エンジニア魂が燃えたぎる!生成AI開発イベント「AI Challenge Day」 第9回
第4回AI Challenge DayはECサイトをAIエージェントで未来にシフト
便利なのに楽しくないネット通販 エンジニアたちが次の買い物体験を真剣に考えてみた
2025年07月18日 13時30分更新
ユーザーが本当に欲しいものを会話から汲み取るブレインパッド
4番手はブレインパッドの久津見 祥太氏。2004年に設立されたブレインパッドは、リテールや金融など幅広い領域でユーザー企業のデータ活用を支援してきた。これまで1400社以上でデータによる意思決定をサポート。現在は200名以上のデータサイエンティストのほかエンジニア、コンサルタントなどデータに知見を持つ多数のメンバーで構成されている。
今回は新卒3年目という若い5名でチーム構成。エージェントスコアは142.0点だった。「最初は18点くらいだったのですが、マルチエージェントやRAGの構想を考えて、この点数に行き着いた。でも、うまく商品を買ってくれなかったり、もう少し(点数を)上げたかったなと言うのが本音です」(久津見氏)。
今回はマルチエージェントシステムを採用し、顧客対応のマネージャー、リサーチ、決済のトランザクションの3種類のエージェントを用意し、自身のタスクに専念できる環境を構築した。それぞれのエージェントがひも付けられたツールを利用し、データにアクセス。セマンティックハイブリッド検索を活用したり、データごとのインデックスを生成することで、自動で探索空間を切り替えることで、検索の精度を向上させた。
今回は「『検索』から『対話』へ、『推定』から『理解へ』」というコンセプトで開発を進めた。これまでは検索からレコメンドを行なったり、ランキングが表示されるというものだったが、AIエージェントの登場でユーザーとの対話が可能になっている。「これまでのID-POS、顧客マスター、行動ログなどのデータからの推定だけではなく、その場の気持ちや状況を知り、顧客の今に寄り添えると思っています」と久津見氏。単に商品を売るだけではなく、お客さまの目的を叶えるための提案ができる。これが今回のシステムの価値だという。
次世代の顧客体験も披露される。これまで店頭でしか受けられなかった対話や相談をエージェントと行なうことで購入につながり、さらにアフターサービスからパーソナライズまでの一気通貫の体験が行なえるというのがユーザー側の体験。また、店舗側も、これまで過去のデータだけでは難しかった顧客理解や共感に基づく購買喚起や提案までが可能になる。こうした新しい購入体験はエンゲージメントを高め、LTVの最大化につながるという。
カスタマーストーリーでは、「ユーザーが言葉に出している欲しいもの」と「ユーザーが本当に欲しいもの」には実は乖離があるのではないかという仮説があったという。たとえば、「軽量なPCがほしい」という大学生に対して、「いつ使うのか」「どうして欲しいのか」などのハイコンテキストな対話をエージェントと繰り返すことで、言葉にできない真のニーズや意図を汲み取り、本当に価値のある商品を提案する。これがユーザー側のカスタマーストーリーになる。
一方、店舗側は「表面的な購買意図から、隠れていた購買ポテンシャルを発見する」ことが可能になる。たとえば、「就活用のスーツってどれがいい?」という質問に対して、「清潔感が大事」「どんな業界?」といったハイコンテキストな対話をエージェントで重ねる。これにより、スーツ単体の購入にとどまらず、就活の成功という真の目的を見据えて、オンライン面接で便利な高画質なWebカメラまでクロスセルで提案できるという。
目指すカスタマーストーリーや顧客体験は明確だったが、エージェントの実装までは手が付かなかった。「将来的には一気通貫で相談から購入まででき、使い慣れたチャットUI、リアルタイムAPIを用いた音声認識の検索などを想定している」と久津見氏は語る。また、エンタープライズ実装についても未実施部分は多く、パフォーマンス、セキュリティ、コストといった非機能要件も考慮しなければならないと語った。
まとめとして、久津見氏は「『こういうのを作りたい』という目標に向けて、実際作ってみると動かないとか、さまざまな質問に対して網羅的に返答できるようにするのは難しいといったことを痛感した」とコメント。一方で、みんなで取り組むことで、「文化祭のような楽しみが生まれ、いい経験ができた」という感想もあった。
スキルアップNeXtの小縣信也氏は、「カスタマーストーリーは本当にその通りだなと思いました。ユーザーが指定したものを出すのではなく、本当に欲しいものを深掘りするというのは大事なこと。これがまさに次世代の検索システムになるんだと思いました。運営側でモニタリングさせてもらったが、投稿の件数自体は多くないけど、着実に点数を上げていた。想像なんですけど、仮説を立て、それを実践することで点数を上げていったのではないか。戦略がうまいと思っていました」と語った。
マイクロソフトのサービスにチャレンジしてみたクラスメソッド
5社目はまさかのクラスメソッド。大村貴俊氏は「ブログの会社です。この場では大人の事情で言いづらいブログが多いです。Azureをメインに使っていないメンバーが集まりました」とのこと。普段はAIのデータクレンジングにあまり関わらないメンバーをあえてアサインし、「イチからやるとどれくらいまでできるのか?をやらせてもらいました」ということで、5人のチームを構成した。
エージェントのスコアは149.400点。「もう少し点数上げられたかなというのが、われわれの総意だったりします」(大村氏)とのこと。カスタマーストーリーチームでは、ペルソナを一般客、子供、外国人、サブスク希望、クレーマーなどの7パターンに分け、慣れている人には少ない手順で、慣れていない人には手順を説明するという方針で設計。また、利用者の年齢も幅が合ったため、購買層を特定した魅せ方、予算を考慮した魅せ方などを考慮したという。
店舗目線のカスタマーストーリーでは、「1つのエージェントですべてのストーリーに答えるのは難しい」という前提から、エージェントの役割分担を考えた。具体的には、買い物のカート担当、クレーマー担当、外国人のお客さま担当、別の商品を勧める担当、会員ユーザーを新規獲得する担当などを用意し、それぞれを連携させればエージェントを柔軟に増やせるという。「季節商品を扱うエージェントを期間限定で開放するみたいなことが可能になる」と大村氏は語る。
アプリケーションスタックとしては、NodeとAgent Mastraを使い、MCPは使わずに、データベース、Web API、RAGなどを素直に呼びだすツールとして作った。エージェントがまとめて行なうワークフローに関しては、複数のツールやユースケースをまとめて呼んでいる。また、インターネット経由で不特定多数に利用されることを前提に、WAFの実装や監視の導入、Private Endpointの設置などを行なった。
実装時の工夫としては、「非構造化データのOCR化」「AI Searchによるセマンティックハイブリッド検索を構築」などを行なった。また、本来はRAGの非構造化データから構造化データという順番での検索が理想だが、実装時間が不足したため、RAGの検索結果と商品IDをひも付けるメタデータが作れなかった。そのため、ECエージェントが商品詳細を把握するため、構造化データから非構造化データへという順番で検索するようにした。「妥協した」とのことだが、これでも購入にはたどり着けたという。
大村氏は、「データソースの種類が多かったため、データの接続確認や前処理、ペルソナユーザーの状況確認に手が及ばなかったのは、今回もったいなかった。エージェントの工夫や改善にもっと時間を使いたかった」とコメント。とはいえ、何人かはAzure初めてというメンバーだったが、この短期間にシステムを組み上げ、点数も出たということで、手応えも感じたようだ。
日本マイクロソフトの内藤稔氏は、「まずは出てきていただいて、本当に感謝しています。いろんな意味で(笑)。僕が大谷さんといっしょにマイクロソフトのイベントでクラスメソッドさんの発表を聞くなんて、数年前は思ってもいなかったので。いろんな意味で。短い時間の中で、いろいろ学んでいただき感謝していますし、スコアがここまで伸びたのもすごいと思っています。あと、カスタマーストーリーで役割ごとにエージェントを分けるという話は秀逸で、いろいろな役割あるなと思って聞いていました。これを機会にぜひ仲良くしていただきたい」とコメントした。

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