。そもそもPLATEAUのデータセットがあること自体も、すごく大事だと思っています。

 Unityが手元にあっても、何もないところから「3Dのアプリを作ってください」と言われると、やはり厳しいでしょう。一方で、UnityとPLATEAU SDKを使えば、実在する街のデータを取り込んで、その空間がパッと再現できます。新宿でも大阪でもいいので、ひとまずUnityに読み込んで、その空間に入ってしまう。そうすることで想像力が刺激され、いろいろなアイデアが思い浮かぶようになります。

PLATEAU SDKを使えば、3D都市モデルを簡単にUnityへ取り込むことができる

――特に初心者だと、ゼロの状態から何を作っていいのか思いつかない。やる気はあったのに、それがきっかけで挫折してしまうかもしれないですね。

高橋氏:実は、もともとUnityでも、初めて使うユーザーに対しては「なるべく早く、完成品に近い世界を体験してもらう」というアプローチをとっています。

 Unityで新しくプロジェクトを作成するための「Unity Hub」というツールがあるのですが、この中に“半完成品”の「サンプル」や「テンプレート」がたくさん用意されているんです。Unity初心者の方でも、テンプレートをダウンロードして実行すれば、いきなりその世界に入れて、Unityでどんなことができるかも理解できる仕組みです。

Unity Hubでは、さまざまな「サンプル」や「テンプレート」があらかじめ用意されている

――何ページもあるドキュメントを読むよりも、まずはサンプルを体験してみるほうが、直感的に理解しやすくてアイデアもふくらみそうです。

高橋氏:最近では、産業分野のデジタルツインでUnityを使っていただくケースも増えているのですが、まだまだ「産業分野で何ができるのか」がイメージできない方も多くいらっしゃいます。

 そこで、Unityジャパンチームでは「Unity3D.jp」というサイトを立ち上げて、産業分野向けのデモプロジェクトを作って公開しています。このビデオのように、工場や倉庫などを3Dモデル化したものですね。

 

――ほーっ、かなり作り込まれたサンプルですね!

高橋氏:このデモプロジェクトのソースコードは、Unityのサイトですべて公開しています。ですので、これをUnityにダウンロードすれば、すぐに工場や倉庫の中を歩き回ることができます。

 たとえば産業分野で物流倉庫のデジタルツインを作りたい、何かシミュレーションをしたいといったときに、これを実行していただければ簡単にイメージできるでしょうし、上司に「こういうものを作りたい」とアピールすることもできます。ご自分で作るときに、中にあるパーツをバラバラにして使っていただいても大丈夫です。

これからどんな開発者に出会いたいか、どんな作品に出会いたいか

――Project PLATEAUでは、当初から「開発者の育成」がひとつの目標だったと思います。十川さん、6年目を迎えて、あらためてどのようなアプローチを考えていますか。

十川氏:PLATEAUコミュニティもかなりすそ野が広がってきましたが、これから目指したいのは、高校生や高専生、大学生といった、若い方にも使っていただくことです。東大での授業もその一環ですが、年齢層をより若くしていきたいというのがひとつ。

 もうひとつは“ノンエンジニア”の方を巻き込んでいくことですね。たとえば自治体職員の方は、これからPLATEAUのメインユーザーになってくると思います。しかし、3D都市モデルを使ったシミュレーション、可視化などは、まだ「難しい作業」だと捉えられているのではないでしょうか。

 ただ、今回ご紹介いただいたUnityをはじめ、PLATEAU関連のツールは年々使いやすくなっています。実は、専門家にアウトソーシングしなくても、自分で手を動かしてシミュレーションや可視化ができる。そこに気づいていただけたら、自治体の業務変革も一気に進むのではないかと考えています。

 やはり、業務課題に対して問題意識を持つ当事者、つまり職員の方自身が、解決に向けたアクションを取れるというのが理想だと思います。

――そうした作業をいちいち外部に発注するとなると時間もかかりますし、自治体の意思決定スピードにも大きく影響しますよね。“ノンエンジニア向けPLATEAUハッカソン”なんてイベントもあると面白そうです。

高橋氏:PLATEAUやUnityの開発者には、高いスキルを持つ“スーパーエンジニア”もいらっしゃるじゃないですか。そういう方と自治体職員の方がチームを組んで、自治体の業務課題を解決していくようなイベントなどもありうるでしょうね。

 先ほど産業向けテンプレートのお話をしましたが、同じように「自治体向けテンプレート」を用意するのも効果的かもしれません。災害対策や人流など、自治体にも典型的なユースケースはいくつかありそうですから、自治体の方とそうしたディスカッションができればいいなと思います。

十川氏:テンプレートを用意する、というアイデアはいいですね。ノンエンジニアの方にPLATEAUの技術研修をする機会があるのですが、たいていは時間が足らず、ごく初歩的な内容で終わってしまいます。短時間の研修でも「実務で役立ちそう」という手応えが得られるように、テンプレートを用意するのはとてもいいと思いました。

 テンプレートの展開以外でも、エンジニアもノンエンジニアも含めて、利用者の皆さんが“第一歩を踏み出す”のを促していくことが、われわれがとるべき次のアクションかなと考えています。

――最後に、これからPLATEAU AWARDでどんな作品に出会いたいか、それぞれメッセージをいただけますか。

十川氏:PLATEAU AWARDも回を重ね、作品の応募分野にある程度“トレンド”が見られるようになってきたと感じています。そうしたトレンドをいい意味で裏切るような、新しい分野での利活用方法が見られたらうれしいですね。

 それから、「こんなものがあったらいいな」というイメージを形にするだけではなく、「もう現実に使っています」といったリアルな活用事例も大歓迎です。「現場の業務改善にPLATEAUを使って、こんな成果が出ました」というお話はぜひ聞きたいです。

 PLATEAU AWARDは、われわれにとってもPLATEAUというオープンデータがどのように使われているのかを知る貴重な機会ですので、皆さんのご応募をとても楽しみにしています。

高橋氏:わたしからPLATEAUやUnityのベテラン勢の方にぜひお願いしたいのが、みんなが使えるようなコンポーネントの開発ですね。「マップ上で棒グラフをアニメーション表示できる」でも「音楽にあわせて都市の色が変わる」でも何でもいいのですが、アプリ開発をする際に機能部品として組み込めるようなもの。

 そういうものが提供されることで、開発される作品全体のクオリティが底上げされますし、「自分もやってみよう」と思う方が増えるかもしれません。ベテラン勢の方には、ぜひそれにチャレンジしていただきたいです。……もっとも、それでAWARDを受賞できるかどうかはまた別の話なのですが(笑)。

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