スタートアップ=Jカーブじゃない?地域課題型への広がりと支援の変化
北島×ガチ鈴木の最近何してた?
大型イベントから見えた、資金の流れとグローバルの視線
北島:まずはIVS2025の話から。HVCからのはしごでの参加だったけど、展示など期待していたんだよね。「知らない何かがあるんじゃないか」と。ただ実際はなかなか大変で、情報量は非常に多く、イベントの表面をなぞっただけじゃ、なかなかわからないもんだね。
ガチ:人も多かったですし、若い方も非常に増えていました。おそらく今回のネットワーキング参加者は、過去最高レベルだったのではないでしょうか。自分も過去最大規模で多くの方とお話しできて、それもあって記憶が断片的に抜けてしまっているくらいです。
北島:サイドイベントもたくさんあったね。
ガチ:会場でVCの方から伺った話ですが、「投資マネーは世界的に見てもまだまだ余っていて、皆さん投資先を探している状況」とのことでした。加えて、円安の影響もあり、日本の企業、技術に注目が集まっているそうです。ただ、日本のスタートアップは国内市場しか見ていないケースが多く、ビジネスとして成立しにくいと判断されるようです。
北島:その視点の件は、昔から言われていることだよね。
ガチ:とはいえ、「日本が好き」という海外VCの方々もいらっしゃって、日本市場で腰を据えてビジネスを展開しようとしている動きもあるようですよ。また、ユニコーン規模を超えるスタートアップの成長のあり方についても、Open AIやイーロン・マスクのように最初から数千億〜1兆円規模の事業投資をして、圧倒的なスタンダードをつくるモデルしか成功例は難しいという見方も広がってきています。
一方で、「日本の地域課題を解決する」という方向性にも評価が集まりつつあります。日本は課題先進国ですので、そこで得たソリューションを他国に展開できるのではないかと考える投資家が少なくない、という話も伺いました。
ライフサイエンス分野の資金調達、回収の長期化
北島:IVSの前に、京都で開催されたHVC(ヘルスケア・ベンチャー・カンファレンス)にも参加したんだけど、ライフサイエンス系スタートアップでは、日本国内からの投資がなかなか得られないのが課題なんだよね。技術的には「(治験・臨床試験を超える見込みで)市場に出せる」という段階まで来ているにもかかわらず、出資が集まらない。だからこそ、ピッチも完全に英語で、最初から海外の投資家に向けたプレゼンを日本でやっているわけなんだけど。実際、海外調達で動く話も出ていたよ。
ガチ:ポジティブな動きとしては、既存の国内VCが7年程度での回収を前提とするモデルである一方で、LP出資やCVCではそのスパンを見直す動きが出始めています。特にCVCの場合、自社に関係する領域であれば回収までの時間をある程度待てるという利点があります。そうしたなかで、支援の仕組みを再構築しようという動きが少しずつ進んでいるように思います。
北島:必ずしも最短距離での収益化を目指す必要はなくて、少し時間がかかったとしても、中長期的に安定した収益が得られるなら、それもひとつの選択肢としてありだよね。
ガチ:そうですね。たとえば量子コンピューティングのような領域では、大企業でも20年、30年単位での取り組みを前提とするところです。テクノロジーの性質に応じて、時間軸を区別して考えるという発想も徐々に浸透しつつある印象です。
北島:日本でいくと、核融合関連のフュージョンエネルギーあたりもそっちだよね。
VCモデルの変化と「地域型スタートアップ」
ガチ:あとは、話題になるのが、東京証券取引所における「時価総額100億円」の壁です(参考:日本取引所グループ「グロース市場における今後の対応」)。これにより、従来のVCモデル──つまりグロース上場して、VCが回収するというパターンは、もはや成立しにくくなっています。
北島:いわゆるICT系のスタートアップが多数生まれていた時代の構造は、もう再現できないってことだよね。
ガチ:もちろん、ICT系でも100億円以上の市場規模が見込める企業には、引き続き投資が集中するでしょう。ただし、これまでのように比較的小規模でも上場すればよかったというやりかたは通用しなくなるでしょうね。
北島:そもそも「スタートアップ」って言葉の使われ方が、本当に広くなってきたよね。昔はJカーブを描いて急成長する企業を指していたけど、実態としてはそれだけじゃなくなってしまっている。
ガチ:短期間で急成長を目指すJカーブ型と、地域の課題に向き合いながら堅実に成長していくタイプの企業を、支援制度の設計段階から区別すべきという声が強くなっています。
北島:地方自治体が支援する場合、そもそも急成長なんて期待してないケースも多いよね。雇用を生んでくれるとか、地域のインフラに貢献してくれる企業のほうが評価されやすい。
ガチ:そうなんです。例えば自治体では、「うちの地元で着実に活動してくれている企業に支援したい」となるのが自然。ただ、それがJカーブ型でなければ「スタートアップじゃないのでは」と判断されてしまうと、制度と現場でギャップが生じてしまいます。
北島:Jカーブ型と地域密着型のスタートアップをどう支援設計に組み込むかは、今後の重要な論点かもしれないね。両者の特性に応じた評価基準や資金配分が求められる段階に来ている。
「新規事業部」から生まれるエコシステムの変化
北島:スタートアップという言葉が広がったことも含めて、最近、新しいプレーヤー・関係者が増えた感じがするよね。
ガチ:はい。その背景には、大企業における新規事業部門の増加があると思います。1つの企業内に複数の新規事業部署が存在しており、それぞれがスタートアップとの連携を個別に進めているケースもありますよね。
北島:「新規事業の1つとしてのスタートアップ連携」が、当たり前の雰囲気になってきたよね。
ガチ:ただ、そうした新規事業部の方々の中には、スタートアップとの付き合い方をまだよく知らない方も少なくありません。イベントでもよくセッションで語られているスタートアップとの向き合い方、10年以上関わってきた側からすると当たり前のことでも、それが共有されていない現場があるということです。
北島:だからこそ、今後も地道に伝えていく必要があるよね。すでに終わった話ではなく、繰り返し、重要なこととして発信していきましょう。




























