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なぜ“挑戦の火”は学校で消えるのか? 鍵は「異業種交流」。子どもの挑戦心を止めない“着火法”

400名超の教員にプログラムを届けたアントレ教育ラボ 池田巧氏に聞く

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なぜ学校の中だけでは、挑戦する文化が育たないのか

――アントレ教員ラボの活動が目指す、理想の人材像について教えてください。

池田:自らに内在しているアントレプレナーシップに気づき、教育現場で新たな価値を創造する教員や学生〈エデュプレナー〉」を育成することです。エデュプレナーとは「エデュケーター〈教育者〉 と アントレプレナー〈起業家〉を組み合わせた造語」で、私たちが育成を目指す人材像を示しています。

 その人材がもつべきコアスキルとして、「教育の現場で新たな価値を提案・実装する力」や「既存の仕組みにとらわれず、課題を問い直す力」を育むことを目指しています。

石井:ビジネスサイドの方と触れ合う「越境」の経験は、先生方にどのような効果がありましたか。

池田:一番大きなリターンは、行動のサイクルが速くなること、そして「失敗は成功の確率を上げる学びだ」というマインドセットに変わることです。それがあるだけで、先生方が学校現場で挑戦するプログラムのスピード感が格段に上がります。

 たとえ失敗しても、「これを改善すれば次はうまくいく」と前向きに捉え、生徒にもそう伝えられるようになる。この、失敗を許容し、次に活かすという価値観は、学校の中だけで研修を重ねてもなかなか浸透しないものだと感じています。

石井:非常に共感します。私自身、教員からキャリアを変えた経験から、昔の自分と今とで何が違うかと問われると、まさに池田先生がおっしゃった点だと感じます。行動のサイクルは明らかに速くなりましたし、何より「失敗」を失敗と捉えなくなりました。単なるフィードバックとして次に活かすだけ、という感覚です。もちろん、このマインドをそのまま学校現場に持ち込んでもうまくいきませんが……。実際、挑戦を続ける中で、学校という組織の中で孤独を感じたり、困難に直面したりしたことはありませんでしたか。

池田:もちろんあります。典型的なのは、意気込んで起業家講演会を企画したときのことです。生徒や保護者も集まり、同僚の先生方にも声をかけ、「見に行くよ」と言ってもらえたのですが、当日、会場に先生の姿は一人もありませんでした。これが学校現場のリアルな姿で、一人ではなかなか輪が広がらない。ただ、そうした経験があっても諦めずに活動を続けることで、少しずつ理解者が増えてきたのも事実です。失敗してもやり続ける姿勢が、何より重要だと実感しています。

石井:そのエピソードは、まさに学校現場とビジネスサイドの文化の違いを象徴しているように感じます。その違いは、具体的にどのような点にあるとお考えですか?

池田:学校現場とビジネスサイドでは、求められる力や時間軸の捉え方が根本的に異なると感じています。学校は「年度」や「学期」といった一定の時間軸の中で、前例を踏まえながら漸進的に改善していく。一方でビジネス、特に新規事業は、市場やゴールから逆算し、短期的に大胆な意思決定を行いながら進めていく。この異業種のマインドを掛け合わせることで、先生方に挑戦する文化を根付かせて、越境によるリターンを最大化できると考えています。

石井:先生方に挑戦する文化を根付かせるうえで、一番の障壁は何だとお考えですか?

池田:新しい挑戦は、ときにネガティブに受け止められてしまいます。学校で新しい火を灯そうとすると、「仕事が増える」と水をかけられてしまい、すぐに火が消えてしまうのです。さらに、その火を一人の先生だけで守ろうとすると、風に吹かれてあっという間に消えてしまう危険があります。だからこそ、小さな炎をどう囲い、どう守り、どう育てるかが重要になります。

 また、多忙な先生方の背中を押す方法としては、やはり一度灯った火を消さないように、薪をくべ続けることが重要です。

 その薪となるのは、挑戦をシェアする場や、先生同士の「やってみよう」という声かけです。まだ法人としての正式なプログラムにはできていませんが、懇親会などのオフの時間に「あれからどう?」と声をかけあい、実践内容を共有することで、先生方の挑戦の火を灯し続けられるよう働きかけています。それが私の役割だと考えています。 先生方は多忙ですが、私自身もそうであるように、目の前の生徒が変わる姿を見ることが何よりの燃料になるのです。生徒の表情や価値観が変わり、成長してくれること。それこそが、私たちのモチベーションの源泉であり、そうした瞬間につなげていきたいと中長期的には考えています。

「変化の当事者」として、未来を切り拓く

――最後に、先生方、そしてこれからの時代を担う次世代へメッセージをお願いします。

池田:先生方、そしてこれからの時代を担う次世代の皆さんへ、私が最も伝えたいメッセージは、「変化の傍観者ではなく、当事者であれ」ということです。

 変化の当事者となるためには、知識を持つだけでなく、それを行動に移すことが不可欠です。単に「知っている人」で終わるのではなく、「行動できる人」になってほしい。その一つひとつの行動が、日本の価値を高め、教育をより良いものへと変え、次世代を育成することにつながります。未来は“誰かが創るもの”ではなく、あなたが“社会と共に創っていくもの”だと確信しています。

取材後記

 今回、池田先生にお話を伺い、元教員として「先生方はすでにアントレプレナーシップを実践している」という言葉に、深くうなずかずにいられなかったと石井氏。学校現場のリアルを知る池田先生が語るからこそ、その言葉には説得力があり、多忙な先生たちの挑戦の火を、誰もが暖まれる「焚き火」のようなものに変えていく力があると感じる。

 先生自身が「変化の当事者」となり、その背中を見せること。それが、生徒たちの挑戦心にも火をつけるのだろう。ビジネスサイドとの「越境的な対話」を通じて、学校現場に眠る可能性を引き出すこの取り組みは、教育の未来を切り拓く大きな可能性を秘めていると確信した。

 今後も本連載では、さまざまな「先輩」たちの声を通して、アントレプレナーシップ教育の本質を読み解いていく。

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