このページの本文へ

科学技術振興機構の広報誌「JSTnews」 第33回

【JSTnews9月号掲載】NEWS&TOPICS 戦略的創造研究推進事業ACT-X/研究領域「環境とバイオテクノロジー」/研究課題「機能性ナノカーボン材料の高効率生産を指向した生体触媒の創製」

「生体システムを用いた機能性分子創製」により昆虫の体内でナノカーボンを合成

2025年09月16日 12時00分更新

文● 中條将典

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 材料科学分野ではこれまで、従来の有機化学や酵素を用いた試験管内での合成法によって機能性分子を合成してきました。しかし、有用な分子の中にはこうした方法での合成が難しいものも存在します。理化学研究所の伊丹健一郎主任研究員、名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所の宇佐見享嗣特任助教らの研究チームは、昆虫が持つ異物代謝の仕組みを利用して、その体内で機能性ナノカーボンを合成させることに初めて成功しました。

 研究チームは「メチレン架橋[6]シクロパラフェニレン([6]MCPP)」というベルト状ナノカーボンを人工飼料に混ぜて、農業害虫として知られるガの一種であるハスモンヨトウの幼虫に経口投与。2日後にこの幼虫の排せつ物から、[6]MCPPに酸素原子が導入された[6]MCPP-オキシレンを抽出・精製しました。この合成物は[6]MCPPにはなかった蛍光特性を獲得していました。

 同チームはさらに、[6]MCPPを食べた幼虫の腸に対するRNA解析や、大腸菌を用いた異物代謝試験などを実施し、反応メカニズムを調べました。その結果、シトクロームP450という代謝酵素が[6]MCPPの酸素原子導入に関与していることがわかりました。また、酸素原子は特定の環サイズのナノカーボンだけに導入されていました。

 今回の昆虫内ナノカーボン合成の反応メカニズムは、前例がなく革新的です。これを足がかりとして、材料科学に「生体システムを用いた機能性分子創製」という新しい方法論を提唱するものです。

インゲン豆と寒天に分子ナノカーボン[6]MCPPを混ぜた人工飼料をハスモンヨトウの幼虫に食べさせ、2日後、幼虫の排せつ物から、[6]MCPPに酸素原子が導入された[6]MCPP-オキシレンを得ることに成功した。

カテゴリートップへ

本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります

この連載の記事

アクセスランキング

  1. 1位

    TECH

    ホワイトハッカーの卵たちが“OTセキュリティ”を通して育む、これからのセキュリティ意識

  2. 2位

    TECH

    量子力学に強く惹かれ、量子ビットの高性能化に一貫して取り組む

  3. 3位

    ITトピック

    AI時代の高スキルIT技術者“争奪戦”/AIの成果創出に進む日本企業、障壁は/7割の企業で「AIの不具合」、安全性や財務の影響実態、ほか

  4. 4位

    デジタル

    「前例をなぞって楽をしていた」―― 滋賀県のkintone活用を好転させた“失敗起点のフレームワーク”

  5. 5位

    デジタル

    ヤマハ、RTX840/RTX1300のDNS防御を強化 拡張ライセンス「YSL-CLDDNS」発売

  6. 6位

    sponsored

    「運用負荷を下げなければ、セキュリティは高まらない」 企業が直面するネットワーク運用の難題にどう向き合うか

  7. 7位

    デジタル

    ヤマハ、Wi-Fi 7対応「WLX333/WLX232」に運用支援機能 「Wi-Fi快適度」を可視化

  8. 8位

    ソフトウェア・仮想化

    VMwareはセキュリティを提供する企業 Broadcom買収から3年後の現在地

  9. 9位

    sponsored

    生成AI活用で業務変革を進める宇宙スタートアップ企業アストロスケールホールディングス(Microsoft 365 Copilot導入事例)

  10. 10位

    TECH

    【12/3・参加無料】情シスの皆さん、今年の“ヤバかった話”で忘年会しませんか? セキュリティ談義とクリスマスグルメで乾杯!

集計期間:
2026年10月31日~2026年11月06日
  • 角川アスキー総合研究所