【JSTnews9月号掲載】NEWS&TOPICS 研究成果「戦略的創造研究推進事業ERATO上田生体時間プロジェクト」
吸入麻酔はなぜ効くのか? 完全には解明されていないその仕組みを研究
2025年09月11日 12時00分更新
吸入麻酔薬は外科手術の全身麻酔などに不可欠ですが、どのような仕組みで効いているのかはまだ完全には解明されていません。これまでの研究で、吸入麻酔薬が作用して効果を発揮する細胞内のたんぱく質として複数のものが知られていますが、作用する仕組みに関わる未知の標的分子が他にも存在すると考えられています。
東京大学大学院医学系研究科の上田泰己教授らの研究チームは今回、吸入麻酔薬が「1型リアノジン受容体(RyR1)」と呼ばれる細胞内のたんぱく質を活性化し、この標的分子が全身麻酔の導入に関与していることをマウスの実験で初めて明らかにしました。
研究チームは、まず細胞株を用いた実験で、イソフルランをはじめとする吸入麻酔薬がRyR1を活性化し、細胞内の構造体である小胞体からのカルシウム放出を促すことを確認しました。次に、イソフルランに反応するRyR1と、反応しない2型リアノジン受容体をさまざまな割合で融合した受容体を作成し、イソフルランによる活性化に重要な役割を果たすRyR1のアミノ酸の箇所を特定し、その結合部位を推定。さらに、通常と異なるRyR1を持つように遺伝子改変を施したマウスは麻酔への感受性が部分的に低下すること、イソフルランの推定結合部位に作用する新規化合物をマウスに投与すると鎮静作用に近い効果があることを見いだしました。
この成果により、吸入麻酔薬が生体内でどのように作用し、全身麻酔を誘導するのかの理解が進みました。今後、より優れた麻酔薬や投与方法の開発につながる可能性があります。

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