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問いと熱狂の決起集会 東北の未来を担う挑戦者が仙台に集結した「ATERUI 2025」

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 東北地方の未来を担う跡継ぎとベンチャー起業家、その支援機関や地域企業が一堂に会する東北最大級のビジネスカンファレンス「ATERUI 2025」が、2025年9月26日(金)に仙台市にて開催された。

スパークル株式会社 代表取締役 福留秀基氏

 イベントタイトル「ATERUI」は、平安時代初期に大和朝廷の侵攻から故郷と民を守るために立ち向かった東北地方の英雄、阿弖流爲(アテルイ)の名に由来する。さらに家業を続ける跡継ぎを「張力を生み出す弦」に、新しい技術で市場を切り拓くスタートアップを「勢いを生み出す矢」になぞらえている。「ATotsugi and Entrepreneurs' Regional Unity and Innovation」(跡継ぎと起業家の地域における結束と革新)という意味が込められ、東北の未来や起業に関するトークセッション、跡継ぎと起業家によるピッチ、スタートアップや地域企業による展示や交流ブースが展開された。

それは人類規模の課題か?

「東北発「ディープテック」の可能性– 研究シーズの事業化と成長戦略」と題されたディープテックセッションには、ElevationSpace代表取締役CEOの小林稜平氏、東北大学病院の中川敦寛教授、東北大学ベンチャーパートナーズの長浜勉氏、東北大学スタートアップ事業化センターの髙橋秀志特任教授が登壇し、東日本旅客鉄道の天内義也氏のモデレータのもと展開され、東北の大学における最先端研究をいかにビジネスとして成長させるか、その戦略や実践的な知見が共有された。

 ElevationSpaceの小林氏は、自身が学生時代に創業した経験を語り、人生をかけてやり抜くというファウンダーの「パッション」と「熱」が最も重要であると述べた。同社は、燃え尽きずに狙った場所に制御しながら地球に帰還できる人工衛星を開発しており、将来的には「日本発で人が乗る有人宇宙機を作りたい」という大きなビジョンを掲げている。

 東北大学の中川氏は、大学側がビジネスのプロではないことも多いため、その技術が「人類の課題解決」に資するものか、あるいは「お金を出す価値」があるかを診断し、適切な専門家やネットワーク(カタリスト)を使い、課題解決を支援する重要性を説いた。東北大学ベンチャーパートナーズの長浜氏も、大学発ベンチャーにおいて、技術の専門家である先生と、会社を伸ばせる経営の専門家をいかにマッチングさせるかが重要であると指摘した。

持続可能なビジネスとして挑戦する社会起業家

 社会企業をテーマにしたセッション「「社会起業家の聖地」東北は何を目指すべきなのか。地域での起業の本質を考える」では、仙台市経済局の白川裕也氏、IMPACT Foundation Japanの竹川隆司氏、OWB株式会社の和田智行氏、KIBOW社会投資ファンドの山中礼二氏、スパークル株式会社の下里健二氏が登壇した。東日本大震災から15年、震災で顕在化した課題と、解決のために立ち上がった起業家が東北に現れたことから、社会起業家の聖地とされる東北。本セッションでは社会起業家を、社会課題の解決を存在の第一の目的とし、それを寄付などではなくビジネスとして持続可能にしようと挑戦する人たちであるとした。

 仙台市職員の白川氏は、高齢化や人口減少といった課題が全国に先行して存在するため、それを解決しようと動く人たちを応援する「ソーシャルイノベーターの聖地」になりたいというのが仙台としての姿勢であると述べた。

 OWBの和田氏は、東北の強みは「このままじゃやばいぞ」という全国トップクラスの危機感であり、この危機感があるからこそ打席に立って「バットを振る」挑戦者が多い点にあるとした。和田氏の会社は、住民がゼロになった福島県南相馬市小高区において、100の課題から100のビジネスを創出することをミッションとし、既に30の事業を継続させている。

問いと熱狂を取り戻す「将来之東北」

 イベントの最後には、「将来之東北」と題したクロージングセッションが開催され、スパークル株式会社代表取締役の福留秀基氏と秋田県大館市長の石田健佑氏が登壇し、地域の未来に向けたビジョンが共有された。福留氏はこのイベントを、かつて「従わない人たち」を意味した「まつろわぬ民」と呼ばれた東北人が、自分たちの「問いと熱狂」を取り戻すための「決起集会」であると総括した。言葉だけでなく、主催者側だけでなく、この日に集まった来場者からも熱意を感じた。

秋田県大館市長 石田健佑氏

 全国最年少の27歳で当選した大館市長である石田氏は自身も起業家で、秋田で2回目の起業をする際、祖父母が先祖代々の土地を売って資金を工面してくれたという背景からこの地を存続させていきたいと、経済と政治行政の両輪で地域を変えるために市長に就任したと語った。石田氏は、日本の人口が減る中、東北の経済は東京ではなく「東北から世界へ」と目を向け、若者が残る地域にし、眠る資源や文化を打ち出していくべきだと主張した。

 最後に福留氏は、このセッションの題となっている120年ほど前に書かれた衆議院議員の半谷清壽氏の著書『将来之東北』を現代に復刻するためのクラウドファンディングを立ち上げると発表し、イベントの幕を閉じた。

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