マツダの200台限定車である「MAZDA SPIRIT RACING ROADSTER 12R(マツダ・スピリット・レーシング・イチニー・アール)」が、ソニーのリアルドライビングシミュレーター「グランツーリスモ7」に9月25日のアップデートで追加されました。それに合わせてメディア向けの試乗会(?)が実施されたので、どのようなクルマなのか? そして、走らせたフィーリングなどをレポートします。
200馬力の2Lエンジンを搭載する200台の限定車
PlayStation 5/PlayStation 4(以下PS5/PS4)用ソフトウェア・グランツーリスモ7のアップデートにあわせて、マツダの新型モデルであるMAZDA SPIRIT RACING ROADSTER 12Rが、ゲーム内に追加されました。車両は、ゲーム内のブランドセントラルで、1200万クレジットにて販売されます。
では、MAZDA SPIRIT RACING ROADSTER 12Rは、どのようなクルマなのでしょうか? その答えは、今年1月の東京オートサロンで発表された「ロードスター」の“特別”な派生モデルです。
特別の理由のひとつが「MAZDA SPIRIT RACING」という名前にあります。「MAZDA SPIRIT RACING」は、レース活動やグッズ販売などを行なうマツダのサブブランドです。そのサブブランドから発売されるというのが、特別な点のひとつになります。
そして次の理由は、その性能にあります。MAZDA SPIRIT RACING ROADSTER 12Rは、幌のオープンカーですが、エンジンに200馬力にチューニングされた2L版を搭載しています。
これまでの「ロードスター」の日本向け仕様は、幌車が136馬力の1.5Lエンジンを、リトラクタブルハードトップの「RF」が184馬力の2Lエンジンを搭載します。つまり、200馬力のMAZDA SPIRIT RACING ROADSTER 12Rは、ロードスターシリーズ中、最も高性能なエンジンを積んでいるのです。また、内外装も特別な専用品となります。
そして最後の特別な理由が、限定200台という希少さにあります。価格は700万円台後半。高性能というだけでなく、希少で特別な1台。秋頃に予約が始まり、年内発売を予定します。
ちなみに、同じタイミングでMAZDA SPIRIT RACING ROADSTER 12Rよりも、もう少し“特別”さを落とした量産モデルも用意されます。そちらも価格は500万円台と十分にプレミアムな存在と言えるでしょう。
そんな希少で特別なモデルですから、実車のハンドルを握れるのは、ごくわずかな人に限られます。そこでマツダは「その走りや魅力を、より多くのお客様に体感していただきたいという想いから収録を決定しました」とマツダのブランド体験ビジネス企画部の林 涼太さんは説明します。
マツダとグランツーリスモの関わり
リアルドライビングシミュレーターのグランツーリスモは、シリーズ当初から世界中の自動車メーカーの量産車を操ることができるのが特徴です。当然、マツダのクルマも数多く採用されています。最近で言えば、2014年の「VISION LM55」や2020年の「RX-VISION GT3」、2021年の「RX-VISION」などのコンセプトカーもゲーム内に登場しています。グランツーリスモ7では、パッケージデザインに「RX-VISION GT3」が採用されています。
一方で、マツダもeスポーツに力を入れており、2022年から毎年秋ごろにグランツーリスモ7内で、独自のオンライン大会「MAZDA SPIRIT RACING GT CUP」を開催しています。この大会のユニークな点は、上位入賞者をリアルなサーキット走行に招待することです。
「特に我々のような若い世代って、そもそもクルマを持っていることが結構レアで。しかも、モータースポーツとなるとお金もかかるし、クルマも壊れるかもしれない、ケガをするかもしれません。そうすると、モータースポーツをやる人がどんどんいなくなってしまいます。でも、ゲームだったら、事故っても失うものはないし、家で5分くらい走ろうかなんて気楽にできます」と林さん。ゲームを入口にすることで、実車やモータースポーツへの興味を高め、参加する人を増やすことを目指しているというのです。
実車の開発者も監修したリアルな動き
今回のグランツーリスモ7へのMAZDA SPIRIT RACING ROADSTER 12R追加に関しては、マツダの協力もあり、事前にマツダの実車開発陣がゲームの内容をチェックしています。「実車に限りなく近い体験をお届けするため」(林さん)に、12Rに携わった開発ドライバーなどが、ポリフォニー・デジタルのスタジオで試乗して、ブレーキング性能やタイヤのグリップ、カーブでのロール、ハンドルに伝わる衝撃などを確認したというのです。
「あまり大きな変更はありませんでしたが、ブレーキのフィーリングについての調整指示や、トルクカーブの特定回転数付近の微調整依頼などがありました」と林さん。
ちなみに、内外装のスキャニングは、横浜にあるマツダR&Dセンターで行なわれ、エンジンサウンドの録音は広島本社にある無響音室で実施されたというこだわりようです。
12R試乗! パワフルだけど落ち着きある挙動
そんな取材会でのメインはグランツーリスモ7におけるMAZDA SPIRIT RACING ROADSTER 12Rの試乗でした。東京都内にあるポリフォニー・デジタル社内にあるイベント用スペースに並んだグランツーリスモ7用筐体で、正式リリース前の「MAZDA SPIRIT RACING ROADSTER 12R」のハンドルを握りました。
シートに座れば、MAZDA SPIRIT RACING ROADSTER 12R専用の真ん中に赤い印のあるステアリングが目に入ります。通常のロードスターとは異なる、スペシャルな内装の再現にテンションもあがります。
走らせてみた印象は「相当に速い!」ということです。比較に1.5Lの「ロードスター NR-A」も走らせてみましたが、加速とストレートの速度の乗りが、1枚も2枚も上。筑波サーキットでいえば、裏ストレートで160km/hを軽々と上回ってしまうのです。ロードスターではなく、完全に、もっと上のクラスのスポーツカーのようなパワーです。
また、サスペンションも強化されており、ピッチングもロールも各段と減っています。パワーに見合うよう、足回りもしっかりと調整されていることが実感できました。
試乗はゲーム内でしたが、その挙動は非常にリアルなものでした。個人的にゲーム機は持っていませんが、現在のゲームのレベルであれば、サーキット走行の練習になることも理解できました。モータースポーツの参戦経験はありますが、これからはeスポーツにもトライしてみたくなる試乗となったのです。
筆者紹介:鈴木ケンイチ
1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。
最近は新技術や環境関係に注目。年間3~4回の海外モーターショー取材を実施。毎月1回のSA/PAの食べ歩き取材を10年ほど継続中。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 自動車技術会会員 環境社会検定試験(ECO検定)。


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